BO-BOBO

Rest In Peace

そこかしこで土煙が立ちのぼり、乾いた風に血の匂いが混ざる。聞こえるのは悲鳴、絶叫、そして高笑い。
いくらか離れた場所では菊之丞の技と思われる花の色彩が広がり、更に遠くにはジェダが起こしたであろう竜巻が見えた。
敵も味方も入り乱れての戦闘。誰かが無差別攻撃を使おうと関係ない、相手を殲滅できるのならば手段にこだわってはいられない。自分の技が味方に当たらないように…なんてのは俺たちにとっては余計な気遣いで、自分の身は自分で守るのが基本だ。
素早く状況を判断しながら、手薄になっている部隊が無いか見極める。
別に助けるわけではない、ただ一部でも防衛ラインを突破されてしまっては全体が崩れかねない。それにそういった箇所は敵も集まりやすく、だからこそ一度に倒しやすい。その際に味方が巻き込まれようが、それはそいつの弱さゆえの自業自得。そんな理論を振りかざして、また戦場を歩く。
…と、南東方向にそこだけ妙に静かな一帯を見つけた。周囲の混乱にそぐわないほど静まり返っていて、一瞬こちらがやられたのかと緊張が走る。が、それにしては敵の追撃も無い。本当にこちらが倒されたのならば、相手も手薄になったところを攻めてきそうなものだが。そういえば、あの辺りを任せた奴は確か…。

「…おい、生きてるか」

敵も味方も倒れている一帯の、その中心に向かって呼びかける。淡々とした口調なのはそいつらが死んだからではない。むしろ「生きている」と確信していた。敵はともかく、味方側の中心人物は間違いなく眠っているだけだ。彼女の真拳はそういう技が多いから。

「生きてんなら起きて次の奴らを…レム?」

いつもの調子で言いかけて、異変に気付いた。
彼女の髪が遠目からでも分かるほど、赤く染まっている。
外から付いた返り血の赤ではない。毛先に向かって赤紫の混じった、鮮やかな恐ろしさを思わせる色だ。対峙した者だけでなく本人まで飲み込んでしまいそうな、強大な力を秘めた色。

「レム!おい、大丈夫か!?」

思いがけない異常事態に、咄嗟に駆け寄って肩を揺する。
…呼吸はある。この分だと意識もすぐに戻る。ひとまずは動かしても問題ないと判断して、片膝をついてレムの上体をいくらか起き上がらせる。頭の片隅では冷静に分析するが、それでも嫌な予感に突き動かされて、気が急いてしまう。
自分の真拳で死ぬことなど本来はあり得ないが、今回の彼女の変化はこれまで一度も見たことがなかった。

「うぅ…?」

レムはまるで何事も無かったかのように、ゆっくりと目を開いた。普段の眠りから覚める時と変わらないその様子に、まずは一安心だと息をつく。
それと同時に、彼女の髪も普段通りの色に戻っていくのが分かった。赤い色素がすうっと消えて、穏やかな淡い水色が現れる。
その時、後ろから賑やかな声が聞こえた。

「えーっ、なんでレム様ばっかりー」
「この前なんかランバダ様、俺のこと相手の技を知るための囮にしたんですよ!?」
「……」

振り向かなくても分かる、宇治金TOKIOとチスイスイだ。二人とも様子を見に来たようだが、レムが無事だと分かった今は張り詰めた空気を和ませる方向に舵を切ったらしい。と言っても、俺にとっては気に食わない野次でしかないのだが。
確かにチスイスイの言う通り、味方を囮に使うことはこれまで何度もあった。だがそれは相手を確実に倒すための作戦で、そこに偶然そいつがいただけだ。そこにいたのがルブバでも覇凱王でも俺は同じ手を使ったし、はっきり言って今のレムの状況とは何の関係もない。わざわざここで持ち出す話題でもないだろうが。
オーラを飛ばしてポリゴンにしてやろうかと思ったところで、ザッと地面を踏み鳴らす音がした。見れば、介入してきたのは険しい顔をしたハンペン。

「何を駄弁っておる、さっさと行け!」

三大権力者のうち二人が揃っている光景に恐れをなしたのか、揶揄こそしたもののこれ以上首を突っ込めば俺を敵に回してしまうと思ったのか。二人は途端に背筋を伸ばし、そそくさと退散する。
ハンペンはそんな二人の背中を押すように問答無用でハンペン承を撃ち、吹き飛ばした。二人だけでなく平隊員までもが巻き込まれて爆風が起こる。方向が違うためこちらに直撃はしなかったものの、巻き上がる砂煙を背中で受けながら庇うように彼女を抱き留めた。
しかし、そんなはた迷惑な力の使い方をしてもハンペンはハンペンなりにレムの変化が気がかりらしく、俺に視線を向けると真剣な顔で頷いた。彼女の身は任せた、ということか。頷き返せばハンペンは再び戦闘へ戻っていく。

「ランバダ様…」

腕の中でレムがか細い声を上げる。上体を離せば、レムは放心した様子でぼうっとこちらを見ていた。意識ははっきりしているけれど、退くどころか動こうともしない。どうやら自力で起き上がるのはまだ難しいようだ。

「とにかく、少し休んでろ。…ったく、いつの間にあんな技編み出したんだよ」

眠っている間に敵を殺すなんて、一体何が起きているのか。
否、おおよその見当はついている。宇治金TOKIOの技にもあるように、フィールド全体を変えて相手を誘い込んだり弱体化させたりする類のものだろう。外から見るとただ眠っているだけで、気が付けば相手は死んでいる。ただの足止めのように見えて、確実に相手を仕留める技。
…あれは間違いなくレムの究極奥義になる。
そこまで気が付いて、自分のことでもないのに内心で愉悦がこみ上げた。今の状態は不安定で心配だが、この力を扱い慣れてコントロールできるようになれば大きな戦力になるはずだ。疲れきった彼女を労る一方で、これからの成長に期待がかかる。
だが、ふと見下ろして目が合った瞬間、レムはぐしゃりと顔を歪ませた。

「…私、が、望んでいたのは…っ、こんな眠りじゃ、ない…」

涙を流しながら、途切れ途切れに吐露される心境。技の最中、作り上げた空間の内側で何が起きていたのかは現時点では知る由もないが、彼女が今何を考えているかはその言葉で簡単に予測がつく。
一般市民に対する「毛狩り」ではない、力を持つ敵との戦闘がどういうものか。真拳を使うことがどういう意味を持つのか。世界を手に入れるにはどんな過程を辿るのか。「殺し合い」が、何なのか。眠らせるサポート役などではなく実際に戦闘の当事者になって、きっと彼女は身をもって理解した。
それに…彼女の髪の色。眠りに関する真拳の性質からどうしても静かな変化のように見られるが、力が暴走していたのは明らかだ。自分でも気付かなかったその残虐性に直面して、戸惑ったり否定したくなったりするのも当然の反応だろう。むしろ最初から適応できる方が珍しい。
外見にまで影響が及んでいたことに本人は気付いていないかもしれないけれど、ゆっくりと撫でるようにその青みがかった髪をく。

「…強い力の反動だろう。そのうち慣れる」
「…っ、う……ぅ」
「仕方のないことだ。今の世界は、先にらないとこっちがられるんだ。強い者だけが生き残る…」
「……」

非情な現実に打ちのめされながら、それでも声を押し殺して泣くレムに、俺は淡々と説く。
罪悪感で苦しむのなら殺さなければいいだろう、と無責任に言い放つのは簡単だ。だが、俺たちの立場上それは許されない。帝国に歯向かう奴は皆殺し。それが三世様の命令であり、三世様の下に就くことを選んだ俺たちの使命だ。
それに彼女の生い立ちを考えても、誰のことも眠らせることができなかった幼い頃よりは今の方が余程良いのだろう。睡殺とはいえ相手はその瞬間、苦しむこともなく穏やかに、とても静かに眠りに落ちていくのだから。
永遠の眠りなんて望んでいないといくら叫んでも、結局彼女の望む眠りなんて、この世界が変わらなければ手に入らない。

「俺たちが勝って、勝ち続けて…誰もが俺たちには敵わないと知った時、争いは終わるんだ」

その『争いの終わった世界』が、彼女の望むような『すべての人間にとって幸せな世界』だとは限らないけれど。

「…っ、はい…」

レムは静かに頷くと、泣き疲れたのか眠気に誘われるようにゆっくりと目を閉じた。それを視界の中央に入れながら、俺は優しすぎる部下の代わりに祈りを捧げる。

罪が罪にもならない世界で犠牲になった者たちよ。
今はただ、安らかに眠れ。



fin.

(レムを心配する気持ちと純粋に力を求める気持ち、ランバダにはその両方があるような気がします。レムと過ごす中で「守りたい」方向に気持ちが傾いていったらいいなぁと思いつつ。)

2019/10/27 公開
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