Phi-Brain

そうして日々は積み重なる

買い物カゴに入れられた品物が、レジを通過して、もう一方のカゴに収まる。時にはカゴの端から順に埋まっていき、またある時にはレジを通過した物でもテーブルの上で一時待機し、更には寝せて置かれていた物が縦になり。こちらとそちらにあるのは同じカゴなのに、入れる人によってこうも変わるのかと毎回感心する。買ったばかりの物が人の手で整然と並べられていく、この光景を見るのがカイトは好きだった。
店内を回りながら、カゴの中で次第に積み重ねられた品物。商品が二つ三つ程度ならセルフレジを利用するが、数日分の食料や日用品を買い足すとなると話は別だ。自分でレジに通したそばから袋に詰めてを繰り返すよりも、プロの仕事のほうが圧倒的に速く美しい。もちろん、買い物の最中にカゴの中を簡単に整理したり、見て回る順番を工夫したりはするけれど、店員はそれ以上に綺麗に詰めるから結構やり手のパズラーだ。
今だって、レジを通す前に上のほうに乗せられていた潰れやすい物、軽くて柔らかい物が、カゴを移動した後もちゃんと潰れない位置にある。ハノイの塔を解くのに一定の規則性があるように、もしかしたらレジを通す順番にも法則があるのかもしれない、とカイトは幼い頃から思っているが、それにしては店員がどれだけ山盛りのカゴだろうと捌いていくので、これといった法則は今のところ見つけられずにいる。
すべての品物が会計済みのカゴに移る。財布を取り出して待っているのはノノハだ。
ギャモンが見れば、後で清算するとしても女に払わせんのか、とツッコミが入るかもしれないが、二人は今の形で充分に納得していた。大事なお金の管理をカイトに任せるよりも自分が担当したほうが確実だから、というのがノノハの言い分であり、カイトも言い返すつもりはないけれど、それだけじゃねぇだろと内心思っている。何せノノハは記憶力が抜群に良い。カゴの中にある品物それぞれの値段も、底値も、すべて把握済みだ。通い慣れたスーパーなら尚更、今日もお得な買い物ができたと満足げにしている。
表示された合計金額ぴったりのお金をノノハが出す。店員がそれを確認したのを見るなり、カイトはカゴを両手で持ち、袋詰め用の台へと移動する。事前にノノハから受け取っていたエコバッグを広げ、さてどれから入れようかと一瞬考える。
袋詰めはカイトの担当だ。実を言うと、これをやりたいから会計を全面的にノノハに任せている面もある。まずは牛乳を手に取り横向きに倒し、パックの注ぎ口の三角形が上から見えるようにして置く。他にペットボトルなどがあればすべてを縦にして入れるけれど、今回はそうではなかったので、横向きでも比較的潰れにくい方向を意識する。
続いて牛乳の隣に置くのは六個パックの卵。こちらも割れやすいイメージがあるが、ケースは意外と丈夫で縦からの力に強いため、袋の底に固定したほうが安全だ。
卵の両脇は、トマトの水煮缶とシーチキンの缶詰で固める。それから、トレイ入りのひき肉や鮭の切り身をビニール袋に包み、卵と牛乳の上に順に乗せていく。中途半端な隙間にはパスタの乾麺の袋、バラ売りのにんじん、豆腐、食パン、袋入りのしいたけ、同じく袋入りで五個セットのピーマンなどが重い物から順に詰まる。
大きめの物をあらかた入れ終わったところで、今度はエコバッグの側面に沿って壁を作るように、レトルトのカレーの薄い箱やパスタソースの平らな袋を入れる。これらはノノハが部活の助っ人や朝練でいない時、カイト一人でもちゃんと食べるようにと用意された物だ。意外と役立つので、時々味を変えながらもすっかり定番入りしている。

「カイト、どう?」

会計を終えたノノハが後ろから覗き込む。ちょうど、ほうれん草とベーコンと替えの歯ブラシを入れたタイミングで、カゴの中に残るのは長ネギ一本のみ。別にネギが苦手だから最後にしたのではない。エコバッグの片方の取っ手に通して差し込む。

「ほら。解けたぜ」

そのままエコバッグを持ち上げてみせれば、長ネギは見事に安定した。食べるほうはともかく、袋詰めに関しては長ネギはもはや敵ではない。今日も攻略できたと得意げに笑うカイトに対し、ノノハは呆れてみせる。

「あんた、本当飽きないわよね…。またそうやって袋詰めをパズルに見立てて」
「そっちだって似たようなもんだろ。レジ終わる前からちょうどの金額用意して、隣のレジの新人さんびっくりしてたぞ」
「それはカイトが買う前から足し算して、合計言ってたからでしょ」
「ノノハがそれぞれの値段覚えてたからな。それに暗算はパズルでもたまに使うだろ、早いに越したことはねぇって」
「買い出ししながらパズルの特訓するのも、どうかと思うわ…」

互いにいろいろ言い合いながらも、買い物カゴを戻し、二人並んで出口へと向かっていく。すっかり重くなったエコバッグは、それでも変わらずカイトの手にある。
男だとか女だとか、どちらが力持ちだとか、そういったやり取りは今更交わすまでもない。ただ当たり前のように持ち続けるカイトの手元を見て、ノノハが時折嬉しそうに微笑む。二人で過ごすなんでもない日が、今日も穏やかに暮れていく。



fin.

(いい夫婦の日記念カイノノ。この二人に関しては恋人みたいに甘いのよりも、もはや生活の一部になってるくらいが好きです。)

2020/11/22 公開
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