BO-BOBO

最愛同士

※恋人設定ランレムで外泊する話。
※特にお互いに触れてすらいないけれど、甘い。

苦手な方はご注意ください。




フロントで受け取ったばかりのルームキーを使い、ドアを開ける。部屋に入りそれを所定の位置に置けば、電気が通ったらしく照明が自動で点いた。

「やっぱり一人の部屋より広いですね!ね、ランバダ様?」
「まぁ、二人用だからな」

何を当たり前のことを、と言わんばかりのトーンで淡々と返す。それでもレムは特に気に留めた様子もなく、綺麗に整った内装を見回して無邪気に笑う。早速、椅子の上に荷物を置いて、備え付けの冷蔵庫や机の引き出しを順に覗いてみたり、室内を探検する感覚でバスルームの位置を確認したり。そうかと思えばまた戻ってきて、ベッドの縁に楽しそうに腰掛けた。

「ほら見てください、ベッド大きいです!」
「あぁ」
「それにふかふかですよ!」
「そうだな」
「それから、えーっと…」

矢継ぎ早に述べられる感想に、やはりレムの興味はそこか、と内心で呆れる。自身を布団の子と称し、睡眠にまつわる真拳を扱う彼女のことだ、予想はしていたが。
しかし一通り話し終わると、ふいにレムの動きがぴたりと止まった。不自然な沈黙に思わず彼女を横目でちらりと見れば、目が合った瞬間に上目遣いで投げられる言葉。

「一つ、ですね…?」
「…あぁ」

何が、は言わなくても分かる。レムが端のほうで遠慮がちに座っている、この室内の面積の大半を占めるダブルベッド。二人用の部屋で、寝る場所は一つ。言ってしまえばダブルルームの標準的な設備だ。最低限の家具とアメニティが揃った、宿泊施設。
別に今更それがどうということはない。俺たちは既に恋仲で、互いの気持ちも知っていて、今日は久しぶりに二人で少し遠出をして…ここからの距離を考えると日帰りは難しいから、一泊して明日の朝に出発する、ただそれだけ。何もおかしな点はないし、そもそも日頃からレムは勝手に俺の布団で寝ていたり、俺が寝ているところにわざわざ引っ付いてきたりしているから、特段緊張することもない、はずなのだが。
それでも非日常の空間がそうさせるのか、いざ部屋で二人きりになると、途端に妙な気まずさが押し寄せる。外では周りの目もあり普段と大して変わらなかった距離感が、今はどの程度が適切なのかも分からない。恋人らしく近付くべきか、普段通りを装ったほうがいいのか。レムはどう思っているのか…ただ純粋に一緒に眠れたらいいのか、それとも多少は「その先」を意識しているのか。困り果ててしまい、広いベッドなのにレムが座るのとは反対側の縁に、彼女に背を向けるような形で座る。そのまま寝転んで手を伸ばしたとしても、届かない位置。二人の間の空白がやけに居心地悪い。
だが、現実はそういつまでも悩んでいられない。もう日も沈んでそこそこの時刻だ、下手にゆっくりしていたらすぐ夜中になってしまう。夕飯はさっき二人で食べてきた。…つまりは、寝る支度をしなければならないわけで。

「ひとまず風呂に入るが…順番はどうする?」
「あっ、ランバダ様先にどうぞ!お疲れでしょう?」
「それはお前もだろう」
「いえ、ランバダ様のほうが格上なので、ランバダ様が先です」

レムは良かれと思って勧めてくる。今は仕事中でもないし、どちらが格上か格下かは関係ないのだが。それに、俺のほうが上司だから言うことを聞かせる、なんて戦闘時や仕事上の重大な判断ならいざ知らず、こういった場ではあまり行使したくない。
とはいえ今回の話は、上下関係を理由にされたからといって拒否するほどの問題でもないだろう。たかが風呂に入る順番にこだわりなんてない。レムが後を選ぶなら、俺は残った選択肢を取るだけだ。

「じゃあ、俺が…」

ベッドから立ち上がり、そう言いかけたところで、しかしブレーキがかかった。ある可能性が頭をよぎったからだ。レムに背を向けたまま数秒の間、立ち尽くす。
別に順番にこだわりはなく、無理やり命令するつもりもない。何なら気付かなかったことにしてもいいくらいの、本当に些細なことなのだが。

「…やっぱりお前先に入れ」
「はい?どうしたんですか、急に」
「俺が上がるのを待ってるうちに寝るだろ、お前」

レムの行動パターンは残念ながら把握できている。あんなことを言っておいて、俺が風呂から戻ってみればぐっすり寝ているのがオチだ。しかも熟睡。そうなってしまえば彼女の場合、どんなに起こそうとしても朝まで絶対に起きない。
それ自体はまぁ、思うところはあるが別にいい。今はそのタイミングではなかった、レムは広くてふかふかのベッドで眠るだけで満足だった、それだけのこと。
ただ現実的に考えて、レムのほうだけ風呂に入るタイミングを逃して朝風呂コースになるのは、さすがに可哀想だろう。女心までは分からないが、寝るなら寝るで身なりは綺麗にしておきたいはずだ。
一方、レムが先に風呂を済ませてしまえば、その後俺が入浴してる間に彼女が眠ってしまっても、それはそれでいたって普通の夜だ。そして、そうなる可能性が高い以上、レムのためを思えば順番を譲ってやるのが最善だろう。
…そんな理由から、先に入れと提案したのだが。レムは心外だと言わんばかりに、勢いよく首を横に振った。

「えっ、先でも後でも寝ませんよ!?ちゃんとランバダ様のこと待ってます!」

何を一丁前に、と反論しかけて…気付いた。
おそらくは咄嗟に口をついて出た言葉なのだろうが、そのセリフに込められた意味、レムの本心。隠しきれていない本音。
少し驚いて、それからにやりと口角が上がる。気付いてしまったのだから仕方ない。
そんな俺の表情の変化からレムも何かを察したのだろう、嫌な予感を顔に貼り付けて戸惑い気味にじっとこちらを見つめてくる。

「な、何ですか…?」
「いや。お前、仮に先に入ったとしても寝ないで待ってるのかと思って」

自分が意地の悪い笑みを浮かべているのは自覚していた。プライベートで上下関係はないつもりだが、それでも先程の彼女の発言は丁寧にからかいたくなってしまう。
レムの言葉は、つまりそういうことだろう。例えば俺がレムの後に風呂に入っても、レムは俺が上がるまで寝ないで待っている。もう眠りに就ける身なりなのに、わざわざ俺を待っていたい、一緒に夜を過ごしたい、ということ。
まぁ、実際にレムが寝ないで待っていられるかは別問題だが…何よりも寝ることの大好きなレムがそれほどまでに俺を思っていた、少なくともレムの意思はそうなのだと思いがけず知ることができて、ついニヤけてしまうのは隠せないし隠す気もない。
するとレムもようやく自分の発言の大胆さに気付いたらしい。顔を真っ赤に染めたかと思うと、急にわたわたと慌て始めた。

「あっ!?いえ、そうじゃなくて!いや、そうなんですけど!」
「どっちだよ」

ツッコミを入れてやれば、レムは「あー」だの「うぅ」だの言葉にならない唸り声を上げた後、観念したようにベッドに突っ伏す。そんな行動をとったところでこの状況が打開できるはずもないけれど、彼女なりの精一杯の抵抗なのだろう。どう見ても力の差は歴然だが。
悪いが逃がすつもりなんてない。うつ伏せのまま両腕で顔を隠し続けるレムに、俺は悠然と歩み寄り、至近距離で問いかける。

「寝る気か?」
「寝ません!寝ませんけど…!」
「知ってる。今そう言ってたもんな」
「…もう!ずるいですよ、ランバダ様!」

顔を上げたレムと、今日一番の近さで目が合う。彼女のほうもまさかこんなに空白が詰められているとは思わなかったのだろう、潤んだ目が驚きで見開かれた。息遣いさえ伝わりそうな距離に、まだ触れてもいないのに熱が伝染する。
…このまま流れでいただいてしまってもいいが、それでは本末転倒だ。密かに自制しながらも、目の前の相手には悟られないよう、余裕を見せて追撃する。

「何なら一緒に入るか?風呂」
「なっ…!?やっ、それは、その…!」

今度は声すら失って、しかし目は逸らさないのだから正直だ。からかいを真に受けたらしい彼女の様子に、予想通りとはいえ満たされた心地になって、くつくつと笑う。
俺のほうも別に、今すぐにそこまで進むつもりはない。とりあえずはレムの気持ちを充分すぎるほど確認できて、俺だけに見せるこの反応を得られたのだから満足だ。未だ混乱するレムにふっと微笑んでみせると、今度は身を引いて逃げ道を作ってやる。

「まぁいいけど、嫌なら先に入れ。待っててやるから」
「お先っ、失礼します!」

レムはもう耐えられないとばかりに、即座に返事をして立ち上がった。そして椅子に置かれた荷物から着替えの入った袋を取り出すと、後も見ずにバスルームへ駆け込んでいく。その行動だけを見れば、冗談で済ませたとはいえそんなに嫌なのか、と落ち込みそうなものだが、直前までの彼女の反応が、まっすぐな視線が、照れた表情が、余計な不安の類をすべて打ち消してくれていた。
と、その時。控えめに、バスルームの扉の開く音がした。レムが駆け込んでからまだ数分も経っていない、風呂から上がるにはさすがに早すぎる。急ぐあまり何か忘れ物をしたのか、それとも湯加減の調整が分からないのか。そんな見当をつけつつも不思議に思い、扉のほうを眺めていると、先程よりは気持ちを落ち着かせたらしいレムが申し訳なさそうに顔を覗かせる。

「あの…」
「どうした?」
「さっきの、別にランバダ様が嫌なわけじゃないですよ?ただそういう…一緒に、なんて初めてですし今日はもう恥ずかしいだけで…それだけですっ!」

後半はほとんど消え入りそうな声だった。それでもなんとか言い終えてバスルームに引っ込んだと思った瞬間、再び勢いよく扉が閉められる。おそらくは、逃げてしまった後で俺の言った「嫌なら」という部分が引っ掛かり、罪悪感から弁明しようとしたが、話すうちに自分が何を言っているのか理解して恥ずかしくなった、といったところか。
満足にリアクションもできず呆然としてしまったけれど、彼女の残した言葉が遅れて効いてくる。じわじわと上がってくる熱、つい緩む表情。否が応でも自覚してしまう。
嫌じゃないとか、初めてだとか、今日は、だとか。

「正直すぎるだろ、あいつ…!」

反撃をまともに食らってしまったと気付いて、溜め息をつきながらベッドの縁に深く腰掛ける。額から目元の辺りを片手で押さえてみたけれど、やはり熱かった。仰向けに倒れ込み、背中を布団に預ける。普段かぶっている帽子が脱げたのが分かったが、もう直す気も起こらない。自室とは違う天井をぼうっと見つめる。
あいつが風呂から上がって、交代で俺が入って、そうしたら二人でここに寝る。夜は長く、非日常には邪魔も入らない。完全に二人きりの、幸せが約束された時間。
そんなすぐ先の未来に思いを馳せて、自然と笑みが零れる。レムが戻ってくるのが、そして彼女と共に夢に落ちるのが、今から楽しみで仕方なかった。



fin.

(ランレムはランバダがSっ気を出して意識的にレムを振り回してほしいですが、同時にレムも本人の預かり知らぬところでランバダに一撃食らわせてる、ぐらいの関係性だと程よく対等でいいなぁと思います。まるでバトル物のようなあとがき。)

2020/10/30 公開
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