9センチメートルにかける想い
もふもふんさんには「爪先立ちの恋だった」で始まり、「ずっと子供でいたかった」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば8ツイート(1120字)以内でお願いします。
https://shindanmaker.com/801664
お題元さまはこちら↑です。
ナクキルの身長差が判明した時期くらいに出てくれていたお題さんですが、ぴったりじゃないか……!と思うと同時に逆に手を出せずにおりました。弊サイトのナクキルを良いと思ってくださる方がいらっしゃると知ることができて、嬉しすぎて書いてしまいました。えっちはないですごめんなさい(_ _;)
設定もわやわやなので雰囲気で読んでいただければ幸いです。
わがままは言わない、世の中でかくれんぼしているナクキル好きさんたちにこっそり届いておくれ〜!(贅沢
──────
思えば最初から、爪先立ちの恋でした。
それは心情的にと言うより、実際に彼の前では背伸びをすることが多かったという意味で、です。自分でも間が抜けていると思います。
生まれたのは私が先だったのに、彼と出逢った頃にはもう、あちらの方が身の丈がほんの少し私より上で、何となく立つ瀬が無いような心持ちでした。
「よろしくな」、そう言って手を差し伸べてくれたにもかかわらず、視線が絡んだ一瞬見下ろされているように感じられて、当時の私は少しムッとして目を逸らしてしまいました。その上無理に背伸びをしてツンとつれない澄まし顔を装って、握手する手にも、ろくに力も込めず。
我ながらなんと大人げない事を、と思いもします。いわゆる第一印象というものが最悪だったのも確かでしょう。しかしながら、あの年頃の子供にとっての数センチは大人になってからのそれとは異なるのだと、思わず言い訳もしてしまうのです。そのような自分に恥じ入り厭気も差します。
だというのに彼ときたら、私よりひょろりと細長い身体で、雛鳥の様に私のあとをついて回って。「キルゲちゃん。俺、キルゲちゃんのこと守れるくらい強い男になる」なんて嘯いて、自分の身は自分で守りますと可愛げのない返答をする私を、少し高い位置から、それでもいとけなさの残るきらきらした瞳で見下ろすものですから、何故だか私は頬が熱くなるのを自覚しながら言葉に窮してしまうのでした。
結局のところ、成長が止まる頃になっても私たちの身長差は変わらず、というよりも少し広がってしまいました。年齢的に先に成長期を終えた私に対し、数年かけて彼は私が若干見上げるくらいの長身になっていました。喜ばしい反面、少し悔しくもありました。
ですがその頃にはもう、自分の気持ちにも彼の気持ちにも気づいてこっそりと内心で受け入れていたので、彼に上から覆いかぶさるように抱きすくめられても、仕方がないといった風情で細い背に腕を回す事ができるようになっていたのです。彼は、もういい歳をした私に対してもかつてと変わらぬ満面の笑みを向けて、「キルゲさん、だいすきだぜ!」と言って憚らないのでした。長じて行く中でどちらかと言えばシニカルな笑みを浮かべることが多くなっていた彼が、私の前では幼気にはにかんでくれると言う事実が、私には勿体ないくらいの幸福として胸の内をほわりと温めてくれるのです。
今日も、私に与えられた部屋を訪れた彼と朝の抱擁、そしていつの間にか習慣となってしまった口付けをし、そこでやっと挨拶を交わします。この時、やはり少し踵を持ち上げていたため、まだ本調子ではなかった私はよろめいてしまいました。
「おっとぉ、平気か?」
軽々と私を抱きとめ、訊ねてくださった彼に、私は申し訳なく思いながら答えます。
「ええ。アスキンさんのおかげで助かりました。ありがとうございます」
「そりゃあ大袈裟だ。そもそも、俺がもう少し屈むべきだった」
この台詞に対し、幼い頃のようにムッとする私はもう居ません。しかしながら、彼と同じ性別つまり男性として不甲斐ない、情けないと思うのです。だから私は、先の発言にバツが悪そうな顔をしている彼に、ひとつ提案をしてみることにしました。
「もっと別の方法を試しませんか?」
「へっ?」
きょとんとしている彼の前でかしずいて、「たとえば、こう」と彼の手を恭しく持ち上げ、その甲に口付けを落とします。目の前の筋張った手が、びくりと震えて固まってしまったのを不思議に思いながら彼を見上げます。彼の表情は、何かを思い詰めたように緊張していて、その頬はみるみるうちに紅く染まっていきました。
「……お嫌でしたか……?」
私は色恋沙汰には疎い方だという自覚があります。だから何か大きな失敗をしてしまった。そう思い至って己の顔がサァっと青褪めるのがわかりました。
「も、申し訳ありません……図に乗りました」
私が謝罪するのとほぼ同時に、彼の石化が解かれました。彼はハッと息を詰め、しゃがみ込んで私と目線を合わせてくれます。そして、依然として紅い顔で私を真正面から見つめて叫ぶように言いました。
「嫌なわけねぇよ!? ただ……、何ていうか、」
一転して弱まった言葉尻をそこで一旦区切り、彼は深く呼吸をしました。
「さっきのあんたが、様になりすぎて。俺の中の乙女が顔を出しちまっただけだ」
「……ふふっ。アスキンさんの新しい一面が見られて嬉しいです」
失礼ながら笑ってしまった私の両肩を存外強い力で掴み、彼は言います。
「キス、していいか……?」
「え? ええ、」
勿論、と言い切る前に口唇が触れ合います。ちゅっちゅと可愛らしい音を立てて繰り返される口付けのくすぐったさに思わず笑むと、その隙を狙っていたかのようにぬるりとした何かが差し入れられ、それが彼の舌であると気付いた瞬間思わず私は彼の胸を押し返してしまいました。
決していやだった訳では無く、初めての体験に驚いてのことでした。
かつて、まだ少年だと言える時分に、一度だけ小説で読んだことはありました。名も忘れてしまったその小説に、深い口付けについてのわりかし詳細な描写があったのです。すぐさま本を閉じ書棚に戻しましたが、何かとてもいけないことをしてしまったような気がして、人目を避けるように逃げ帰った記憶が今よみがえりました。
「ごめんなさい……その、少し、びっくりしてしまいまして」
「俺の方こそ、わるかった。あんたのこと、もっと大事にしなきゃって思ってるのに……あんたがいま『拒絶』してくれなかったら、止まれなかった。もしかしたら、そのまま襲っちまってた、かも……」
「お、襲う……」
彼は仕切り直すように立ち上がり、困惑に固まる私に手を差し伸べました。
その手のひらに自分のそれを重ねて立ち上がると、やはり彼我の身長差は如何ともし難いものだと思い知らされます。私は勇気を振り絞って言いました。
「『拒絶』、とは少し違います。いえ、私のとった行動だけ見ればそう受け取ってしまわれるのも仕方がないことなのは分かっています。ですが、先程の……その……く、口付けは、何となく貴方が、急に遠くに行ってしまったように感じられて、さびしくなってしまったといいますか……、」
なんとか誤解を解こうとして必死に言い募っていると、次の瞬間には、ぎゅうぎゅうと力いっぱいに抱き締められていました。
「俺は何処にも行かねえよ……あんたに出逢ったあの日から、あんた無しの人生なんて考えられねぇんだから。でもキルゲさん、俺はあんたを傷付けたくない。だから、」
それ以上言わせてはいけないと、直感でわかりました。私を拘束していた腕の力が緩んだ刹那、私は精一杯の背伸びをして彼の口唇に口付けし、これ以上彼が言葉を紡げないようにしました。そして、誓いを立てる時のような心持ちで彼に告げます。
「私はそうそう容易く傷ついたりしません。貴方が相手でいてくださるのなら尚更です。ですが、今は朝ですので……。その……貴方の仰った『襲う』とは通常、夜に行なうもの、なのでしょう……? ですから、どうか今夜まで、お待ちいただきたい」
懸命に言い切ると、彼にもう一度口付けます。
この時ばかりは、年上として精神的にも爪先立ちをしている自覚があり、頬に熱が集まるのがわかりました。
また彼の腕に力が込められます。「痛いですよう」と笑いながら、私も彼の背に腕を回してぎゅっと縋るように純白の制服に爪を立てました。
今でも心身ともに背伸びをしているという事実には目を瞑って、この爪先立ちの理由を、子供の頃からの習慣だったから、のひとことで片付けてしまいたくて。
こんなにも情けない思いをするくらいならいっそのこと、ずっと子供でいたかったとさえ願ってしまうのですが、その願いに反して今夜見られるであろう彼の新しい一面を楽しみに待ってしまうのでした。
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ナクキルの身長差が判明した時期くらいに出てくれていたお題さんですが、ぴったりじゃないか……!と思うと同時に逆に手を出せずにおりました。弊サイトのナクキルを良いと思ってくださる方がいらっしゃると知ることができて、嬉しすぎて書いてしまいました。えっちはないですごめんなさい(_ _;)
設定もわやわやなので雰囲気で読んでいただければ幸いです。
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思えば最初から、爪先立ちの恋でした。
それは心情的にと言うより、実際に彼の前では背伸びをすることが多かったという意味で、です。自分でも間が抜けていると思います。
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「よろしくな」、そう言って手を差し伸べてくれたにもかかわらず、視線が絡んだ一瞬見下ろされているように感じられて、当時の私は少しムッとして目を逸らしてしまいました。その上無理に背伸びをしてツンとつれない澄まし顔を装って、握手する手にも、ろくに力も込めず。
我ながらなんと大人げない事を、と思いもします。いわゆる第一印象というものが最悪だったのも確かでしょう。しかしながら、あの年頃の子供にとっての数センチは大人になってからのそれとは異なるのだと、思わず言い訳もしてしまうのです。そのような自分に恥じ入り厭気も差します。
だというのに彼ときたら、私よりひょろりと細長い身体で、雛鳥の様に私のあとをついて回って。「キルゲちゃん。俺、キルゲちゃんのこと守れるくらい強い男になる」なんて嘯いて、自分の身は自分で守りますと可愛げのない返答をする私を、少し高い位置から、それでもいとけなさの残るきらきらした瞳で見下ろすものですから、何故だか私は頬が熱くなるのを自覚しながら言葉に窮してしまうのでした。
結局のところ、成長が止まる頃になっても私たちの身長差は変わらず、というよりも少し広がってしまいました。年齢的に先に成長期を終えた私に対し、数年かけて彼は私が若干見上げるくらいの長身になっていました。喜ばしい反面、少し悔しくもありました。
ですがその頃にはもう、自分の気持ちにも彼の気持ちにも気づいてこっそりと内心で受け入れていたので、彼に上から覆いかぶさるように抱きすくめられても、仕方がないといった風情で細い背に腕を回す事ができるようになっていたのです。彼は、もういい歳をした私に対してもかつてと変わらぬ満面の笑みを向けて、「キルゲさん、だいすきだぜ!」と言って憚らないのでした。長じて行く中でどちらかと言えばシニカルな笑みを浮かべることが多くなっていた彼が、私の前では幼気にはにかんでくれると言う事実が、私には勿体ないくらいの幸福として胸の内をほわりと温めてくれるのです。
今日も、私に与えられた部屋を訪れた彼と朝の抱擁、そしていつの間にか習慣となってしまった口付けをし、そこでやっと挨拶を交わします。この時、やはり少し踵を持ち上げていたため、まだ本調子ではなかった私はよろめいてしまいました。
「おっとぉ、平気か?」
軽々と私を抱きとめ、訊ねてくださった彼に、私は申し訳なく思いながら答えます。
「ええ。アスキンさんのおかげで助かりました。ありがとうございます」
「そりゃあ大袈裟だ。そもそも、俺がもう少し屈むべきだった」
この台詞に対し、幼い頃のようにムッとする私はもう居ません。しかしながら、彼と同じ性別つまり男性として不甲斐ない、情けないと思うのです。だから私は、先の発言にバツが悪そうな顔をしている彼に、ひとつ提案をしてみることにしました。
「もっと別の方法を試しませんか?」
「へっ?」
きょとんとしている彼の前でかしずいて、「たとえば、こう」と彼の手を恭しく持ち上げ、その甲に口付けを落とします。目の前の筋張った手が、びくりと震えて固まってしまったのを不思議に思いながら彼を見上げます。彼の表情は、何かを思い詰めたように緊張していて、その頬はみるみるうちに紅く染まっていきました。
「……お嫌でしたか……?」
私は色恋沙汰には疎い方だという自覚があります。だから何か大きな失敗をしてしまった。そう思い至って己の顔がサァっと青褪めるのがわかりました。
「も、申し訳ありません……図に乗りました」
私が謝罪するのとほぼ同時に、彼の石化が解かれました。彼はハッと息を詰め、しゃがみ込んで私と目線を合わせてくれます。そして、依然として紅い顔で私を真正面から見つめて叫ぶように言いました。
「嫌なわけねぇよ!? ただ……、何ていうか、」
一転して弱まった言葉尻をそこで一旦区切り、彼は深く呼吸をしました。
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「……ふふっ。アスキンさんの新しい一面が見られて嬉しいです」
失礼ながら笑ってしまった私の両肩を存外強い力で掴み、彼は言います。
「キス、していいか……?」
「え? ええ、」
勿論、と言い切る前に口唇が触れ合います。ちゅっちゅと可愛らしい音を立てて繰り返される口付けのくすぐったさに思わず笑むと、その隙を狙っていたかのようにぬるりとした何かが差し入れられ、それが彼の舌であると気付いた瞬間思わず私は彼の胸を押し返してしまいました。
決していやだった訳では無く、初めての体験に驚いてのことでした。
かつて、まだ少年だと言える時分に、一度だけ小説で読んだことはありました。名も忘れてしまったその小説に、深い口付けについてのわりかし詳細な描写があったのです。すぐさま本を閉じ書棚に戻しましたが、何かとてもいけないことをしてしまったような気がして、人目を避けるように逃げ帰った記憶が今よみがえりました。
「ごめんなさい……その、少し、びっくりしてしまいまして」
「俺の方こそ、わるかった。あんたのこと、もっと大事にしなきゃって思ってるのに……あんたがいま『拒絶』してくれなかったら、止まれなかった。もしかしたら、そのまま襲っちまってた、かも……」
「お、襲う……」
彼は仕切り直すように立ち上がり、困惑に固まる私に手を差し伸べました。
その手のひらに自分のそれを重ねて立ち上がると、やはり彼我の身長差は如何ともし難いものだと思い知らされます。私は勇気を振り絞って言いました。
「『拒絶』、とは少し違います。いえ、私のとった行動だけ見ればそう受け取ってしまわれるのも仕方がないことなのは分かっています。ですが、先程の……その……く、口付けは、何となく貴方が、急に遠くに行ってしまったように感じられて、さびしくなってしまったといいますか……、」
なんとか誤解を解こうとして必死に言い募っていると、次の瞬間には、ぎゅうぎゅうと力いっぱいに抱き締められていました。
「俺は何処にも行かねえよ……あんたに出逢ったあの日から、あんた無しの人生なんて考えられねぇんだから。でもキルゲさん、俺はあんたを傷付けたくない。だから、」
それ以上言わせてはいけないと、直感でわかりました。私を拘束していた腕の力が緩んだ刹那、私は精一杯の背伸びをして彼の口唇に口付けし、これ以上彼が言葉を紡げないようにしました。そして、誓いを立てる時のような心持ちで彼に告げます。
「私はそうそう容易く傷ついたりしません。貴方が相手でいてくださるのなら尚更です。ですが、今は朝ですので……。その……貴方の仰った『襲う』とは通常、夜に行なうもの、なのでしょう……? ですから、どうか今夜まで、お待ちいただきたい」
懸命に言い切ると、彼にもう一度口付けます。
この時ばかりは、年上として精神的にも爪先立ちをしている自覚があり、頬に熱が集まるのがわかりました。
また彼の腕に力が込められます。「痛いですよう」と笑いながら、私も彼の背に腕を回してぎゅっと縋るように純白の制服に爪を立てました。
今でも心身ともに背伸びをしているという事実には目を瞑って、この爪先立ちの理由を、子供の頃からの習慣だったから、のひとことで片付けてしまいたくて。
こんなにも情けない思いをするくらいならいっそのこと、ずっと子供でいたかったとさえ願ってしまうのですが、その願いに反して今夜見られるであろう彼の新しい一面を楽しみに待ってしまうのでした。
