おまえと俺の幸福論
一キルへのお題【「そんな言葉聞きたくないです」/ハッピーエンドの逃亡劇/砂糖を吐きそうなほど甘い言葉。】
https://shindanmaker.com/287899
お題元さまはこちらです。
──────
「死神とか、滅却師とか、今は見ないふりをさせてもらう。俺は自分の想いに正直に生きたい。だから──」
──俺と一緒に、逃げてくれ。
そう告げると同時に、こちらへと剣先を向けるあいつの懐にもぐり込んだ。冷徹さを形にしたような鋭い眼をきょとりと丸くする様を見、『やっぱりな』という感想を抱く。
こいつの名前すら未だ知らず、ただ二言三言言葉を交わしただけなのに、どうして冒頭の台詞に至ったのか。
それは、先の攻撃によってあいつの真っ赤な色眼鏡が、かしゃんと華奢な音を立てて砂地に落下した際に起きた。
どうやら通信も行える仕様だったらしいその色眼鏡は、中途半端に破壊されたためか大音量で通信の内容を流し始めたのだ。その中には俺にとって聞き捨てならない言葉が含まれていた。
『命を賭してでも黒崎一護を足止めせよ──』
命。いのち。
現在は敵対しているとはいえ、先程まで言葉を交わし今まさに剣を交えている相手の命。それが、俺を足止めするためだけに浪費されるのか。そう理解した瞬間、かっと頭に血が上った。そんな俺の内心など知らない彼は声高らかに何事かを宣言し、その形態を変化させる。
全身を覆い隠していた無機質な翼が開かれると、彼は勝ち誇るように不敵に笑った。だが、俺の目にはその姿は痛々しいものとしか映らない。その胴体を覆う青白の装飾があいつを囚える拘束具に見えてならなかった。
「おまえ、自分が何を命令されたのか解ってんのかよッ! 『死ね』って言われたんだぞ!」
「随分と自信に溢れた言葉ですねぇ。貴方に私を殺せるとでも?」
青白の軍刀が振り下ろされる。それを斬魄刀で受け止めながら、それでも説得を試みる。自分でもどうしてここまで入れ込むのか謎だった。こいつらは多くの破面、虚たちの魂を消滅させた。その元締めであるこの男を、許せるわけがない、許してはいけない。それなのに、俺の脳裏に鮮烈に残って離れないのだ。先の命令が下された時、こいつが一瞬迷い子のように視線を彷徨わせた表情が。
「おまえを殺す気は無ぇ。だが、俺を、皆を殺しにかかるなら、俺は全力で迎え撃つだけだ」
「特記戦力の全力をお目にかかれるとは僥倖」
あくまでも不敵な笑みを消そうとしない相手。猛攻を受け流しつつ、俺はなんとか隙を作れないかと頭をフル回転させている。……そうだ。
「おまえ、名前何ていうんだ」
鍔迫り合いに持ち込んで、真正面から見据えつつ訊ねた。
「答える必要性を感じません」
「おまえは俺のこと色々知ってんのに、俺は滅却師であること以外おまえのことを知らねぇ。不公平だろ」
不公平、という言葉にあいつが眉根を寄せた。
俺はここで確信した。こいつ、悪に徹しきれていない、と。
ギリリと斬魄刀に力を込める。するとあいつは一旦俺から距離を取った。
ふわりと地に降り立ち、あいつは声を張る。
「失礼。申し遅れました。わたくし、キルゲ・オピーと申します。以後、お見知りおきを……と言っても、何と虚しいことでしょうか。これからどちらかが死ぬというのに」
「俺を殺すんだろ? なんで『どちらかが死ぬ』って言った?」
「……あっ」
あいつ──キルゲが、ぱしっと口元を手のひらで覆った。
やっぱり、悪を演じきれてない上に、ちょっと天然入ってるな。
そして。
「──死ぬ覚悟で俺と対峙しているわけか」
「そ、そのようなこと……!」
「声が震えてるぜ」
「ッいい加減になさい。死闘の場に会話は不要です」
「あんたさっきからぺらぺら喋ってるぜ。沈黙は金じゃなかったのかよ?」
「この……ッ、減らず口はお止めなさい!」
ヒステリックに叫んで、闇雲にこちらへ突っ込んでくる。先程までの研ぎ澄まされた雰囲気は鳴りを潜め、なんというか隙だらけだ。こちらからも跳躍し、キルゲに一瞬で接近すれば、あいつは空中で器用に急ブレーキをかけた。が、間に合わずに俺に衝突する。正確に言えば、俺の胸に飛び込んできた形になった。これ幸いと、俺はキルゲを腕の中に閉じ込めた。
「っとぉ、つかまえた!」
「離しなさい! 離せぇ……ッ! って、びくともしない!」
腕の中で羽根をばたつかせて焦るあいつを、小鳥みてぇだなと思えば自然と笑みが浮かぶ。そんな俺を見てキルゲは急に大人しくなった。無機質な大翼がしんなりと力を失う。「お?」と思っていると、あいつは翼同様に力無く呟いた。
「殺しなさい。ここまで虚仮にされて、実質無力化されてしまっては、陛下の命を遂行することは最早不可能です」
「殺さねぇ、絶対。それに虚仮になんかしてねえよ。ただあんたが小鳥みたいで、なんか……かわいいなって」
「は、? な、なん? 何ですって?」
「だから、かわいいなって思ったら微笑んじまっただけだ。そのまま俺のもとでカナリアみたいに囀っていてくれよ、その綺麗な声と心で」
我ながらいまの台詞は無いな、と思った。砂糖を吐きそうなほど甘い言葉、と言えば聞こえは良いかも知れないが格好がつかねぇ……と猛省していると、キルゲがごそごそと身動いでからぽつりと言葉をこぼした。
「……『かわいい』も、『綺麗』も、生まれて初めて言われました……このようなおじさん相手によくも言えたものですね」
「ぜんぶ本気だぜ?」
「そのような言葉、聞きたくありません。命を賭して貴方を足止めするのですから……と、言わねばならない筈なのに……何故でしょう、自分の生命が惜しくなってしまった。これでは陛下の駒失格です」
しょんぼりと悄気返ってしまったキルゲを拘束していた完聖体とやらが宙空に粒子となって溶けていく。戦意喪失と受け取った俺は、羽根を失い俄に落下しそうになったキルゲの身体を抱きとめ、言った。
「護り抜くからな。世界も、キルゲ、あんたのことも」
この逃亡劇を、ハッピーエンドにしてみせる。絶対に。
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「死神とか、滅却師とか、今は見ないふりをさせてもらう。俺は自分の想いに正直に生きたい。だから──」
──俺と一緒に、逃げてくれ。
そう告げると同時に、こちらへと剣先を向けるあいつの懐にもぐり込んだ。冷徹さを形にしたような鋭い眼をきょとりと丸くする様を見、『やっぱりな』という感想を抱く。
こいつの名前すら未だ知らず、ただ二言三言言葉を交わしただけなのに、どうして冒頭の台詞に至ったのか。
それは、先の攻撃によってあいつの真っ赤な色眼鏡が、かしゃんと華奢な音を立てて砂地に落下した際に起きた。
どうやら通信も行える仕様だったらしいその色眼鏡は、中途半端に破壊されたためか大音量で通信の内容を流し始めたのだ。その中には俺にとって聞き捨てならない言葉が含まれていた。
『命を賭してでも黒崎一護を足止めせよ──』
命。いのち。
現在は敵対しているとはいえ、先程まで言葉を交わし今まさに剣を交えている相手の命。それが、俺を足止めするためだけに浪費されるのか。そう理解した瞬間、かっと頭に血が上った。そんな俺の内心など知らない彼は声高らかに何事かを宣言し、その形態を変化させる。
全身を覆い隠していた無機質な翼が開かれると、彼は勝ち誇るように不敵に笑った。だが、俺の目にはその姿は痛々しいものとしか映らない。その胴体を覆う青白の装飾があいつを囚える拘束具に見えてならなかった。
「おまえ、自分が何を命令されたのか解ってんのかよッ! 『死ね』って言われたんだぞ!」
「随分と自信に溢れた言葉ですねぇ。貴方に私を殺せるとでも?」
青白の軍刀が振り下ろされる。それを斬魄刀で受け止めながら、それでも説得を試みる。自分でもどうしてここまで入れ込むのか謎だった。こいつらは多くの破面、虚たちの魂を消滅させた。その元締めであるこの男を、許せるわけがない、許してはいけない。それなのに、俺の脳裏に鮮烈に残って離れないのだ。先の命令が下された時、こいつが一瞬迷い子のように視線を彷徨わせた表情が。
「おまえを殺す気は無ぇ。だが、俺を、皆を殺しにかかるなら、俺は全力で迎え撃つだけだ」
「特記戦力の全力をお目にかかれるとは僥倖」
あくまでも不敵な笑みを消そうとしない相手。猛攻を受け流しつつ、俺はなんとか隙を作れないかと頭をフル回転させている。……そうだ。
「おまえ、名前何ていうんだ」
鍔迫り合いに持ち込んで、真正面から見据えつつ訊ねた。
「答える必要性を感じません」
「おまえは俺のこと色々知ってんのに、俺は滅却師であること以外おまえのことを知らねぇ。不公平だろ」
不公平、という言葉にあいつが眉根を寄せた。
俺はここで確信した。こいつ、悪に徹しきれていない、と。
ギリリと斬魄刀に力を込める。するとあいつは一旦俺から距離を取った。
ふわりと地に降り立ち、あいつは声を張る。
「失礼。申し遅れました。わたくし、キルゲ・オピーと申します。以後、お見知りおきを……と言っても、何と虚しいことでしょうか。これからどちらかが死ぬというのに」
「俺を殺すんだろ? なんで『どちらかが死ぬ』って言った?」
「……あっ」
あいつ──キルゲが、ぱしっと口元を手のひらで覆った。
やっぱり、悪を演じきれてない上に、ちょっと天然入ってるな。
そして。
「──死ぬ覚悟で俺と対峙しているわけか」
「そ、そのようなこと……!」
「声が震えてるぜ」
「ッいい加減になさい。死闘の場に会話は不要です」
「あんたさっきからぺらぺら喋ってるぜ。沈黙は金じゃなかったのかよ?」
「この……ッ、減らず口はお止めなさい!」
ヒステリックに叫んで、闇雲にこちらへ突っ込んでくる。先程までの研ぎ澄まされた雰囲気は鳴りを潜め、なんというか隙だらけだ。こちらからも跳躍し、キルゲに一瞬で接近すれば、あいつは空中で器用に急ブレーキをかけた。が、間に合わずに俺に衝突する。正確に言えば、俺の胸に飛び込んできた形になった。これ幸いと、俺はキルゲを腕の中に閉じ込めた。
「っとぉ、つかまえた!」
「離しなさい! 離せぇ……ッ! って、びくともしない!」
腕の中で羽根をばたつかせて焦るあいつを、小鳥みてぇだなと思えば自然と笑みが浮かぶ。そんな俺を見てキルゲは急に大人しくなった。無機質な大翼がしんなりと力を失う。「お?」と思っていると、あいつは翼同様に力無く呟いた。
「殺しなさい。ここまで虚仮にされて、実質無力化されてしまっては、陛下の命を遂行することは最早不可能です」
「殺さねぇ、絶対。それに虚仮になんかしてねえよ。ただあんたが小鳥みたいで、なんか……かわいいなって」
「は、? な、なん? 何ですって?」
「だから、かわいいなって思ったら微笑んじまっただけだ。そのまま俺のもとでカナリアみたいに囀っていてくれよ、その綺麗な声と心で」
我ながらいまの台詞は無いな、と思った。砂糖を吐きそうなほど甘い言葉、と言えば聞こえは良いかも知れないが格好がつかねぇ……と猛省していると、キルゲがごそごそと身動いでからぽつりと言葉をこぼした。
「……『かわいい』も、『綺麗』も、生まれて初めて言われました……このようなおじさん相手によくも言えたものですね」
「ぜんぶ本気だぜ?」
「そのような言葉、聞きたくありません。命を賭して貴方を足止めするのですから……と、言わねばならない筈なのに……何故でしょう、自分の生命が惜しくなってしまった。これでは陛下の駒失格です」
しょんぼりと悄気返ってしまったキルゲを拘束していた完聖体とやらが宙空に粒子となって溶けていく。戦意喪失と受け取った俺は、羽根を失い俄に落下しそうになったキルゲの身体を抱きとめ、言った。
「護り抜くからな。世界も、キルゲ、あんたのことも」
この逃亡劇を、ハッピーエンドにしてみせる。絶対に。
