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コピーVSオリジナル

気が付くと、俺たちの前にはピンク色の丸い奴がいた。
と言ってもカンチョー君ではない。まるでピンクのボールのように丸い体と小さな丸い手、そして赤色の丸い足。くりっとした大きな目は、こちらをまじまじと見つめている。

「ランバダ、こやつは一体何者かのう」
「…さぁ」

仲間たちが呆然と立ちつくす中、ハンペンが珍しく動揺気味に尋ねてきたが俺にも理解不能だ。
おまけに周りはやけにカラフルでファンシーな景色。戦乱の世の中とはまるで真逆で、それがより一層不安を煽る。どう見ても別世界だ。



とりあえず状況を整理しよう。初めに、宇治金TOKIO・スターセイバー・チスイスイの三人がガジェット君の新バージョンを作ったらしく、その使い心地を確かめたいと言い出した。
それに応じたのはジェダ・菊之丞・ルブバ。つまりは身内で三狩リア形式の練習試合だ。CブロックとGブロックの隊長が組むということは、客観的に見た実力はかなりのもの。ルブバはZブロックだがそれは一番弱いというわけではなく、むしろ実力はある方だ。おまけに三人とも真拳使い。練習試合にしてはなかなか強いメンバーが組んだ気もするが、宇治金TOKIOがそれでいいと言うからそのまま続行することになった。
その宇治金TOKIO側の三人は、お互いの得意な技を知っていて協力奥義もある戦い慣れた組み合わせ。だが自信満々の理由はその連携の良さだけではない。宇治金TOKIOの話によると、新しいガジェット君とやらはゲームのキャラクターを参考に設計したらしくかなり強いらしい。つまり、自分たちだけが情報を持っている有利さを生かした戦い方というわけだ。
…そこまでは良かった。自身の得意なフィールドに相手を引き込んで戦うという手は、彼らだけでなく他の隊長や隊員でさえもよく使っている。
問題はその後だった。新しいガジェット君が試合中に突然暴走し始めたのだ。突然レールを無視して走り出したかと思えば眩い光を放ち…戦っている奴らだけでなく近くで見ていたハンペンとレムと俺までもが巻き込まれて、気が付くと見知らぬ空間でピンクの奴と対峙していた、という経緯である。
それが対戦用の新技だったならば問題はない。しかしガジェット君を用意した三人も不安そうにキョロキョロと辺りを見回していたこと、W三狩リアでもないのに四人目――ピンクの丸い奴が現れたこと、そしてソイツが敵か味方か判然としないことから、練習試合はひとまず中断されて今に至る。

「レム、まさかお前のスリープワールドじゃないよな?」
「違いますよ。ねむりん粉も使ってないのに皆連れていけないですし…Zzz…」
「そうか、悪かった。それとこんな状況下で寝るな」

ここにいるメンバーの大半は攻撃が主流で、フィールドを自在に変える技を持つ者は限られている。眠っている時に見る夢は何でもありだから最も可能性があったのはレムだが、確かにこうなる直前に彼女が真拳を使った気配はなかった。
他にフィールドを変えるとすれば宇治金TOKIOの夏真拳だが、夏らしい様子も今のところ特にない。スターセイバーの技は味方のコスチュームを変えて能力を上げることはあっても、フィールド全体までは難しいはず。だとすると、こうなった原因は新型ガジェット君の可能性が高い。
そこまで推理したところで、宇治金TOKIO・スターセイバー・チスイスイの三人がそれぞれ腕組みをして、得意げに立ち上がった。

「ふっふっふ…ワイは知ってるで、コイツの正体を」
「何てったって俺たちがガジェット君を作ったんですからね!」
「真実は我らの手の中に」

ドヤ顔で言う宇治金組。しかしそこへ冷たい視線が突き刺さる。

「そもそもこうなったのはお前らのせいだろうが」
「もったいぶってないでさっさと話せ、薔薇薔薇バラバラにされたいのか?」
「俺ら完全に巻き込まれ事故ですよ!?」

試合が一時中断となり消化不良なのだろう、ジェダと菊之丞は不機嫌さを隠そうともしない。ルブバは二人ほど好戦的ではないものの、俺たち全員の気持ちを代弁するかのように大声を上げる。
そこへ割って入ったのはこれまで静観していたハンペン。皆を「落ち着かんか」と一言で宥め、宇治金TOKIOに続きを促す。
その宇治金TOKIOは大きく深呼吸すると、腕をゆっくりと降り下ろして言った。

「コイツの名前は…カービィや!」

ビシッ!と指をさして決めた宇治金TOKIO。
数秒間、沈黙が流れ…そして。

「…え?」
「カービィって、ゲームに出てくるキャラですよね。あとそれを元にした漫画とか、アニメとか」
「確かに見た目は似てるが…本当にそうなのか?」
「何ぃ!?宇治金TOKIO様の作った物が信じられないのか!?」
「だからだろ」
「宇治金TOKIOが作ったって時点で怪しいよなぁ。コーヒー豆が原材料の宇治金時だし」
「なっ!?宇治金時と言えばコーヒー豆やろ!?」
「…まぁ、本人がそれでいいなら別にいいけどよ」

各々が好き勝手に言う。ちなみに宇治金時の本当の原材料はアズキだが、この場でそれを教える者はいなかった。そんなことを言い出したらレムは布団だし、スターセイバーはロボットのように見えるがよく分からないし、そもそも人間嫌いの三世様の部下は大半が人間だし…ほぼ全員の存在意義を問われてキリがないからだ。まぁ、それはともかくとして。
付き合ってられんと呆れたのも束の間、ピンクの生物――偽物のかき氷の話を信じるならばカービィが、突然大きな口を開けて空気を吸い込み始めた。嵐のような風速に体ごと持っていかれそうになる。

「くっ…なんだこの力は!?」
「宇治金TOKIO!お前、製作者なら何か知ってんだろ!?」
「ワイも知らんがな…うわーっ!」

暴風にそれぞれ耐える中、宇治金TOKIOが悲鳴を上げる。
片目を開けて見やれば、宇治金TOKIOの体はいとも容易く浮き上がり、氷を点々とこぼしながらも吸い込まれてしまった。

「宇治金TOKIO様が食べられた!?」
「ぬぅ…食品としての使命を果たしたか…」

仲間が吸い込まれたことにスターセイバーが愕然とし、他の皆も少なからず動揺する中、ハンペンだけはズレた解釈をしていたがそれは放っておく。

「くそっ、宇治金TOKIO様のかたき…!」

スピード自慢のチスイスイが怒りに任せたままカービィの方へ飛び出した、瞬間。
相手は頬を膨らませたまま、先程とは逆に思いっきり息を吹き出した。それもただの風ではない、白く雪がちらつくような…言ってしまえば「吹雪」。直撃したのはチスイスイだが、こちらまで冷気が伝わってくる。

「冷た…っ!?」

思いがけない攻撃にチスイスイは悲鳴を上げ、止まったその足が凍って動けなくなっていく。これでは最速も役に立たない。

「おのれ…メガトンパンチ!」

スターセイバーも我慢ならなかったのだろう、敵がチスイスイに夢中になっている隙に近付いて得意技をお見舞いすると、その衝撃でカービィの口から宇治金TOKIOが吐き出された。そして同時に止む冷たい息の攻撃。
スターセイバーはすぐさまチスイスイの足元の氷も割って、二人で宇治金TOKIOへ駆け寄る。

「大丈夫ですか、宇治金TOKIO様!?」
「アカン…なんか力を吸われた気ぃするわ…」

がくりと項垂れる宇治金TOKIO。見たところ頭の上のかき氷はさっきこぼした分以外には減っていないが、顔色は悪くげっそりとやつれている。
その時、メガトンパンチを食らって少しの間ダウンしていたカービィがむくりと起き上がり、再び大きな口を開けた。先程と同じ動作に皆が一瞬で警戒を強める。

「また風か!?」
「踏ん張れ、吸い込まれるぞ!」
「クソッ、風を起こしたり氷を吐いたり…こいつの属性は何なんだ?」

帽子を押さえ、足場をポリゴンで固めながら敵を睨む。真拳でも殺法でも、通常なら使える属性は一つだ。二つ以上扱えるのはそれこそ真拳使いの中でも別格である三世様くらいで…では目の前の奴が三世様と同等なのかと問われれば、その力はまだ未知数。考えられる可能性としては、敵の攻撃をそのまま反射したり、敵の属性を自分にも宿したりする技だろうか?
そこまで考えたところで、すぐ隣を通って後方から前方へ、大柄な男が吹き飛ばされていく。

「ぐっ…うわぁぁああっ!!」
「ジェダ様!」

一直線に飛ばされ吸い込まれていくジェダを見て、ルブバが思わず叫ぶ。しかし返事はなかった。
ジェダは俺たちの中でも体格が良く、がっしりとしている方だ。おまけに重そうな鎧を身に付けていた。それでも容易く吸い込まれてしまった事実から、確定事項が一つ。敵は可愛らしい外見に似合わず強い。
そうこうしている間にカービィは次の攻撃を仕掛けてきた。しかし吹き出した息は冷気を帯びておらず、代わりに目の前で渦を巻く。その竜巻の中央から出現した鎌…まさか、あれは。

「風鎌…!?」

心当たりを口にした途端、大きな鎌が二つ向かってきた。即座に自身の腕をポリゴンの剣に変えて軽くいなすと、次に来るのは竜巻。
実体を掴むのが難しい風の塊をオーラ・オブ・ポリゴンで防げるか…判断に少し迷った時、ルブバの声が響いた。

「俺じゃ力不足ですけど…!シャボン真拳奥義、バブルマン創造!」

その掛け声と共にシャボン玉でできた人形が何体も現れ、ふわふわと心許ない動きをしながら竜巻へ向かっていく。
風とシャボン玉の相性を考えると案の定と言うべきか、バブルマンは竜巻に触れてすぐに壊れてしまう。だがそれによって竜巻の勢いを少しでも殺すのがルブバの狙いだ。普通のシャボン玉ではない、真拳だからこそ可能な作戦。

「これで竜巻はしのげたか…助かった、ルブバ」
「…!はい、ランバダ様!」

素直に褒めてやると、ルブバはいかにも嬉しそうな表情で元気良く返事をした。彼のような実直な部下は嫌いじゃない。
しかし戦いはまだ続いている。次の攻撃を仕掛けようと竜巻を作り始めるカービィを見据えながら、ハンペンと菊之丞がほぼ確定とも言える推測を口にする。

「ぬう、ジェダの技…ということは、よもや」
「アイツ、吸い込んだ敵の技を使えるのか…!?」
「それだけやない、技だけでなく力も持っていかれるで…がくっ」
「宇治金TOKIO様ーっ!」

演技がかった仕草で倒れた宇治金TOKIOを、チスイスイとスターセイバーが慌てた様子で助け起こす。夏真拳で吹雪というのもおかしな話だが、おそらく宇治金TOKIOの頭の氷で凍らせる技・キンキン氷をアレンジしたものだったのだろう。
そんな皆の話を聞いて、ルブバは分かりやすく青ざめた。

「ていうかジェダ様の技って、敵に回したら危険じゃないですか!無双50鎌なんて来たらどうすれば…!」

それっていわゆるフラグでは…?なんて思う間もなく、ヒュッと鎌が空を切る音がする。
見れば空中に浮かぶおびただしい数の鎌、鎌、鎌。いちいち数えないがその名の通り五十個あるのだろう。それらの刃が全てこちらを向き、加速して襲いかかってきた…!
すかさず菊之丞が一歩前に出て両手を突き出し、叫ぶ。

薔薇薔薇バラバラにされてたまるかよ!百花繚乱真拳奥義、鉄秋桜アイアン・コスモス!」

地面から生えるように出現したのは、その技の名前に反してコスモスらしい色のない、やけに黒光りする鋼鉄製のコスモスだ。それらは鎌を弾き返しながら荒々しく前へ進んでいく。
結果から言えば、菊之丞の出した花は五十個の鎌を全て受け切った後、相手に届く前に消滅した。攻撃まではできなかったがそれは向こうも同じ。
「助かった…!」「さすが鋼鉄製!」などと呑気に喜ぶ宇治金組を横目に見ながら、俺の頭は冷静に戦略を導き出す。

「アイツは吸い込んだ奴の技をコピーする…。ならば、作戦は決まりだな」
「えっ?」
「とりあえずジェダをアイツの口から解放する。風鎌が相手じゃこっちが不利だ」

作戦など全く考えていなかったと言わんばかりの表情を向けた宇治金組へ簡単に説明すれば、菊之丞とハンペンも頷いて言葉を続ける。

「確かに…戦える人間が限られるな。風鎌を防ぎつつ攻撃を当てるとなると余計に」
「うむ。その上ワシらが戦うほどジェダの力も持っていかれる。これでは本体にダメージを与えられん」
「あぁ。で、ジェダを放したらアイツはまた誰かを吸い込もうとするだろうから」
「分かりました!誰かが吸い込まれる前に皆で倒すんですね!」

俺の次の言葉を予想して、ルブバがロマンあふれる戦略を唱える。
…が。

「いや。一番弱い奴を吸わせて弱体化したところを倒す」
「囮かよ!?」
「それか一番ボコボコにしたい奴を吸わせる」
「悪意ありすぎるだろ!」

敬語もかなぐり捨てたツッコミがすかさず返ってきた。だがこっちの方が不確定要素も少なく現実的だ。ちらりと他の仲間を見やれば、ハンペンは腕組みをして静かに頷き、菊之丞はやれやれといったジェスチャーをしながら呟く。

「まぁ、その方が俺ららしいな」

この認識の差こそが、G以上のブロックとZブロックの差とも言えるだろう。先程は鋼鉄のコスモスで皆を守った菊之丞だが、彼の本来の技は無差別攻撃が主体だ。宇治金TOKIOの毒かき氷アタックや俺のオーラ・オブ・ポリゴンなども、コントロールはある程度できるがほぼ無差別で広範囲に攻撃を仕掛けるものであり、ハンペンの場合は敵の一人を狙いこそすれど威力が強すぎるため結果的に敵全体を巻き込むことも多い。各々が広範囲に攻撃を仕掛け、周りの者たちも狙う…「戦いながら狩る」俺たちにとって攻撃しながらの自衛は当たり前のバトルスタイルで、そこに容赦も何もない。
大まかな方針が決まりかけたところで、それを邪魔するようにごうごうと音を立てる竜巻、素早く飛んでくる鎌。それに紛れてカービィ自身も駆けてくる。今度は至近距離で大きな一撃をぶつけるつもりなのか。誰からともなく叫び声が上がる。

「ぎゃあああ、また来たー!」
「チッ…仕方ない、先にジェダを出す!このままじゃ話し合いもできん!」
「えっ!?」
「各々吸われないよう備えろ!次に吸われた奴で決行する!」

号令をかけると共に、俺と菊之丞が二手に分かれてそれぞれ技を放ち、敵の攻撃を打ち消す。
その隙にハンペンがカービィの背中側へ回り込み、指で構えを作った。

「ハンペン承!」
「ぐほっ!」

ダメージを受けたかのような声はジェダのものだった。ハンペン承の勢いで外に押し出されたジェダは、しかし先程の宇治金TOKIOほどやつれてはいない。
そこへ、短い足を必死に動かしながらとてとてと走ってくるカービィ。

「来たぞ!」
「でも、この位置だと吸い込まれるのはもう一回ジェダ様では…?」

警戒しながらもジェダから距離があるせいか、そんなことを呟く宇治金組。確かに彼らの言う通り、真っ直ぐに吐き出されたジェダは今、カービィの進路のど真ん中にいる。
しかしジェダはすぐさま状況を把握して立ち上がった。風鎌を出して両手で持ち、構える。

「フン、二度同じ技を食らうかよ。風には風だ!」

その宣言と同時に作り出す二つの竜巻。ジェダの前で留まるそれは、まるでバリアのようにカービィの進路に立ち塞がった。確かにこの状態で再びジェダを吸い込むのなら、竜巻ごと吸い込む以外の方法はないだろう。
「おぉ…!」と感心する声が上がる…が、それはほんの一時に過ぎなかった。そして代わりに上がるのは悲鳴。

「って、バカ!そこで防御したらソイツがこっちに来るがな!?」
「ちょっと待て、来るな!ストップストップ!」
「いやいや、そんな説得が効く相手じゃないですよ!?逃げましょう!?」

カービィはジェダを再度吸い込むことはできないと判断したらしく、くるりと方向転換して一か所に固まっていた宇治金TOKIOたちの方を向いた。その動きに気付いた瞬間皆が敵の狙いを察して叫ぶ。
中でもチスイスイは最速を駆使して一足早く動き出し、ワンテンポ遅れて宇治金TOKIOとスターセイバー、そして一緒にそこにいたルブバも散り散りになって逃げる。
しかしカービィは惑わされず進む。その先で動かなかった者が一人…。

「まずい、レム!」

これまでは陣形の中でも最後列にいたため被害を免れてきた、ついでに最後列で退屈だったのか熟睡体制になっていたレムへ、カービィが真っ直ぐ向かっていく。十分に引き付けて寝撃でも出すのかと思いきや、今回に限ってそんな気配は全くない。
危ない、と思った瞬間、彼女の手前に何かが投げ込まれる。勢いで砂煙が巻き上がり…やがてそれが晴れた頃、視界の中にレムの姿は無かった。一瞬最悪の事態が頭によぎるが、その割にカービィの様子は変わっておらず、不思議そうに辺りを見回している。

「…こうすりゃいいんだろ?ランバダ様」

ふいに後ろから声をかけられ振り向いてみれば、レムを軽々と肩に担いだ菊之丞…と、彼の周りで「ギャギャギャ」と不気味な鳴き声を上げる数体の百合魔人。どうやら先程投げたのは種で、そこから現れた百合魔人がレムを避難させたらしい。…だからといって百合魔人の手から降ろす時に菊之丞を経由する必要があるのか、という点では疑問が残るが。
サングラスの向こうで見透かしたようにニヤつくその視線に、礼を述べるのも気が引けて曖昧に「あぁ…」とだけ返すと、レムがもぞりと動いた。

「んう…?敵…?」
「…今更状況判断か」

何が起きたか分からないままとりあえず地面に降ろされたレムに、もはや怒る気も湧かない。溜め息をついて敵の方を見ると、レムもその視線を追ったのが分かった。
視界の中央には次の標的を目指して走るカービィと、部下二人を背に守るように立ち塞がる宇治金TOKIOとハンペン。ルブバは別方向に逃げたが、なぜかコイツらはまた一か所に集まってしまったらしい。

「ぎゃあああこっち来たー!」
「宇治金TOKIO様!」
「くっ…夏真拳も吸血殺法もメガトンパンチもあの吸い込む風には効かん、かと言って大事な部下を危険に晒すわけにはいかんし!…考えろ、考えるんや……はっ!」

何かを思い付いた宇治金TOKIOが、ハンペンの腕をぐいっと力強く引っ張った。
自分の前にハンペンを置き、そして。

「協力奥義、身代わりーっ!」
「身代わりってワシー!?」

協力奥義…というより巻き込まれたハンペンがぎょっとして叫ぶ。しかし腕を掴まれた状態ではハンペン承を出せず、後ろに宇治金TOKIOがいてはハンペン受け身も取れない。
そもそもハンペン受け身は本当にハンペン専用の回避技なのか、それともただの受け身なのか…なんてことを考えている間にも、ハンペンはほぼ丸飲みでカービィの口の中へと消えていく。
自分が吸い込まれなくて良かったと安堵する者が大半の中、ルブバがまた青ざめた。

「どうするんですか、今度はハンペン様が吸い込まれちゃいましたよ!?」
「あぁ…えーと、悪い、ただでさえ状況が掴めないのにレムを吸い込んで、余計に状況がおかしくなったらまずいと思ってな。ほら、レム・スリープワールドなんて発動されたら大変だし」
「その言い訳絶対今考えましたよね!?」

今度は敬語だったものの、目を見開いてツッコんでくる。その剣幕に思わず視線を逸らせば、代わりに他の奴らが口々に意見を言い始めた。

「まぁ、でもハンペンだし」
「確かに、ハンペンだしな」
「元を正せば食品やし!」
「それ宇治金TOKIO様が言っちゃダメです!」
「あっ、ホンマや。ついうっかり…」
「いや、話逸れてますけどハンペン様だからやばいんですって!俺たちがまとめてかかっても勝ち目がない相手ですよ!?」

確かにルブバの言う通り、俺やハンペンや三世様に対しては、Cブロック以下の隊長が全員で挑んでも返り討ちに遭うだけだ。しかしそれはあくまでも「Cブロック以下の隊長」の場合。そこに俺が含まれていないのは、すなわちBブロックとAブロックの間に実力差はほとんどないことを示す。つまり…

「俺なら勝てるさ」

こんな機会はなかなか無い。下克上といこうじゃねぇか。
にやりと好戦的に目を細め、口の端を吊り上げた…その時、微かに聞こえてくる菊之丞の声。

「でもランバダ様ってBブロック隊長だし…Aブロック隊長のハンペン様の方が強いのでは?」

俺はその問いに戦闘準備で返した。試しにオーラを打ってみたが調子は悪くない、むしろ良好だ。
菊之丞の惨状を見た者たちからは「味方をポリゴンにしてる場合じゃないですよ!?」「裏切りや!」などといった抗議の声も聞こえたが、こちらの勝利を信じていない時点で味方とは呼べないだろう。ついでに先程のモヤモヤした気分も晴れた。
賑やかな奴らには構わずカービィへ向かって駆け出し、速攻を仕掛ける。

「ポリゴン真拳奥義、メテオ・ポリゴン!」

跳躍し手の上に尖ったポリゴンを出現させ、それらを流星群のように降らせていく。
だが相手は的確に見切っているのか、危なげなく避けられてしまった。これまでの戦闘で俺たちの思考パターンを覚えられたのか、それとも…まさかハンペンを吸い込んだことで、技だけでなく回避能力もハンペン並みになったというのだろうか。
自身の中でぞくりとしたものが湧き上がる。しかしそれは恐怖ではなく、強い敵と戦える楽しさだ。それを他の奴も感じているのだろうか、ルブバが半ばヤケクソ気味に、それでもどこか楽しそうに言う。

「こうなった以上は仕方ない、助太刀しますよ!シャボン真拳奥義、捕玉ほだま!」

大きなシャボン玉がカービィを捕らえる。これで相手はもう動き回れない。同時に敵の位置を示す目印となったそのシャボン玉目掛けて、ポリゴンを飛ばす。
しかし相手もしぶとく、俺の攻撃をギリギリまで惹き付けると身を反らせるようにして避けていく。あれは…ハンペン受け身か?
少し厄介に思ったその時、背後から声が響いた。

「悲しいねぇ…俺らは三狩リアで戦ってきたんだ、連携ならこっちが上だ!」
「私も…ねむりん粉…Zzz…」

顔を見ずとも笑っているのが分かるジェダと、まだ夢見心地な口調のレム。
瞬間、目の前にねむりん粉の混ざった竜巻が現れた。これで相手はこちらに近付けない。眠ってくれれば上々、そうでなくても目くらましになる。
竜巻の向こうにいる気配を感じ取り、剣に変えた腕を振り下げて狙う。

「ポリゴン真拳奥義、ポリゴニック・クラッシャー!」

相手からしてみれば、竜巻が割れた途端に衝撃波が襲いかかった状態だ。普通なら無事ではない。
しかしさすがハンペンと言うべきか、竜巻を切り開いた視界の中、すかさずカービィが口から衝撃波を飛ばすのが見えた。ハンペン承だ。
このままでは相殺される、と瞬時に判断して再度ポリゴニック・クラッシャーを飛ばし、畳み掛ける。
俺の放ったものと相手のハンペン承、二つの衝撃波がぶつかり、眩い光に包まれた――。







眩しさから反射的に瞑った目を開ける。敵はまだいるのか?辺りをゆっくりと見回して…やがて警戒を解いた。

「あれ?ここは…」
「俺たちの訓練場…?」
「戻ってきた、のか?」

仲間たちも皆、吸い込まれた時と同じく不安げにキョロキョロと周りの様子を窺う。しかしどれだけ確認しても異常は見当たらずいつもの風景。毛狩り隊の訓練場で間違いない。
唯一変わっていることといえば、暴走したはずの新型ガジェット君が今はなぜか停止していること。それ以外は何の問題もなく、先程カービィに吸い込まれたハンペンですらも無事に戻ってきていた。

「結局何だったんだ、あの世界は…」

問いかけても誰も答えない。それどころか皆、もう三狩リア練習試合の続きをやる気にもなれない。疲れを隠そうともせず、ぐったりと項垂れるだけだった。
そしてその事件以降、新型ガジェット君は「曰く付き」として倉庫にしまわれることになるのだった。



fin.

前サイト10000hit記念リクエスト。夢音レム様へ。

2018/12/20 公開
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