3期25話カイノノ

ガールズタイムの始まりだ!?

※第10話に至るまでの話。







「…ちょっとどうしたのよ、あれ」

芸能活動との兼ね合いもあって、久しぶりに訪れた天才テラス。POGの情報網…というよりルーク様からの情報で既に本来天才テラスにいるはずの一人が旅立っていることは聞いていたけれど、あの彼がいないだけでこんなにも様変わりするものなのか。異様な光景を指差して尋ねると、先客の男性陣からは三者三様の答えが返ってきた。

「あ?そのうち見慣れるだろ」
「カイトがいなくなってからずっとこうなんだよ…」
「長イ長イパズルタイムノ始マリダ」

ギャモンは怠そうに、キュービックは心配そうに、その助手は今ここにいない彼の真似をするように。全員締まらないというか、誰も正確に答えてくれていない。仕方がないから、異様な光景の中心に突っ込んで単刀直入に問いかける。

「ノノハ、そのパズル解く気?」
「エレナちゃん」

私が声をかけたことでノノハはようやく顔を上げた。椅子に座った彼女の膝の上には木製のキューブ。解き方までは分からないけれど明らかにパズルだ。私のほうを向いたもののどう答えるか迷っているノノハの代わりに、ソファーのある団欒スペースのほうからキュービックとギャモンが説明を挟む。

「カイトがそのパズルを置いていったんだって」
「ノノハが自力で解くんだとよ」

ようやく説明らしい説明だ。むしろ最初からそれを言いなさいよ。そう思ったけれど、いまいちシャキッとしない二人の相手をするのも面倒だ。それよりはPOGのギヴァーたるもの、ノノハの手元にあるパズルのほうが気になる。改めてまじまじと見つめてみたけれど、幾何学模様の入った立方体は綺麗に整いすぎてどこを動かしたのかよく分からない。

「ふーん、自力で…。で、どれくらいできたの?」
「あはは、まだ全然…」
「…どれくらいやったの?」
「い、一週間くらい…」

尋ねていくほどノノハの返事は歯切れが悪くなっていく。まぁ予想はしていたけれど。
するとそれがきっかけになったのか、キュービックとギャモンが堰を切ったようにそれぞれの意見を主張し出した。

「あぁもう僕の技術を使えばピースの組み方から中身の透視まですぐにできるのに…!じれったいよノノハ!」
「つーか俺様にかかればカイトのパズルなんざちょちょいのちょいだっつーのに!」
「アンタはパズルが解きたいだけでしょ」

冷めた目で牽制すれば、図星をつかれたギャモンはあっさりおとなしくなった。キュービックのほうも見たところ研究をしたいだけだろう。カイトというそれまでの研究対象がどこかへ行ってしまったことで、フラストレーションが溜まっていてもおかしくない。
それでも彼らが手を出さないのは、私がルーク様から指示を受けたように彼らもまた誰かから「ノノハに解かせたいから外野が解いてはいけない」と指示を受けたから。それを破るとパズルが爆発する…みたいな仕掛けはさすがにないけれど、そこらへんは信頼関係で成り立っているらしい。
…とはいえ、天才たちも解析したがるようなパズルを実力不足のノノハに与えるなんて、カイトは何を考えているのやら。このままでは遅かれ早かれ、いつかの南の島のようになってしまう。パズルを解こうともがくノノハも、ついでにパズルを禁じられた天才たちも。

「仕方ないわね…。ノノハ」
「はい?」



「今日の放課後、女子会するわよ!」



アイドルらしく高らかに宣言すると、ノノハはきょとんとした表情を返した。その代わりにはしゃぐ声がひとつ。

「女子会だー!」

いつの間に来ていたのか、アナが両手を挙げて喜んでいる。ちょうどいい、アナがノノハを巻き込んでくれればほとんど強制的に参加させることができる。

「そうだ、タマキやアイリやミハルも連絡すれば来るかしら」
「スイーツ、スイーツ♪楽しみなんだな、わーい!」
「はいはい、スイーツね。ちょうどオススメのお店があるのよ。ノノハもいいわよね?」
「えっ、はい、大丈夫…」

勢いのままノノハに放課後の約束を取り付けてから、異論は認めないと言わんばかりにすぐ参加候補へ連絡。
テンションが振りきれて忙しなく動き回るアナの向こうで、誰も気に止めないギャモンの独り言がぽつりとこぼれ落ちた。

「アナって男だよな…?」



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