飴細工の檻

しょた一キルへのお題は『君を甘やかして駄目にしたい』です。
https://shindanmaker.com/392860
お題元さまはこちら↑です。

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「一護さぁん、おやつの時間ですよう」

 甘い甘い声が、僕を呼ぶ。
 中庭でお散歩をしていた僕を取り巻いている白い影たちが距離を取るのが分かった。お庭につながる大きな掃き出し窓の方を見れば、僕の"きょういくがかり"のキルゲさんが手招いている。彼に駆け寄り、おなかのあたりに抱きつく。そうすれば、キルゲさんの白手袋の手が僕の頭をやさしく撫でてくれる。促されて、廊下に上がった。腰に抱きつかれたままじゃ歩きづらいだろうに、キルゲさんは僕の好きなようにさせてくれる。
 自室へと続く広くて真っ白な廊下を一緒に歩く。

「ねえ、キルゲさん」

「何でしょう、一護さん」

「あのね、僕のわがままなのは分かってるんだけど、お願いがあるんだ」

 言って、見上げれば、キルゲさんは一度僕の腕を柔らかくほどいて、目線を合わせるためにしゃがんでくれた。それが嬉しくて僕の中の叱られてしまうかもという不安は少し和らいだ。

「何でもお申し付けください」

 真剣な眼差しで、誓いを立てるときのように片膝をつき胸に手を当てる仕草は、すごくキルゲさんに似合っている。でも、どこか遠い感じがして少しの寂しさも感じるんだ。だから思い切って僕は言った。

「ずーっと! 僕といっしょにいて! キルゲさん!」

 キルゲさんは紅い眼鏡の奥の目を見開いて、僕を見た。
 そして。

「──はい。勿論、私の魂は何時も一護さんと共に在ります」

 ……うそつき。
 僕には分かる。キルゲさんは僕の「きょういくがかり」だから、僕が大きくなって戦うことができるようになってしまえば、ほかの誰かが僕に「あてがわれる」。いっしょに、お互いの背中を預け合って、戦いの場に立つのはキルゲさんじゃない別の誰か。そうお父様がおっしゃっているのを、こっそり聴いてしまったことがある。
 物心つく前に此処に来て、気づけばすぐそばにはキルゲさんが居てくれた。時々厳しい訓練もするけれど、いつも僕を甘く見守ってくれている。
 どうすれば、この大好きなひとのとなりにずぅーっと居られるのか。僕は一生懸命に考えた。そして気付いた。
 
「ありがとう、キルゲさん。……部屋に戻ろっ!」

「ふふ。えぇ、戻りましょうか。今日のおやつは色とりどりの愛らしいマカロンたちですよ」

「ほんと!? やったぁ! キルゲさん、早く早く!」

 誓いの姿勢を解いたキルゲさんの手を引けば、はにかむように微笑んで歩き出すのが素直で可愛い。周囲の目を少し、いや、けっこう気にしている事には気づいているけれど、繋いだ手は離してあげない。僕はキルゲさんについては、自分の立場、というものをとことん利用することに決めている。
 キルゲさんを繋ぎ止める方法、それは。

「僕ね、キルゲさんのことだぁいすき!」

 キルゲさんが今まで僕にしてくれたように、彼を「甘やかす」こと。

「──ッ。ありがとうございます、一護さん。そのようなことを言ってくださるのは、貴方だけですよ」

 真紅の色眼鏡が、微笑みが、彼の表情のほんとうの変化を隠そうとする。けれど、ずっとずっといっしょに彼と過ごしてきた僕だから、繋いだ白手袋の指先が動揺からぴくりと震えるのが分かってしまうんだ。

「そうだ、キルゲさん。マカロンの食べさせ合いっこしようよ! キルゲさんの指にさわったお菓子は、魔法みたいに美味しく、甘くなるんだよっ」

「……そう、ですか。それならば、一護さんのお気に召すままに」

 願わくば、永く僕のすぐそばで、そうやって微笑んでいてほしい。僕のことばや行動で、甘い甘い不可視の檻を作り上げて、キルゲさんと僕だけの世界を築く。誰にも邪魔させない。
 僕無しでは生きていけないくらいまで。シロップ漬けのようにじっくり教え込まなくちゃ。