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無意識の恋のゆくえ

「あっさり月見うどん、揚げ玉とネギどっさり盛り追加!」
「あっ、俺もそれ!」

…あーあ、また始まった。
天才テラスで昼食をとるようになってから毎日行われている、カイトとギャモン君の意地の張り合い。食堂のおじさんは「食べ盛りだからねぇ、男はそれくらい豪快な食べっぷりのほうが気持ちいいよ」と笑っていたけれど…でも、カイトのお目付け役の私としては気が気でない。

だってカイトは、ギャモン君と知り合う前と比べると倍近くの量を毎日食べているのだ。
ギャモン君は以前からよく食べるほうだと聞いたし、本人も食べきれる量を把握した上で注文しているみたいだけど、カイトは明らかに見境なく注文している。ネギ嫌いなカイトがネギどっさり盛りのうどんを頼んだことが何よりの証拠。

「アナとキューちゃんは普通の量で足りてるのに、っていうかカイトも普通の量で足りるはずなのに…。どうして競争するかなぁ」
「アナが思うに、二人は男の子だからだよ」

アナはそう答えてにっこり笑うけれど、やっぱりわからない。

「…もしかして、キューちゃんもわかるの?」
「まぁね。パズルほど難しくはないよ」

げっ、それってつまりパズルすら解けない私には絶対に理解不能?
すると、ヒントを出してあげると言わんばかりに差し出されたパソコンの画面。キューちゃんがカイトのデータを記録するときに使っているものだ。

「ノノハに見せたいデータがあるんだ。カイトの食欲は毎日ほぼ一定の水準だけど、食べる量や速さは日によって違っている。その法則性を調べてみたら…はい、このグラフを見て。ノノハがいる日は山なりの軌道を描き、反対にノノハが部活の助っ人で遅くなった日はペースが上がらず横ばいになるんだ」
「そ、そうなんだ。へぇ…」

要するにカイトは食欲で食べているんじゃなくて、えーっと…?
もう一度画面を見て整理しようとするものの、そこに表示されているのは相変わらず難解な数式といくつものグラフ。うーん、やっぱりピンと来ない…。

「…まぁ、カイト自身は無自覚だけどね。あ、決着がついたみたいだよ」

キューちゃんのその一言で顔を上げてみると、目の前にはまだ余裕そうなギャモン君とぐったりした様子のカイト。ギャモン君の皿は空っぽなのに対して、カイトのは予想通り、ネギだけ残っている。
ちらりと腕時計に目をやれば、もうすぐ昼休みが終わる時刻。次は移動教室だから早く行かなきゃいけないんだけど…カイトの状態を見る限り、一人で食べきるのは難しそう。だからといって残すのも忍びないし…。

「…ったく、もう。今日だけは手伝ってあげるから、さっさと片付けよう?」
「すまねぇ、ノノハ…」

一応カイトに許可も取ったことだし、早く食べて片付けないと。箸を手に取って、もはや麺よりネギの割合が多くなったうどんを食べる。それにしてもよくネギだけ綺麗に残したわよね…カイトにはギャモン君との競争で早く克服してもらわなきゃ。

…そして。

「よしっ…ごちそうさまでした!」

無事に完食。手を合わせてごちそうさまをすると、アナとキューちゃんとギャモン君はぽかーんとした顔でこっちを見ていた。カイトはネギの効力がよほど大きかったのか、まだ机に突っ伏しているけれど。

「ん?私の顔に何か付いてる?」
「いや、そうじゃなくて…」
「ノノハ、お前が今使った箸って…」
「カイトが使ってた箸だと思うなー」



…………。



「…あぁぁぁっ!!」

気付いた頃には時すでに遅し。
まったくの無意識とはいえ、それって、カイトと…!

「わっ私、先に教室行ってるね!カイト、後片付けはよろしく!」

急に顔が熱くなっていたたまれなくなった私は、まだのびているカイトにそう言い残すと、急いで天才テラスの階段を駆け降りた。



…☆…



「んぁ?後片付けって俺まだ完食してな…、あれ?あっ待てノノハ!」
「おいカイト、テメーわざと残したんじゃねぇだろうな!?」
「はぁ!?何がだよ!?」



fin.

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お題配布元:ひよこ屋

2012/02/03 公開
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