BO-BOBO

キスでとめて。

今日の仕事場は珍しく静かだ。
というのも、いつもバカ騒ぎして仕事を妨害する奴らは敵の偵察やら三狩リアの話し合いやらで留守にしているからで。今ここにいるのは俺とレムだけだが、コイツも俺のした『ある提案』のおかげで居眠りすることなく仕事に励んでいる。
ん?『ある提案』とは何かって?

…【「キス」って先に言ったほうが相手にキスすること】。

我ながら良い案だと思う。
もちろん提案した当初は彼女から全力で断られたが、顔を真っ赤にしながら言われてもほとんど説得力は無く、ただ恥ずかしがっているだけに見えたから強行してやった。せめてもの優しさに「寝言もカウントするからな」と忠告を付け加えて。

だいたいキスなんて言葉は、たとえ魚のほうのキスだとしても日常生活でついうっかり使う可能性はゼロに等しい。だから俺からする可能性も無い。
だがレムの場合は…気が付くと熟睡してるからな、「寝言で言ってた」とでも伝えればたとえそれが嘘だとしても信じるだろう。
つまり、もしレムが仕事中に寝たら罰ゲーム実行。もし寝なくても彼女がいる分仕事の能率は上がるからまぁ良しとする。要はそういう作戦だ。

…そんな俺の思惑に気付いているのかいないのか、レムは今のところ居眠りしていない。
これなら今日の仕事のノルマも早々に片付くはずだ。ったく、起きてさえいれば仕事はできるほうなんだから、毎日こうだと良いのにな。そう思いながら、机の片隅にまとめられた書類に目を通して最終チェック。…よし、ミスも無い。あとはこれを留めるだけだ。

「レム、それ貸せ」
「…どれ、ですか?」
「お前の机の上に置いてあるだろう。ホッチキ、」

…しまった!

寸手のところで例の禁句の存在に気付いた俺はさりげなく以降の言葉を飲み込む、が、時すでに遅し。

「ランバダ様?『それ』ってどれのことですか?」

あーもう、レムの奴、絶対分かって訊いてるだろう。口元がニヤついているのが何よりの証拠だ。…って、そうじゃない!俺は断じて彼女の口元なんか見ていない、特に唇なんか絶対に見ていない!

「…っ、いいから貸せ」
「嫌です!ランバダ様がちゃんと言うまでは貸しません!」
「なんでそうなるんだよ!」
「だってランバダ様、さっき言いかけたじゃないですか!」
「あれは…、ギリギリセーフだろうが!」
「いや、絶対アウトです!」

そんな言い争いを繰り広げながらホッチキスを無理矢理ひったくろうとするが、レムも必死にそれを握ったまま放そうとしない。どうしてコイツはこんな時だけ妙に強情なんだよ…まるで「してほしい」って言ってるようなものじゃねぇか。
はぁ、とため息兼さりげなく深呼吸。気持ちを落ち着けてもう一度彼女と向き合う。
そっちがその気なら、俺にだって覚悟はできている。

「…目ぇ、閉じろ」

少し低めの声で囁くと、レムも察したようで大人しく目を瞑った。彼女の顔が微かに赤みを帯びているのは、先程の口論だけが原因ではないはずだ。
その頬に手を添え、そっと顔を近付け…



ちゅ。



ほんの一瞬だけ、触れたか触れないかといったところ。だが、唇に伝わった柔らかな感触は忘れようもない事実で、それはつまり正真正銘「した」ということで。
ゆっくりと顔を離すと、真っ赤な顔で固まっているレムに焦点が合う。

「ランバダ、様…」

まだ呆然としたまま、それでもなんとか彼女が紡いだ第一声は俺の名前。
その声がなんだか色っぽく思えたのは、俺がそういう気になってるからなのか、それともレム自身も望んでいるからなのか。

「…嫌だったか」

試しに意地悪な質問をすれば、首をぶんぶんと横に振って「いっ嫌じゃないです!」と随分素直な答え。それから自分の言った返事の意味に気付いて必死に照れ隠しをする姿も、それでもその間ずっと俺から視線を外さない正直な目も…彼女のすべてが愛しくて。

「つまりは、好きなんだよな」

カシャーンッ、と彼女の手からホッチキスが落ちたのも気にしないくらい、最初よりも深いキスを落としてやった。



fin.

(最後のランバダのセリフはそのまま「俺がレムを好き」でも、確信したように「レムが俺を好き」でも、いっそのこと「キスが好き」でも皆さんそれぞれの好きな解釈でどうぞ。しかしなんだこれ、書いてるこっちが恥ずかしくて変なテンションになる。
それでもなんとか完成させて載せたのは、前サイトの日記でこそっと「ランレムのキスネタ恥ずかしいんですけど載せても大丈夫ですか…!?」的なことを書いたら拍手で背中を押してくれた同志の方がいたからです。ありがとうございます…!)

2012/06/03 公開
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