盛大にズレてしまいました(反省
バリーとキースへの今夜のお題は『力尽く / コスチュームプレイ / ぜんぶ丸見え』です。
お題元さまはこちら↓です。
https://shindanmaker.com/464476
──────
「バリー! こすちゅーむぷれい、というものに興味はないか?」
「無ぇな!」
「そうか! ならいいんだ!」
──── 完 ────
「……待て待て待て、急に終わるな」
スンッと素に戻り踵を返してあらぬ方向に向かおうとしたキースの肩を掴んで、とりあえず引き止めた。
不思議そうにこちらを見上げてくる恋びとに、どうしたもんかと頭を悩ませる。……きょとんとしているがその表情をしたいのはこちらの方だぞキースめ。かわいいなチクショウが。
「ベルンがなー、『ノリノリでコスプレしてる人達見るとなんかちょっと元気出る』って言っててなー、こすぷれって何って訊いたらこすちゅーむぷれいの略だって教えてくれたのを思い出してなー」
小石を蹴飛ばすような仕草をしながら、キースが拗ねて言う。
なるほど、またパートナーの入れ知恵か。
人間界でこのキースの『子守り』をしてくれていた上に、保護者としての責務を放任主義ながらも果たしてくれていた人物ではあるが、どうも芸術畑の住人というものはその独特の感性で以て周りを染め上げてしまうものらしく。キースにおかしな知識が増えたのはあのベルンという人物の影響が大きい。もともとキースはおかしなやつではあったのだが。
と、ここまで考えたはいいが、俺もコスチュームプレイというもののことはほとんど知らないのが現状だ。キースのやつが妙にうきうきしながら訊いて来たため勢いで興味なしと答えてしまったが、もしかしたら俺よりキースの方がよほど詳しかったりするのかも知れない。
だが言葉の響きが何となくいかがわしい気がするのは間違ってはいないと思う。だって今日キースの自宅に泊まりだし。当然というべきかキースのご両親は留守だし。そんな日の夜、さあヤるぞ! という意気込みで風呂から上がったら冒頭の茶番だったし。
「……で、今からそのコスチュームプレイとやらをしたいわけだな?」
「さすが我がライバル! 私のこととなると冴えまくりだな!」
「今ライバル関係無ぇだろ。……コスチュームって衣装って意味だったっけか?」
「そうだ! そしてプレイは遊ぶ、やら色んな意味があるらしい」
衣装、遊ぶ……?
頭の中をはてなが飛び交う。
衣装を作って遊ぶのか。それともガキみてぇに人形の着せ替えごっことか……? それとも。うーん。
「悩んでいるようだなバリーよ。そんなおまえのために準備は既に完了している!」
え、どの辺が?
いつもの散らかったキースの部屋を見渡してみる。相変わらず白を基調とした調度品の類いは悪くないと思うが、如何せん謎の玩具と思しき物体が散らばっていて統一感も何も有ったもんじゃあない。もしかしてこの中に今回のヒントがあったりするのかとキースの方を振り返る。
何故かやつは絶賛着替え中だった。ああ、そういうことなのな。
「っあ! ばか、まだ良いって言っとらんだろう」
「顔赤くしてるとこ悪いけどよ、準備は完了している! とか自信満々に言うから早とちりしちまっただけだ。要はまだ準備が必要ってことだろ? 早くやれよ、あっち向いて待ってるから」
気を遣ったつもりだったのだが、キース的には俺の受け答えは不合格だったらしい。
「敢えてやったんだ! 恋びとの着替えを見れるとか俗に言うラッキースケベと言うやつではないか。それをおまえ、」
「またいらん無駄知識。人間とのパートナー制も考えものだな」
「ん〜〜〜っ! バリーなんかもう知らん! せっかく新しい扉をふたりで開こうと思っていたのに!」
地団駄を踏んだあと、ぷいっと顔を逸らしてしまったキースはいつものブルマが半脱げで下着しか履いていない。なんとも間が抜けた格好だが、こういうところもかわいくて仕方がない。
キースの目線に合わせるために片膝をつく。拗ねてしまった恋びとを抱きしめて、囁いてみた。
「キースがいつもと違う格好してるとこ、見てみてぇな」
「……ほんとか?」
頷くとキースがまとう雰囲気が明るくなった。ちょろすぎて心配になる。
ふと視線を落とすと、キースが後ろ手に何やら黒色でふわふわした布地の衣服を持っていることに気づく。
「キース……それって、」
「ん、バリーの分だ!」
『私のはこっち!』と満面の笑みで見せびらかしてくるそれは、よく見なくても女性物の水色のドレスだった。しかも何ていうんだっけ……えーっとあれだ、あの、フリル。フリルがたっぷりついたようなやつだ。
やべぇ。これ着るのか俺たち。
「なあ、俺は今のままでいいんじゃねえかな、どうせ全部脱ぐんだし」
「何を無粋なことを言っている。おまえのドレス姿を見るまではこのプレイは終われん!」
「なんだよこの頑なさは。その頑張りもっと使い所あるだろ」
「いいからほら、着るんだ。だいじょうぶ、私も今から着るから」
いや、これたぶんコスプレっていうよりただの女装だし何でおまえそんなに乗り気なんだ……などとツッコミをいれる間もなく、力尽くでぐぐぐっとドレスを押し付けられる。思わず受け取ってしまった漆黒のドレスと、それを見て呆然としている俺を満足そうに眺めて、キースはいそいそと自分の着替えを再開した。
「……っ、ふざけんなよ! この俺が女装なんかするわけねぇだろ」
「私の生着替えを目撃しておいて、その言い様は何だ!」
「な、なまきがえ……」
ゴクリ、と生唾を飲み込む。
「っていうか、おまえの着替えとかいつも見てんじゃねぇか!」
「それだーーーーッ!!!」
ビシィッと指を突きつけられ、思わず仰け反る。スプリング状の腕がガキンッと戻ってきたそのままの姿勢で、キースは続けた。
「きさまは今許されざる発言をした……! 要はバリーきさま、我々の関係が『マンネリ化』してきていると言いたいのだろう!?」
「いや、そんなこと全然ねぇけど」
「『こいつみたいな低い声で喘がれても萎える』とか考えているのだろう!?」
「まっっっっったく考えてねぇよ」
「『おまえみたいな幼児体型に興奮するかよ』とか思っているのだろう!?」
「だからマジで思ってねぇって」
逐一冷静に言い返していると、キースの勢いは弱まった。
「なっ、じゃあきさま……、」
「キース、今おまえを抱きたくてうずうずしてる俺がバカみてぇじゃねえか?」
「え、いつも無理に勃たせてるとかじゃなくて……?」
「そんな余裕があるように見えたか?」
「うん」
キースがあまりにもすんなり頷くので、俺のほうが虚を突かれた。
「だって、だっていつもバリーばっかり余裕たっぷりで、私だけ必死でみじめだったのは……」
「ああ、気のせいだな」
腕組みをしてキースを見下ろす。今俺はキースを抱き上げてちゅっちゅしたいとか考えているわけだが、そうか、言わなきゃ伝わんねぇよなぁ。悪いことをした。猛省だ。
「おまえ相手にマンネリ化はそうそう無ぇよ。それに、俺だっていつもおまえに気持ちよくなってもらいたくて必死だ」
「んなッ!?」
ぼんっと音を立てて赤面するキース。可愛すぎるだろ。いつも堂々としてるのにこうして時々見せてくれる『うぶさ』がたまんねー。え、このかわいい魔物、俺の恋びとなの? 最高かよ。
普段からあまり多いとは言えねぇ語彙力も死滅するってもんだ。
あ、それと。
「もしかしてコスプレとか言い出したのも、有りもしねぇ『マンネリ化』脱却のため……?」
「まあ、そうなるな!」
「力強いな」
くっくと笑う俺の前で、徐ろに衣服を脱ぎ出すキース。
何故だ。……そうか今からこいつとするんだった。この雰囲気とかぶち壊していくこいつのストロングスタイルが大好きだ。
ベッドに腰掛けてキースを待とうとしたら、ふぁさりとあの黒いドレスを投げつけられた。
「結局俺も着るのかよ〜」
「当然だ、この私も着るのだからなぁッ!」
この一瞬で着終えたらしいキースが胸を張って腰に手を当て高笑いしている。その様子は男らしいが、今やつが身に纏っているのはふりふりの甘いドレスだ。しかもスカート丈はやつの膝上、超ミニ。
そのギャップが……あれ、なんか……イイ。イイのか? イイのか、俺!?
新しい扉、とか言っていたが、これがもしかするとそうなのか……?
「開いたかも……新しい扉」
「何ぃ? まだだ、まだ早い。きさまもソレを着て初めてドアノブを回すくらいのイメージでいろ」
「えぇ〜?」
「いいから、ほら!」
──── 五分後 ────
「絶っっっっっ対ぇ履かねぇ!!!!」
「男のロマンというものが理解出来んのかきさま〜!!」
「なんで下着まで女物着けなきゃなんねぇんだよォッ」
そう、今キースの手に握られているのは、俺用に律儀に用意したらしい女物の下着だった。
男のロマンとか今更言われても、いつも俺の手であんあん言わされてるやつの言葉では説得力はあまり無い。しかもこの攻防でちらりと見えたが、キースが履いているのも女物だ。そこはまだ一万歩ほど譲って納得してやる。が。
「俺の完成度まで高くしても意味ねぇって!」
「いいや! むしろバリーが完璧な女装をしていると思うと私はゾクゾクっとクるものがあるのだ……!」
「チクショウ、ベルンの野郎! キースに変なシュミ植えつけやがって〜!」
絶対に届かない恨み節を、話したことすら無いキースのパートナーに向ける。キースが目覚めちゃったのはおそらく彼のせいではないが、そのきっかけは確実に彼の発言だ。あの野郎〜! そしてこいつもこいつでなんで花開いちまったんだ、素質ありまくりだったのに水をあげちまったのか。そこは……まぁ、俺の手によるものだけどよぉ……。
女装した男子同士でいったい何をしているのだろうか。
結局俺は件のドレスを着てしまっているし、今更意地を張ったところで……とも考えてみたりもした。だがそれも一瞬のことで、グイグイと現在進行形で顔に押し付けられている下着をキースの手ごと弾き返す。不意のことに対応しきれなかったのか、キースは戻ってきたスプリング状の腕と下着を顔面に食らって盛大に自爆している。「オギャンッ!」と悲鳴を上げて勢いのまま吹っ飛びベッドにボフッと突っ込んでいくキースを遠い目で眺める。
ご丁寧にも下着はあのフリフリなドレスと同系色で、吹っ飛んだ衝撃でドレスの裾がめくれ上がって、正直ぜんぶ丸見えだ。男のロマンも何もあったもんじゃねぇ、と思いかけたところで、キースがおもむろにむくりと起き上がった。そして。
「……あっ」
小さく声を上げて頬を紅く染めたキースが、超ミニの裾を慌てたように引っぱり、曝け出されていた下着と太ももを隠した。その刹那、俺の脳裏を過ったのは。
──あ、イイかも。
という、感想だった。
下着どころか、生まれたままの姿を何度も見ているし、なんなら普段のブルマの方がドレスよりも露出度は高いにもかかわらず、なんというか、ものすごくクるものがあった。胸が高鳴り、下腹部のあたりが熱を持つのを自覚する。
依然としてベッドの上で顔を紅くして俯いているキースに、一歩二歩と近づいていく。そんな俺の気配を察知したらしく、キースは冷や汗をかきながらキングサイズベッドの上をズリっと後退った。
逃がすかよ、と自分が悪い笑みを浮かべていて、キースがそれを恐れつつも悦んでいることが赤らんだ顔を見ればすぐに分かる。
「逃げんじゃねぇよ」
「ひっ! ば、バリー……待て」
「新しい扉、ふたりで開けるんだろ? おまえが言ったんだぜ。自分の発言には責任持てよ?」
「い、今のおまえに、その……抱かれたら……」
「まぁ、手加減は出来ねえわな」
「ほらー! 今日のところは諦めてくれ! 私が煽ったのがわるいのは認めるからぁ!」
泣き出したキースがベッドのすみにうずくまる。俺はというとベッドに乗り上げ、キースにゆっくりと近づいていく。獲物を狙う猫のように、慎重に、それでいて的確なルートを辿る。
近くまで行くと、うずくまっていたキースが涙の跡も新たにこちらを見上げてくる。その濡れて澄んだガラスの目には、獰猛な獣じみた俺の顔が映り込んでいて、心の内で自嘲する。が、キースを追い詰める愉しみの方が勝ってしまい、更に笑みを深くする。
あぁ、愚かでかわいいなぁ。この状況、まさに自業自得なのに逃げ腰になっちまって。かわいいなぁ。いとしいなぁ。
「キース。おまえは今から女に犯されるんだぜ」
「え、え……?」
「おまえが態々用意したこのドレス、そういう意味なんだろ」
意味を理解したらしく、ぽむっと更に真っ赤になるほっぺがかわいい。
「おまえも大概倒錯した趣味を持っちまったなぁ」
「ちがう……私はただ、」
「『ただ、』なんだ? 続きなんか無ぇんだろ。あきらめて大人しく『女』に抱かれとけ」
キースは再びうつむいた。そしてぽつりとつぶやく。
「これが……新しい扉……?」
混乱している様子のキースを優しく押し倒し、俺はその涙で濡れた頬にキスをした。
夜はこれからだ。
──── 翌朝、ベッドにて ────
くしゃくしゃになってしまった水色のドレスを見下ろして、溜息を一つ。
結局昨夜は私の狙いとは大きくズレた解釈を繰り広げたバリーに、流されるようにして最後までシてしまった。それも何度も。結論から言えば最高だったのだが、何とも言えない遣る瀬無さが残った。
私はただ、バリーと写真を撮って遊びたかったのだ。抱かれるのはその後のお楽しみ、そう考えていた。だって、こすぷれとは、『自分以外の何かになりきって写真を撮ることだ』とベルンから聞いていたから。それなのに、バリーときたら。一緒に遊んで気分がノッてきたところで……と、考えていた私の計画は総崩れだ。どうにも釈然とせず、となりで寝息を立てるバリーのおでこを指で軽くはじいた。
「……バリーのばか」
吐息混じりのひとことに、バリーがバチリと瞼を開く。
「なんだと、こら」
「ばか、と言ったんだ。おかげで思いもしなかった扉が開いてしまったではないか」
「今さら女に走る気か」
「……それができればどれほど良かったか。あいにく私の身体はバリー無しでは満足できないところまで来てしまったんだぞ」
「ものすごい殺し文句だな。朝から盛っちまいそうだ」
「別に、それでも構わんぞ私は。こんなドロドロくしゃくしゃの姿でも盛れるというならな!」
バリーはきょとんとした後、ニヤリと口角を持ち上げた。昨夜のバリーの表情と似通いすぎていて、私は自分の発言を少しだけ後悔した。そんな私にバリーが囁く。
「逆に興奮する」
そわりと背筋が粟立つ。
バリーに求められている、そう想うとどうしても叶えてやりたくなる。
私の上にまたがるような姿勢をとったバリーがキスの雨を降らしてくるので、その心地良さに私はうっとりと瞼を閉じた。
──── 再び、五分後 ────
「ウソだろ……? キース……!?」
こいつ、二度寝しやがったぁ〜〜!
──── 今度こそ、完 ────
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──────
「バリー! こすちゅーむぷれい、というものに興味はないか?」
「無ぇな!」
「そうか! ならいいんだ!」
──── 完 ────
「……待て待て待て、急に終わるな」
スンッと素に戻り踵を返してあらぬ方向に向かおうとしたキースの肩を掴んで、とりあえず引き止めた。
不思議そうにこちらを見上げてくる恋びとに、どうしたもんかと頭を悩ませる。……きょとんとしているがその表情をしたいのはこちらの方だぞキースめ。かわいいなチクショウが。
「ベルンがなー、『ノリノリでコスプレしてる人達見るとなんかちょっと元気出る』って言っててなー、こすぷれって何って訊いたらこすちゅーむぷれいの略だって教えてくれたのを思い出してなー」
小石を蹴飛ばすような仕草をしながら、キースが拗ねて言う。
なるほど、またパートナーの入れ知恵か。
人間界でこのキースの『子守り』をしてくれていた上に、保護者としての責務を放任主義ながらも果たしてくれていた人物ではあるが、どうも芸術畑の住人というものはその独特の感性で以て周りを染め上げてしまうものらしく。キースにおかしな知識が増えたのはあのベルンという人物の影響が大きい。もともとキースはおかしなやつではあったのだが。
と、ここまで考えたはいいが、俺もコスチュームプレイというもののことはほとんど知らないのが現状だ。キースのやつが妙にうきうきしながら訊いて来たため勢いで興味なしと答えてしまったが、もしかしたら俺よりキースの方がよほど詳しかったりするのかも知れない。
だが言葉の響きが何となくいかがわしい気がするのは間違ってはいないと思う。だって今日キースの自宅に泊まりだし。当然というべきかキースのご両親は留守だし。そんな日の夜、さあヤるぞ! という意気込みで風呂から上がったら冒頭の茶番だったし。
「……で、今からそのコスチュームプレイとやらをしたいわけだな?」
「さすが我がライバル! 私のこととなると冴えまくりだな!」
「今ライバル関係無ぇだろ。……コスチュームって衣装って意味だったっけか?」
「そうだ! そしてプレイは遊ぶ、やら色んな意味があるらしい」
衣装、遊ぶ……?
頭の中をはてなが飛び交う。
衣装を作って遊ぶのか。それともガキみてぇに人形の着せ替えごっことか……? それとも。うーん。
「悩んでいるようだなバリーよ。そんなおまえのために準備は既に完了している!」
え、どの辺が?
いつもの散らかったキースの部屋を見渡してみる。相変わらず白を基調とした調度品の類いは悪くないと思うが、如何せん謎の玩具と思しき物体が散らばっていて統一感も何も有ったもんじゃあない。もしかしてこの中に今回のヒントがあったりするのかとキースの方を振り返る。
何故かやつは絶賛着替え中だった。ああ、そういうことなのな。
「っあ! ばか、まだ良いって言っとらんだろう」
「顔赤くしてるとこ悪いけどよ、準備は完了している! とか自信満々に言うから早とちりしちまっただけだ。要はまだ準備が必要ってことだろ? 早くやれよ、あっち向いて待ってるから」
気を遣ったつもりだったのだが、キース的には俺の受け答えは不合格だったらしい。
「敢えてやったんだ! 恋びとの着替えを見れるとか俗に言うラッキースケベと言うやつではないか。それをおまえ、」
「またいらん無駄知識。人間とのパートナー制も考えものだな」
「ん〜〜〜っ! バリーなんかもう知らん! せっかく新しい扉をふたりで開こうと思っていたのに!」
地団駄を踏んだあと、ぷいっと顔を逸らしてしまったキースはいつものブルマが半脱げで下着しか履いていない。なんとも間が抜けた格好だが、こういうところもかわいくて仕方がない。
キースの目線に合わせるために片膝をつく。拗ねてしまった恋びとを抱きしめて、囁いてみた。
「キースがいつもと違う格好してるとこ、見てみてぇな」
「……ほんとか?」
頷くとキースがまとう雰囲気が明るくなった。ちょろすぎて心配になる。
ふと視線を落とすと、キースが後ろ手に何やら黒色でふわふわした布地の衣服を持っていることに気づく。
「キース……それって、」
「ん、バリーの分だ!」
『私のはこっち!』と満面の笑みで見せびらかしてくるそれは、よく見なくても女性物の水色のドレスだった。しかも何ていうんだっけ……えーっとあれだ、あの、フリル。フリルがたっぷりついたようなやつだ。
やべぇ。これ着るのか俺たち。
「なあ、俺は今のままでいいんじゃねえかな、どうせ全部脱ぐんだし」
「何を無粋なことを言っている。おまえのドレス姿を見るまではこのプレイは終われん!」
「なんだよこの頑なさは。その頑張りもっと使い所あるだろ」
「いいからほら、着るんだ。だいじょうぶ、私も今から着るから」
いや、これたぶんコスプレっていうよりただの女装だし何でおまえそんなに乗り気なんだ……などとツッコミをいれる間もなく、力尽くでぐぐぐっとドレスを押し付けられる。思わず受け取ってしまった漆黒のドレスと、それを見て呆然としている俺を満足そうに眺めて、キースはいそいそと自分の着替えを再開した。
「……っ、ふざけんなよ! この俺が女装なんかするわけねぇだろ」
「私の生着替えを目撃しておいて、その言い様は何だ!」
「な、なまきがえ……」
ゴクリ、と生唾を飲み込む。
「っていうか、おまえの着替えとかいつも見てんじゃねぇか!」
「それだーーーーッ!!!」
ビシィッと指を突きつけられ、思わず仰け反る。スプリング状の腕がガキンッと戻ってきたそのままの姿勢で、キースは続けた。
「きさまは今許されざる発言をした……! 要はバリーきさま、我々の関係が『マンネリ化』してきていると言いたいのだろう!?」
「いや、そんなこと全然ねぇけど」
「『こいつみたいな低い声で喘がれても萎える』とか考えているのだろう!?」
「まっっっっったく考えてねぇよ」
「『おまえみたいな幼児体型に興奮するかよ』とか思っているのだろう!?」
「だからマジで思ってねぇって」
逐一冷静に言い返していると、キースの勢いは弱まった。
「なっ、じゃあきさま……、」
「キース、今おまえを抱きたくてうずうずしてる俺がバカみてぇじゃねえか?」
「え、いつも無理に勃たせてるとかじゃなくて……?」
「そんな余裕があるように見えたか?」
「うん」
キースがあまりにもすんなり頷くので、俺のほうが虚を突かれた。
「だって、だっていつもバリーばっかり余裕たっぷりで、私だけ必死でみじめだったのは……」
「ああ、気のせいだな」
腕組みをしてキースを見下ろす。今俺はキースを抱き上げてちゅっちゅしたいとか考えているわけだが、そうか、言わなきゃ伝わんねぇよなぁ。悪いことをした。猛省だ。
「おまえ相手にマンネリ化はそうそう無ぇよ。それに、俺だっていつもおまえに気持ちよくなってもらいたくて必死だ」
「んなッ!?」
ぼんっと音を立てて赤面するキース。可愛すぎるだろ。いつも堂々としてるのにこうして時々見せてくれる『うぶさ』がたまんねー。え、このかわいい魔物、俺の恋びとなの? 最高かよ。
普段からあまり多いとは言えねぇ語彙力も死滅するってもんだ。
あ、それと。
「もしかしてコスプレとか言い出したのも、有りもしねぇ『マンネリ化』脱却のため……?」
「まあ、そうなるな!」
「力強いな」
くっくと笑う俺の前で、徐ろに衣服を脱ぎ出すキース。
何故だ。……そうか今からこいつとするんだった。この雰囲気とかぶち壊していくこいつのストロングスタイルが大好きだ。
ベッドに腰掛けてキースを待とうとしたら、ふぁさりとあの黒いドレスを投げつけられた。
「結局俺も着るのかよ〜」
「当然だ、この私も着るのだからなぁッ!」
この一瞬で着終えたらしいキースが胸を張って腰に手を当て高笑いしている。その様子は男らしいが、今やつが身に纏っているのはふりふりの甘いドレスだ。しかもスカート丈はやつの膝上、超ミニ。
そのギャップが……あれ、なんか……イイ。イイのか? イイのか、俺!?
新しい扉、とか言っていたが、これがもしかするとそうなのか……?
「開いたかも……新しい扉」
「何ぃ? まだだ、まだ早い。きさまもソレを着て初めてドアノブを回すくらいのイメージでいろ」
「えぇ〜?」
「いいから、ほら!」
──── 五分後 ────
「絶っっっっっ対ぇ履かねぇ!!!!」
「男のロマンというものが理解出来んのかきさま〜!!」
「なんで下着まで女物着けなきゃなんねぇんだよォッ」
そう、今キースの手に握られているのは、俺用に律儀に用意したらしい女物の下着だった。
男のロマンとか今更言われても、いつも俺の手であんあん言わされてるやつの言葉では説得力はあまり無い。しかもこの攻防でちらりと見えたが、キースが履いているのも女物だ。そこはまだ一万歩ほど譲って納得してやる。が。
「俺の完成度まで高くしても意味ねぇって!」
「いいや! むしろバリーが完璧な女装をしていると思うと私はゾクゾクっとクるものがあるのだ……!」
「チクショウ、ベルンの野郎! キースに変なシュミ植えつけやがって〜!」
絶対に届かない恨み節を、話したことすら無いキースのパートナーに向ける。キースが目覚めちゃったのはおそらく彼のせいではないが、そのきっかけは確実に彼の発言だ。あの野郎〜! そしてこいつもこいつでなんで花開いちまったんだ、素質ありまくりだったのに水をあげちまったのか。そこは……まぁ、俺の手によるものだけどよぉ……。
女装した男子同士でいったい何をしているのだろうか。
結局俺は件のドレスを着てしまっているし、今更意地を張ったところで……とも考えてみたりもした。だがそれも一瞬のことで、グイグイと現在進行形で顔に押し付けられている下着をキースの手ごと弾き返す。不意のことに対応しきれなかったのか、キースは戻ってきたスプリング状の腕と下着を顔面に食らって盛大に自爆している。「オギャンッ!」と悲鳴を上げて勢いのまま吹っ飛びベッドにボフッと突っ込んでいくキースを遠い目で眺める。
ご丁寧にも下着はあのフリフリなドレスと同系色で、吹っ飛んだ衝撃でドレスの裾がめくれ上がって、正直ぜんぶ丸見えだ。男のロマンも何もあったもんじゃねぇ、と思いかけたところで、キースがおもむろにむくりと起き上がった。そして。
「……あっ」
小さく声を上げて頬を紅く染めたキースが、超ミニの裾を慌てたように引っぱり、曝け出されていた下着と太ももを隠した。その刹那、俺の脳裏を過ったのは。
──あ、イイかも。
という、感想だった。
下着どころか、生まれたままの姿を何度も見ているし、なんなら普段のブルマの方がドレスよりも露出度は高いにもかかわらず、なんというか、ものすごくクるものがあった。胸が高鳴り、下腹部のあたりが熱を持つのを自覚する。
依然としてベッドの上で顔を紅くして俯いているキースに、一歩二歩と近づいていく。そんな俺の気配を察知したらしく、キースは冷や汗をかきながらキングサイズベッドの上をズリっと後退った。
逃がすかよ、と自分が悪い笑みを浮かべていて、キースがそれを恐れつつも悦んでいることが赤らんだ顔を見ればすぐに分かる。
「逃げんじゃねぇよ」
「ひっ! ば、バリー……待て」
「新しい扉、ふたりで開けるんだろ? おまえが言ったんだぜ。自分の発言には責任持てよ?」
「い、今のおまえに、その……抱かれたら……」
「まぁ、手加減は出来ねえわな」
「ほらー! 今日のところは諦めてくれ! 私が煽ったのがわるいのは認めるからぁ!」
泣き出したキースがベッドのすみにうずくまる。俺はというとベッドに乗り上げ、キースにゆっくりと近づいていく。獲物を狙う猫のように、慎重に、それでいて的確なルートを辿る。
近くまで行くと、うずくまっていたキースが涙の跡も新たにこちらを見上げてくる。その濡れて澄んだガラスの目には、獰猛な獣じみた俺の顔が映り込んでいて、心の内で自嘲する。が、キースを追い詰める愉しみの方が勝ってしまい、更に笑みを深くする。
あぁ、愚かでかわいいなぁ。この状況、まさに自業自得なのに逃げ腰になっちまって。かわいいなぁ。いとしいなぁ。
「キース。おまえは今から女に犯されるんだぜ」
「え、え……?」
「おまえが態々用意したこのドレス、そういう意味なんだろ」
意味を理解したらしく、ぽむっと更に真っ赤になるほっぺがかわいい。
「おまえも大概倒錯した趣味を持っちまったなぁ」
「ちがう……私はただ、」
「『ただ、』なんだ? 続きなんか無ぇんだろ。あきらめて大人しく『女』に抱かれとけ」
キースは再びうつむいた。そしてぽつりとつぶやく。
「これが……新しい扉……?」
混乱している様子のキースを優しく押し倒し、俺はその涙で濡れた頬にキスをした。
夜はこれからだ。
──── 翌朝、ベッドにて ────
くしゃくしゃになってしまった水色のドレスを見下ろして、溜息を一つ。
結局昨夜は私の狙いとは大きくズレた解釈を繰り広げたバリーに、流されるようにして最後までシてしまった。それも何度も。結論から言えば最高だったのだが、何とも言えない遣る瀬無さが残った。
私はただ、バリーと写真を撮って遊びたかったのだ。抱かれるのはその後のお楽しみ、そう考えていた。だって、こすぷれとは、『自分以外の何かになりきって写真を撮ることだ』とベルンから聞いていたから。それなのに、バリーときたら。一緒に遊んで気分がノッてきたところで……と、考えていた私の計画は総崩れだ。どうにも釈然とせず、となりで寝息を立てるバリーのおでこを指で軽くはじいた。
「……バリーのばか」
吐息混じりのひとことに、バリーがバチリと瞼を開く。
「なんだと、こら」
「ばか、と言ったんだ。おかげで思いもしなかった扉が開いてしまったではないか」
「今さら女に走る気か」
「……それができればどれほど良かったか。あいにく私の身体はバリー無しでは満足できないところまで来てしまったんだぞ」
「ものすごい殺し文句だな。朝から盛っちまいそうだ」
「別に、それでも構わんぞ私は。こんなドロドロくしゃくしゃの姿でも盛れるというならな!」
バリーはきょとんとした後、ニヤリと口角を持ち上げた。昨夜のバリーの表情と似通いすぎていて、私は自分の発言を少しだけ後悔した。そんな私にバリーが囁く。
「逆に興奮する」
そわりと背筋が粟立つ。
バリーに求められている、そう想うとどうしても叶えてやりたくなる。
私の上にまたがるような姿勢をとったバリーがキスの雨を降らしてくるので、その心地良さに私はうっとりと瞼を閉じた。
──── 再び、五分後 ────
「ウソだろ……? キース……!?」
こいつ、二度寝しやがったぁ〜〜!
──── 今度こそ、完 ────
