何の解決にもなってない(ゴカム/現パロ杉辺)
タイトルはこのお話を書き終わったときの私の感想です。
自分でもよくわからなくなってしまいました。まさに意味不明です。
またしてもえちちはなしです。ごめんなさい。
保健室の先生へんみちゃんと定時制高校に通うすぎもとくんです。趣味に走りました、ごめんなさい。でもめっちゃ楽しく書かせていただきました!よろしくお願いいたします🙇2024.11.1
──────
僕の弟は、幼いながらに正義感と向こう見ず、そして少しの傲慢さを元気いっぱいにふりまく子でした。両親の畑仕事を手伝うと言って堂々と泥遊びに転じることもあれば、裏山から下りてきて村中の畑を荒らしていく獣に憤って、入ることをかたく禁じられていた裏山に登ろうとしてこっ酷く叱られても懲りないなど。
どちらかといえば身体が強くなく、家で筆をとって漢字の練習をしたり、ゆっくりでも算盤を弾いたりする方が性に合っていた僕とは正反対と言っても良かったかもしれません。
でも兄弟仲は悪くはなかったんです。あの子は僕を兄として慕ってくれていたように思いますし、僕も弟が純粋にかわいかった。
あの日。村の大人達が集会所に出払ってしまっていたあの日、僕と弟はふたり、薄暗い家の中でお手玉で遊んでいました。ですが、活発なあの子がそれで満足するはずもなくて。兄ちゃん、裏山に登ろう。と、誘ってきました。僕はその日あまり調子が良くなくて、それに大人達からもきつく言いつけられていたので、弟の提案をやんわり断りました。あの子は大人達の役に立ちたかったのでしょうか、布団の上に座る僕に、あの獣をとっちめてやるんだ、と宣言して家を飛び出していきました。……あの時、もっと強く引き止めていれば。もっと早く追いかけていれば。
そこまでゆっくりと語り、辺見先生は言葉を区切った。
口元は微かに笑みを浮かべているが、湯呑みを持つ手が震えている。
黒目がちな瞳は自らの手元に向けられているはずなのに焦点を結んでいない。
バイト帰りに土砂降りの中走って帰路を急いでいたら、ふらりと路地裏から歩み出てきた辺見先生を見つけた。色々訊きたいことはあったけど、うつろな目をして俺を見上げた彼の手を取り咄嗟に自宅のアパートまで走った。
俺はこのひとを『知っている』。
知っていると言うのは、彼が特殊な刺青を纏う連続殺人鬼だったあの時代のことだ。物心つく頃に突然蘇ったその記憶の中に彼はいた。正直なところ彼と出会った後の冒険が強烈過ぎて、記憶の中の"辺見和雄"は随分薄ぼんやりとしていた。けれど、その魂の煌めきだけはやけに鮮明で、独りきりだった幼い俺のこころをほわりとあたためてくれた。中学校に上がる頃には昔の俺、"不死身の杉元"を覚えてくれている奴らとも出会えて、孤独感は多少癒えた気がしたけど、俺は胸の奥の煌めきを無意識に探し続けていた。
いまでもあのときの衝撃は忘れられない。
同級生より数年遅れて地元の定時制高校に入学した俺が、体育の授業で少し無茶をして運び込まれた保健室に彼がいたのだ。バイト三昧の俺は入学式にも出席していなかったので、彼──辺見先生の存在すら知らなかった。
ぱたぱたと俺の方に小走りでやって来た彼の心配そうな、そして小さな煌めきを散りばめた真っ黒な眼を見た瞬間、俺の全身は沸騰したように熱くなった。
──このひとだ。俺の中でずっと煌めいていてくれたのは。
「お名前とクラスを教えてください」
確信を得た俺に向けられた言葉の意味を理解するのに数秒かかった。
「ぇ、えと、すぎもとです。……杉元佐一。一年A組です……」
あの浜辺での約束通り、とはいかずとも、記憶にあるこのひと思い出し、探し求めていた。だから辺見先生の言葉を聞いた瞬間の俺の落胆は凄まじかった。
突然シュンとしてしまった俺を見て、理由はわからなくても盛大にへこんでいることは分かったらしく、辺見先生はわたわたと明るい声音で言った。
「ああ、あなたが杉元くんですかぁ。職員室で噂になっていましたよ、今年はすごく元気な子がいるって」
良くも悪くも、ね。
そう言ってジッとこちらをのぞき込む上目遣いにものすごく見覚えがある。それなのに。このひとは俺を覚えちゃいない。
すごくさびしかった。こころの拠り所を取り上げられてしまったような気持ちで俺は怪我の処置を受け、その後の授業は出ずに帰宅した。退室するとき、「……杉元くん、」と何かを言いかけた辺見先生を振り返ることもできなかった。
それから半年経つ。
結局学校の内外で怪我をしてくる俺を、甲斐甲斐しいとも表現できそうな所作で何度も処置してくれる辺見先生に俺は次第に惹かれていった。このひとは連続殺人鬼の辺見和雄ではない、今の世を生きる優しい保健室の先生なんだ。俺が軍人でもなく人を殴っても殺したことはないように。そう思うと少し納得もいった。物足りなさはもちろん、あったけど。いつかちゃんとこの想いを告げよう。そう思って、授業もきちんと受けるようになった。このひとの優しさに見合う人間になりたいと思った。そんな矢先に眼の煌めきを失ったずぶ濡れのあのひとを見つけて、俺の心臓は大きくドクンと脈打った。もしかして……と思って辺見先生が現れた路地裏を覗き込んだがそれは杞憂に終わった。そこには俺の夢想した血溜まりと滅多刺しの骸はなかった。胸をなでおろしつつ、少しだけ残念な気持ちの自分を内心で叱りつけ、辺見先生の手を引いた。
彼が今語っているのは、現代のことではない。どこか遠くを見る眼は、ここではないどこか、おそらくはあの時代に向けられている。
この時を待っていた、けれどこんなにつらそうな彼を見るのは想定外だった。
凪いだ表情で辺見先生は話の続きを紡ぎ出した。
"今の僕"にも弟がいます。ちゃんと、生きてくれています。けれども弟が生まれてきてくれたときから、時折鉄と青い匂いが入り混じった香りがするようになりました。幼いことも相まって、最初は気にも留めていませんでした。長じるに連れ、その香りが竹林と血液のにおいなのだと気づくまでは。夢にね、見るんですよ。弟そっくりの小さな命が、むごたらしく食われていくのを。光を失った弟の眼が、あのこを見殺しにした僕を見ているのを。その夢を見た後目が覚めると必ず……。
辺見先生は言葉を選んでいるのか視線を彷徨わせた。とても後ろめたそうな表情で悩んだあと、諦めたようにひとつため息をつく。
「僕は、今も昔も最低な存在です。弟の死を煌めきなどと嘯いて、自分に誤認させていたに過ぎません。自分で自分についた嘘を本当にする為に何人もの命を奪い続けた殺人鬼です。生きていてはいけないんです」
「……やめろよ、せんせ」
「ああ、ごめんなさい。杉元くんの優しさにつけ込んで、こんな、意味のない妄想を話して聞かせてしまいました。忘れてください、全部」
そう言った辺見先生は、やっと顔を上げて俺を見た。疲れた顔に無理な微笑みを張り付けて。
俺は無言で立ち上がり、彼のすぐ横まで歩み寄った。少し怯えたように俺を見上げる辺見先生は随分小さく見えた。ああ、このひとのこころは竹林に取り残されたままなんだ、今も、昔も。俺があの春の冷たい海辺まで連れて走ったのに。
無性に彼を抱きしめたくなる。だが、それと同時に自分でも抑えが効きそうにない衝動に駆られる。これ以上は危険だ。離れなくては。頭の中で警鐘が鳴り響いている。俺は部屋のすみまで移動してうずくまり彼から距離を取った。
「杉元くん……?」
辺見先生の優しい声が震えている。俺のせいだと思うと柄にもなく涙腺が緩んだ。でも、どうしても伝えたいことがあった。
「……ッ!」
「え……?」
「忘れろなんて言うなよぉ! 約束したじゃん! あんたが『忘れないでいてくれますか』って言ったんじゃん! だから俺、一生懸命今のあんたのこと探したし、霞がかった記憶を思い出そうとして血が出るまで壁に頭打ちつけたりしたんだよぉッ!」
そう声を荒げて洟をすする。すすす、と畳の上を移動する音がしたので顔を上げると、すぐそばに辺見先生が座っていた。彼はくすっと微笑むと、俺の肩にしなだれかかるようにして凭れてきた。
「ねえ、"杉元さん"。ごめんなさい。ありがとう。いま僕、とっても満たされた気持ちなんです。ごめんなさい。あなたが僕を覚えてくれていて、弟は生きていて、こうしてかつて焦がれたあなたに触れることをゆるしていただいている」
だからね、
「僕を殺してください。記憶が戻った今、かつての僕が殺めてきた方たちの顔を、抵抗を、思い出してしまった。この記憶を抱いたまま生きていく覚悟、今の僕には無いんです。最低な自覚はあります。あなたにすべてを背負わせようとしているのも。ああ、でもやっぱり、僕は"僕"なんですかね? 杉元さんになら殺されたいと、最期まで見ていてほしいと願ってしまう」
"辺見"はそこまでゆっくりと話し終えると、俺の腕を取って手のひらで自身の頸を握らせようとする。
それを振り払うように拒絶すれば、切なげに微笑まれる。
「どうか、泣かないで」
頬を親指の腹で幾度も拭う辺見。
「正直、どうして杉元さんが泣いていらっしゃるのか、僕には分かりません。僕は身勝手な人殺しですから、ひとの機微なんて分からないんですね。すみません」
彼の話を聴いていて、俺はどうしようもなくこのひとに生きていて欲しくなった。だって、こんなに優しくて、いつもひとの怪我の心配をおろおろして、禊ぎが済んだはずの過去の罪にこころを痛めているひとが、本人が言うような最低な存在なわけが無い。
それでも、殺せというのなら。
「俺が死ぬとき、あんたを殺すよ」
自分でもよくわからなくなってしまいました。まさに意味不明です。
またしてもえちちはなしです。ごめんなさい。
保健室の先生へんみちゃんと定時制高校に通うすぎもとくんです。趣味に走りました、ごめんなさい。でもめっちゃ楽しく書かせていただきました!よろしくお願いいたします🙇2024.11.1
──────
僕の弟は、幼いながらに正義感と向こう見ず、そして少しの傲慢さを元気いっぱいにふりまく子でした。両親の畑仕事を手伝うと言って堂々と泥遊びに転じることもあれば、裏山から下りてきて村中の畑を荒らしていく獣に憤って、入ることをかたく禁じられていた裏山に登ろうとしてこっ酷く叱られても懲りないなど。
どちらかといえば身体が強くなく、家で筆をとって漢字の練習をしたり、ゆっくりでも算盤を弾いたりする方が性に合っていた僕とは正反対と言っても良かったかもしれません。
でも兄弟仲は悪くはなかったんです。あの子は僕を兄として慕ってくれていたように思いますし、僕も弟が純粋にかわいかった。
あの日。村の大人達が集会所に出払ってしまっていたあの日、僕と弟はふたり、薄暗い家の中でお手玉で遊んでいました。ですが、活発なあの子がそれで満足するはずもなくて。兄ちゃん、裏山に登ろう。と、誘ってきました。僕はその日あまり調子が良くなくて、それに大人達からもきつく言いつけられていたので、弟の提案をやんわり断りました。あの子は大人達の役に立ちたかったのでしょうか、布団の上に座る僕に、あの獣をとっちめてやるんだ、と宣言して家を飛び出していきました。……あの時、もっと強く引き止めていれば。もっと早く追いかけていれば。
そこまでゆっくりと語り、辺見先生は言葉を区切った。
口元は微かに笑みを浮かべているが、湯呑みを持つ手が震えている。
黒目がちな瞳は自らの手元に向けられているはずなのに焦点を結んでいない。
バイト帰りに土砂降りの中走って帰路を急いでいたら、ふらりと路地裏から歩み出てきた辺見先生を見つけた。色々訊きたいことはあったけど、うつろな目をして俺を見上げた彼の手を取り咄嗟に自宅のアパートまで走った。
俺はこのひとを『知っている』。
知っていると言うのは、彼が特殊な刺青を纏う連続殺人鬼だったあの時代のことだ。物心つく頃に突然蘇ったその記憶の中に彼はいた。正直なところ彼と出会った後の冒険が強烈過ぎて、記憶の中の"辺見和雄"は随分薄ぼんやりとしていた。けれど、その魂の煌めきだけはやけに鮮明で、独りきりだった幼い俺のこころをほわりとあたためてくれた。中学校に上がる頃には昔の俺、"不死身の杉元"を覚えてくれている奴らとも出会えて、孤独感は多少癒えた気がしたけど、俺は胸の奥の煌めきを無意識に探し続けていた。
いまでもあのときの衝撃は忘れられない。
同級生より数年遅れて地元の定時制高校に入学した俺が、体育の授業で少し無茶をして運び込まれた保健室に彼がいたのだ。バイト三昧の俺は入学式にも出席していなかったので、彼──辺見先生の存在すら知らなかった。
ぱたぱたと俺の方に小走りでやって来た彼の心配そうな、そして小さな煌めきを散りばめた真っ黒な眼を見た瞬間、俺の全身は沸騰したように熱くなった。
──このひとだ。俺の中でずっと煌めいていてくれたのは。
「お名前とクラスを教えてください」
確信を得た俺に向けられた言葉の意味を理解するのに数秒かかった。
「ぇ、えと、すぎもとです。……杉元佐一。一年A組です……」
あの浜辺での約束通り、とはいかずとも、記憶にあるこのひと思い出し、探し求めていた。だから辺見先生の言葉を聞いた瞬間の俺の落胆は凄まじかった。
突然シュンとしてしまった俺を見て、理由はわからなくても盛大にへこんでいることは分かったらしく、辺見先生はわたわたと明るい声音で言った。
「ああ、あなたが杉元くんですかぁ。職員室で噂になっていましたよ、今年はすごく元気な子がいるって」
良くも悪くも、ね。
そう言ってジッとこちらをのぞき込む上目遣いにものすごく見覚えがある。それなのに。このひとは俺を覚えちゃいない。
すごくさびしかった。こころの拠り所を取り上げられてしまったような気持ちで俺は怪我の処置を受け、その後の授業は出ずに帰宅した。退室するとき、「……杉元くん、」と何かを言いかけた辺見先生を振り返ることもできなかった。
それから半年経つ。
結局学校の内外で怪我をしてくる俺を、甲斐甲斐しいとも表現できそうな所作で何度も処置してくれる辺見先生に俺は次第に惹かれていった。このひとは連続殺人鬼の辺見和雄ではない、今の世を生きる優しい保健室の先生なんだ。俺が軍人でもなく人を殴っても殺したことはないように。そう思うと少し納得もいった。物足りなさはもちろん、あったけど。いつかちゃんとこの想いを告げよう。そう思って、授業もきちんと受けるようになった。このひとの優しさに見合う人間になりたいと思った。そんな矢先に眼の煌めきを失ったずぶ濡れのあのひとを見つけて、俺の心臓は大きくドクンと脈打った。もしかして……と思って辺見先生が現れた路地裏を覗き込んだがそれは杞憂に終わった。そこには俺の夢想した血溜まりと滅多刺しの骸はなかった。胸をなでおろしつつ、少しだけ残念な気持ちの自分を内心で叱りつけ、辺見先生の手を引いた。
彼が今語っているのは、現代のことではない。どこか遠くを見る眼は、ここではないどこか、おそらくはあの時代に向けられている。
この時を待っていた、けれどこんなにつらそうな彼を見るのは想定外だった。
凪いだ表情で辺見先生は話の続きを紡ぎ出した。
"今の僕"にも弟がいます。ちゃんと、生きてくれています。けれども弟が生まれてきてくれたときから、時折鉄と青い匂いが入り混じった香りがするようになりました。幼いことも相まって、最初は気にも留めていませんでした。長じるに連れ、その香りが竹林と血液のにおいなのだと気づくまでは。夢にね、見るんですよ。弟そっくりの小さな命が、むごたらしく食われていくのを。光を失った弟の眼が、あのこを見殺しにした僕を見ているのを。その夢を見た後目が覚めると必ず……。
辺見先生は言葉を選んでいるのか視線を彷徨わせた。とても後ろめたそうな表情で悩んだあと、諦めたようにひとつため息をつく。
「僕は、今も昔も最低な存在です。弟の死を煌めきなどと嘯いて、自分に誤認させていたに過ぎません。自分で自分についた嘘を本当にする為に何人もの命を奪い続けた殺人鬼です。生きていてはいけないんです」
「……やめろよ、せんせ」
「ああ、ごめんなさい。杉元くんの優しさにつけ込んで、こんな、意味のない妄想を話して聞かせてしまいました。忘れてください、全部」
そう言った辺見先生は、やっと顔を上げて俺を見た。疲れた顔に無理な微笑みを張り付けて。
俺は無言で立ち上がり、彼のすぐ横まで歩み寄った。少し怯えたように俺を見上げる辺見先生は随分小さく見えた。ああ、このひとのこころは竹林に取り残されたままなんだ、今も、昔も。俺があの春の冷たい海辺まで連れて走ったのに。
無性に彼を抱きしめたくなる。だが、それと同時に自分でも抑えが効きそうにない衝動に駆られる。これ以上は危険だ。離れなくては。頭の中で警鐘が鳴り響いている。俺は部屋のすみまで移動してうずくまり彼から距離を取った。
「杉元くん……?」
辺見先生の優しい声が震えている。俺のせいだと思うと柄にもなく涙腺が緩んだ。でも、どうしても伝えたいことがあった。
「……ッ!」
「え……?」
「忘れろなんて言うなよぉ! 約束したじゃん! あんたが『忘れないでいてくれますか』って言ったんじゃん! だから俺、一生懸命今のあんたのこと探したし、霞がかった記憶を思い出そうとして血が出るまで壁に頭打ちつけたりしたんだよぉッ!」
そう声を荒げて洟をすする。すすす、と畳の上を移動する音がしたので顔を上げると、すぐそばに辺見先生が座っていた。彼はくすっと微笑むと、俺の肩にしなだれかかるようにして凭れてきた。
「ねえ、"杉元さん"。ごめんなさい。ありがとう。いま僕、とっても満たされた気持ちなんです。ごめんなさい。あなたが僕を覚えてくれていて、弟は生きていて、こうしてかつて焦がれたあなたに触れることをゆるしていただいている」
だからね、
「僕を殺してください。記憶が戻った今、かつての僕が殺めてきた方たちの顔を、抵抗を、思い出してしまった。この記憶を抱いたまま生きていく覚悟、今の僕には無いんです。最低な自覚はあります。あなたにすべてを背負わせようとしているのも。ああ、でもやっぱり、僕は"僕"なんですかね? 杉元さんになら殺されたいと、最期まで見ていてほしいと願ってしまう」
"辺見"はそこまでゆっくりと話し終えると、俺の腕を取って手のひらで自身の頸を握らせようとする。
それを振り払うように拒絶すれば、切なげに微笑まれる。
「どうか、泣かないで」
頬を親指の腹で幾度も拭う辺見。
「正直、どうして杉元さんが泣いていらっしゃるのか、僕には分かりません。僕は身勝手な人殺しですから、ひとの機微なんて分からないんですね。すみません」
彼の話を聴いていて、俺はどうしようもなくこのひとに生きていて欲しくなった。だって、こんなに優しくて、いつもひとの怪我の心配をおろおろして、禊ぎが済んだはずの過去の罪にこころを痛めているひとが、本人が言うような最低な存在なわけが無い。
それでも、殺せというのなら。
「俺が死ぬとき、あんたを殺すよ」
