Phi-Brain

サンタクロースは夢を繋ぐ

「クリスマスには、サンタさんがプレゼントを持ってきてくれるのよ」

パズルタイムを終えて手作りクッキーを食べていた子どもたちは、ノノハの言葉にきょとんとして咀嚼を止めた。

「クリスマス?」
「サンタ、さん…?」
「プレゼント!?」

異国の文化とも言えるそれらに聞き覚えは無いけれど、最後の言葉だけは魅力的だったらしい。きらきらと期待に満ちた目を受け止めて、ノノハは子どもでも分かるように説明を始める。

「うん。いい子のところには、夜寝ているとサンタクロースが来てプレゼントを置いてくれるの。12月24日と25日の間にね」
「わぁ、ステキ…!」
「でも、いい子ってきっと世界中にいっぱいいるよね…?だったら多すぎて、僕のところには来ないかも…」
「大丈夫!サンタさんは一晩で世界中を回るんだから!」
「えっ、すごーい!」
「じゃあ俺の家にも来るかな?」
「今までお家のお手伝いいっぱいして、いい子にしてたでしょう?来るわよ、きっと」

子どもたちの不安を掻き消すように断言するノノハ。それからクリスマスの歌を皆に教えて、サンタクロースの外見…例えば赤い服や大きな袋のことを話して、話に夢中になるあまり普段よりもおやつの時間が長くなって、ようやく子どもたちと別れたのがつい先程のこと。
帰り道、子どもたちがそれぞれの家に入り完全に見えなくなったのを確認してから、それまで静かに話を聞いていたカイトが呆れ混じりに言う。

「おいノノハ、勝手にあんなこと言って…。パズル作るのは俺なんだぞ」
「いいじゃない、突然プレゼントが置いてあるよりも事前にクリスマスのお話を聞いていたほうがワクワクするでしょ?」
「そりゃあそうだけどよ…」

ここは日本やイギリスのようなクリスマスの文化がまだ根付いていない地域。クリスマスを祝う宗教ではないというのもあるが、それ以上に日々の生活のことで頭がいっぱいで余裕が無いというのが実態だろう。しかし、だからといってそれが、子どもたちの夢を見る機会を奪っていい理由にはならない。そんな会話を数ヶ月前、ルークたちと交わした。
それをカイトも覚えていたので先程は特に口を挟まなかったが、それでもあんなに期待を持たせるような話をされては悪態の一つもつきたくなるのだ。もちろん、そんなプレッシャーに負ける気はまったく無いけれど。

「私だってスイーツ作るんだもの、つべこべ言わない!」

不満げなカイトを叱咤激励するように、ノノハが自身の役割を告げた。それこそ数ヶ月前に行われたPOGでの作戦会議の時とまったく変わらない彼女の様子に、カイトの表情が自然と緩む。

「あぁ、そうだったな。俺たちだけじゃなくルークやフリーセルたちも、今頃大変だろうなぁ」
「そうよねー。私たちはこの辺り一帯だけでいいって言われたけど、フリーセル君はクロスフィールド学院の子どもたちに作るんだっけ」
「ピノクルやレイツェルだけじゃなくパズルを作り慣れているメランコリィも手伝うとはいえ、生徒全員となると結構な数だしな」
「ルーク君もPOGとして全世界にパズルの贈り物をするって張り切ってたわよね」
「そっちも実際にパズルを作ったり配ったりするのは現地にいるギヴァーだけど、そいつらの動きを全部把握してまとめなきゃなんねーし。本当すげえよ、ルークは」
「確かエレナもPOGのイベントに出るのよね。ギャモン君もトナカイの格好でそこに駆り出される予定だって言ってた。あとキューちゃんのメカを使って、サンタクロースの軌道予測と追跡を配信。アナや軸川先輩もそれぞれ協力して…」
「…お前、相変わらず無駄に記憶力良いよな」

二人で話しながら、別の場所で頑張っているであろう仲間たちに思いを馳せる。POGが主体となり、離れていても各々ができることをする今年のクリスマス。
過激なファイ・ブレイン育成やオルペウスの腕輪を巡る計画、その他個人的な問題も含めて、皆が過去につらい思いを経験した。だが、そんな悲劇は自分たちだけで終わらせたい。負の連鎖を断ち切って、明るい光に包まれた未来にしたい。その思いが、静かな情熱が、今もそれぞれの胸の中にある。

「…つーか、さぁ」

皆のことを思い出して気持ちが和らいだせいだろうか。それまでとは一転して、カイトは視線を逸らして何やらもごもごと言いにくそうに、しかし大切なプレゼントを渡すような丁寧さで言葉を紡ぐ。

「慣れない材料でノノハスイーツ作るのうまくなったよな、最近」
「なっ、何、どうしたの急に…!?」

珍しく素直な言葉に、ノノハは思わず真っ赤になってカイトを凝視した。反抗的な物言いや無遠慮な距離感は幼馴染みゆえ慣れていたけれど、こんなふうに突然真面目な態度を向けてくる彼は新鮮で、緊張してしまう。
そんな彼女の視線に気付いたカイトもその空気には慣れておらず、先程の言葉を隠すように慌ててまくし立てる。

「でも、今回はいつものノノハスイーツと似てるってバレちゃ終わりだかんな!気を付けろよ!」
「…え?あ…あぁ、うん…そうよね」

カイトがいつもの調子に戻ったのを見て、ノノハも自らを落ち着かせるように何度か頷いた。そして、慈愛に満ちた眼差しになって微笑む。

「カイトもね。パズルには作った人の癖が出るんでしょ、あの子たちカイトのパズルに慣れてるんだから気を付けてよ?」
「誰に対して心配してんだよ。任せとけって!」

カイトは親指を立てて自信満々にニッと笑ってみせる。ノノハの言葉は忠告にも似ているが、ずっとカイトの近くで見守ってきたからこその信頼と期待がそこに込められていることを、カイトもじゅうぶん感じ取っていた。
これから忙しくなるだろう。パズルを作りスイーツを作り、そしてクリスマスを迎える夜になったら二人でそれらを子どもたちの元へ届けるのだ。空を飛ぶソリは無いけれど、赤い衣装を着て、新作のパズルと甘いスイーツの詰まった大きな袋を持って。
クリスマスの朝に目を輝かせて贈り物を開ける子どもたちの姿を想像して、二人はまた顔を見合わせ、くすりと笑った。



fin.

2017/12/25 公開
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