無題(ゴカム/現パロ杉辺)

あまりにも荒削り過ぎたので少しだけ加筆修正させていただきました。2024.10.29

こちらはロム専と決めていたのに……。

前世の記憶なしのすぎもとさんと記憶持ちへんみちゃんのお話。

ただただ趣味に走った上に急繕いでいろんなものが足りてません。
もっといろいろ書きたい(特にえちちな場面を入れたかった)けど私には無理でした。色っぽい戦いも書けません。精進します。ごめんなさい。

ちなみにこのすぎもとさんはちゃんと働いております。具体的には決めておりませんが……。
こまけぇこたいいんだよの精神でお読みいただければ幸いです。2024.10.27

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 俺の初恋は年上の男の人だった。

「へんみせんせぇ〜! またゆびきっちゃった〜!」
「杉元さん、お絵かき中にハサミを振り回してはだぁめ、ですよ。そのおどうぐは紙を切ったり、僕の頸動脈を掻っ切ったりするためのものですからねぇ」

「ぶらんこ、ぐりぐりしてたらからまっちゃったぁ!」
「おやおや……ぅ、ふう。指を挟んでしまったらたいへんです。とりあえず降りて、できれば今度は僕を鎖で絞め殺すときにぐりぐりしてくださいねぇ」

 おっとりした口調で、ちょっぴりむずかしいことを言うけれど、俺にとって誰よりも信用できて安心できるひと。今思うと、その若さの割に少し不思議なくらい落ち着いた雰囲気を纏っていて、それが魅力でもあった。いつも困ったように眉をハの字にして微笑んでいるのが印象的で、その柔和な雰囲気ゆえか、園児たちだけでなく親御さんたちにも信頼されていたように思う。
 卒園式の日、泣きじゃくってさんっざん駄々捏ねて、初恋の相手──辺見先生の腰に抱きついて離れなかったのを思い出し少し気恥ずかしくなる。
「へん、みしぇんしぇ、おれのこと、わすれないでねぇっ」
 と、懸命に訴える俺の頭をやさしく撫でて。俺の目線に合わせるためにしゃがんで、指切りげんまん。
「もちろんですよ。杉元さん、どうかお元気で、お勉強などもがんばって。……もし大きくなっても僕なんかのこと覚えてくれていたら、僕を───に来てくださいね。ずぅーっと待ってますから」

「……なんで大事なとこ忘れてんだよ、俺」
 でもどうしても思い出せないんだよなぁ、と独りごちる。十余年程前お世話になった、件の幼稚園の門前で。というのも、この春からまたこの幼稚園にお世話になるからだ。あ、いや、もちろん俺自身、じゃなくて知人からあずかった娘さんが。一ヶ月よろしく頼む、とは言っていたけど、仕事柄もっと期間が延びる可能性もある。俺を信用してくれてのことだとは分かっているが、少し気が重い。幸いなことに娘さん、もとい明日子さんはとても活発だが同時に利発で分別のある子なのでそこが救いか。
「杉元、はやくいくぞ!」
 晴れ着を着た明日子さんが俺の手を握り、興奮気味にずんずんと進んでいく。
 俺は、もしかすると辺見先生がまだここに勤めていらっしゃるかも……という淡い期待を抱いて歩き出した。

 結論から言うと、俺の初恋のひとはまだ其処にいた。
 入園式の日、先生たちが並ぶ中に彼を見つけたのだ。記憶と違わぬ柔和な雰囲気、園児たちを見守る優しい眼差し。
 式などそっちのけで辺見先生をじっと見つめていると、熱視線を送り過ぎたのか彼が視線だけをちろりとこちらに向けた。視線が絡んだ瞬間、多幸感が脳天からつま先までをびりびりと駆け抜けた。辺見先生は少し動揺したように視線を彷徨わせた後、足元に視線を落とした。その横顔は、かすかに紅く染まっていたように思う。

「おはようございます、明日子さん。……杉元さん」
 しゃがみ込んで明日子さんとハイタッチし、さわやかに朝のご挨拶。そしてこころなしかじっとりと湿っているような、熱の籠もった声で俺の名を呼んでくれている、気がする。俺を見上げる目も潤んでいる……気がする。頬もあの日のように紅色。
「辺見先生、おはようございます。今日もよろしくお願いします」
 ぺこりと頭を下げると、まあるい声で返事をくれる。
「はぁい。安心しておまかせください」
 頭を上げて改めて辺見先生を見つめる。というか凝視してしまう。目元に小皺があるくらいで、当時の彼とほとんど差が見受けられない。煌めく黒い瞳に吸い込まれそうになるのはあの時から変わらない。困ったな、と思っていそうな眉も、きゅむっと引き結んだ小ぶりな唇も。
 ……かわいい。
「……あの、なにか……?」
「え、ぁ! スミマセン。ちょっと見惚れちゃって……あ」
「み、みとれちゃって?」
 ぽふんと真っ赤になってうつむく辺見先生。
 かわいい!
「こちらこそごめんなさいっ。僕のことかと勘違いしてしまいました。こんなおじさん相手に、そんな訳ないですよね……」
 ずいと身を寄せ、わたわたしている辺見先生の耳元でそっと囁く。
「あんたのこと、なんですけど……」
「ぇえっ?!」
 ここが朝の幼稚園の門前じゃなければ優しく押し倒しているところだった。あぶないあぶない。このひととはもっとじっくりゆっくりと、いろんなことを進めて行きたいんだ。あの時はそうはいかなかったから。
 ……ん、あの時っていつのことだっけ。

 そろそろ入園式から四週間が経とうとしている。
 俺はめちゃくちゃ焦っていた。
「なんも進展してねぇ……!」
「どうした、杉元?」
「あぁ、ごめんね明日子さん。ちょっとへこんじゃって」
「なやみごとか? めずらしいな。私が帰ってしまうのがさびしいのか」
「たしかにそれもあるけどもぉ……」
 もじもじと指先をこすり合わせる。すると明日子さんがしたり顔で言った。
「辺見のことか」
「……えぇ~? どうして〜?」
「杉元はあいつをみるとき、こいするおとめのかおをしている」
「明日子さん、それ意味わかって言って……るよねぇ」
 この一ヶ月で明日子さんの賢さは十二分に分かっているつもりだ。
「そして、辺見も杉元をみるとき、こいするおとめになる。たがいにエンリョしていてはなにもすすまないぞ!」
 荷造りをしながら、明日子さんが彼女なりの激励をくれる。
 明日が登園最終日。
「決戦は……明日だ」
 でないとただ幼稚園の周りをうろつく不審者になってしまう。

 どうしてこんな事に……?
 辺見先生のお宅で、包丁を握って考える。目の前には包丁片手ににこにこしている辺見先生が立っている。
 明日子さんの言う通り、押してみたらすんなりお家に誘ってくれた辺見先生。いきなりお宅になんて……紳士でいれる自信がないけど、そこはもう我慢だ杉元! と自分を叱咤激励しつつ。先にふたりでコンビニに寄って、宅飲みの準備をしながら仲良く歩いて家に入った途端、辺見先生にどこに隠していたのか、包丁で斬りかかられた。咄嗟に自分でも意外なほど体が軽く、勝手に動いて斬撃を躱していた。
「辺見先生……どうして」
「どうしてって、このために誘ってくださったんでしょう? 杉元さん」
 相変わらず満面の笑みを浮かべている彼から思わず目を逸らせば、一瞬で間合いを詰められる。逆手持ちで振り下ろされる包丁を彼の腕ごと止めれば、俺の一挙手一投足を堪らないといった様子で、また、心底愛しそうに見つめてくるのが異様だ。
 渾身の力で包丁を取り上げると、辺見先生は懐から別の包丁を取り出した。紅潮した頬を両手で包み、潤んだ瞳で、恋する乙女のように身をよじる。
「約束通り僕、ずぅーっと待ってました、杉元さんのこと。いつ思い出してくださるのか。いつ僕を煌めかせてくれるのか。ずぅーっと、ずぅーっと待ってました! そしてついに今日という日が来てくれた!」
「なに……言ってんだよッ!」
 思わず声を荒げると、俺をあのじっとりとした眼で見上げてくる。
「もっと……もっとです! なんの因果かこの世に再び生を受けて、あなたの誕生を、成長を、出逢いを、待ちわびていたんです。まだ足りません! 僕を存分に煌めかせて、そして襤褸切れのように殺してくださいぃ!」
「ちょ、ちょっと待って。煌めくって何……? 俺があんたを殺すって……? そんなことするわけないでしょ……」
 カラン、と包丁が辺見先生の手から落ちる。信じられないものをみる目で彼が俺を見つめている。
「辺見先生……?」
「あぁ、そうか。今の杉元さんにとって僕は教諭の一人でしかないんですね。……なぁんだ、糠喜びかぁ」
 切なく微笑んで、辺見先生が再び包丁を拾い上げる。
「では、さようならです。杉元さん」
 瞳孔の開き切った目で俺を見る辺見先生。
 見覚えがある気がした。俺はこの眼をしたこのひとと対峙したことがある。たしか、海辺だった。波打ち際で彼と何かを約束したような。
 卒園するときの、彼の言葉が頭の中でこだまする。
『……もし大きくなっても僕なんかのこと覚えてくれていたら、僕を"殺し"に来てくださいね』
 思い出した。やっと合点がいった。その瞬間、走馬灯のように前世の記憶(とでも呼べば良いのか)が脳裏に蘇る。
 その中に、奴はいた。
「辺見……和雄」
「はぁんッ」
 "辺見"は腰砕けを起こしたようにその場にへたり込んだ。
「杉元さん、まさか」
「……ああ。思い出したよ。全部な。もちろんおまえとの約束も。わるかったな。思い出すのに随分と時間がかかっちまった」
 きらきらした黒目がちな目がこちらを期待の眼差しで見上げてくる。
「それでは……僕を煌めかせてくださるんですねッ!?」
 全身のバネを活かして刃を向けてくる辺見を最小限の動作で避ける。ガラ空きになった背中に肘を落とせば「はぅん」と悶えたのがデジャヴだった。
 床に倒れ込んだ辺見の腹の上に馬乗りになる。
 包丁を振り上げ。
 辺見の顔の真横、床に突き立てた。
 え? という不満そうな顔をしている辺見を見下ろして言う。
「今の世に殺し合いは必要無ぇ。それにやっぱり俺には"辺見先生"は殺せねぇよ。他にも強い奴らはいるだろうに、俺が生まれてここまで来るのをひたすら一途に待っててくれたんだろ? 正直なところ、」
 愛おしさしかねぇんだよ。