BO-BOBO

癒し

彼を置き去りにしてしまった。
彼の強さなら大丈夫と高を括っていたわけではない。むしろ彼の強さを知っているからこそ、それ以上の敵の強さに危険を感じていた、はずなのに。

「ランバダ様ぁ…」

目を閉じたまま動かない彼の名を呼ぶ。反応が無い、その現実にまた心が沈んでいく。息はしているけれど、力を吸い取られたことで彼が激しく消耗したのは明らかだった。「誰か助けを呼べばランバダ様を救えるはず」なんて浅はかな考えで、でも結局は逃げただけの自分に嫌気が差す。自分が犠牲になることだってできたのに。
いや、そもそも私がもっと強ければよかったのだ。少なくとも彼の足手まといにならない程度には強くなければならなかった。



ランバダ様がボーボボさんを倒しにいこうとした時、私はてっきり一緒に行くものだと思って…甘えていた。

「銅バッチの奴は足手まといだ」

ランバダ様はそう言って、銀バッチの人たちと戦いにいってしまって。
残された私のもとに、闇の奴らが現れた。おそらく小手調べとして、私が一人になったところを狙ったのだろう。異変を察知したらしいランバダ様がすぐに加勢してくれたけれど、二人でも歯が立たなくて…結局、彼は私を逃がして犠牲となってしまった。

もしも私が銀バッチの強さだったら?
たとえ銅だとしても、私が無理を言って戦闘へ一緒についていったら?
それができなかったとしても、せめて一人の時でも狙われるような隙を作らなかったら?
彼ではなく私が犠牲になっていたら?



「あーあ、情けないな。この程度の奴と組んでたなんて」

突然後ろから声がして、振り返りながら反射的に戦闘体勢をとる。見覚えのある赤い髪、カラフルなジャケット。ランバダ様がボーボボさんを倒すために組んだ中にいた、銀バッチの奴だ。

「ランバダ様を侮辱するな!」
「女の子なのに乱暴な言葉遣い。良くないよ」
「敵に敬語を使う必要なんかない」
「敵…か。このザマの奴から戦力外通告された君が、僕と戦おうっていうのかい?」

その青年は挑発するように言い放ち、一瞬で間を詰めた。そして、

「…なーんてね」

好戦的だったはずの目からは突然戦意が消え、にっこりと細くなった。
思わず怯んだ私に、青年は予想外の言葉を投げかける。

「彼は君を守りたかったんだよ。闇の奴らからも、君にとって苦痛なボーボボとの戦いからもね」

私を、守りたかった?

「どういうこと…?」
「んー、闇の奴らは君に直接危害を加えたから説明するまでもないとして…。君、本当はボーボボとは戦いたくないんだろう?」
「そんなこと…」

ない、と否定しかけて止まる。
銀バッチの者が大勢でかかったら勝敗は分からないけれど、ボーボボさんの実力を私が認めているのは確かだ。それに、ランバダ様の救出を頼んだことが何よりの証拠になっている。百年の眠りのうちに邪悪な心に蝕まれた私を救ってくれたボーボボさんなら…という気持ちも少なからずあった。

「強さを追い求めちゃうのが僕たちの宿命だからさ。身近な人の恩人でも、戦わずにはいられない場面があるんだ」
「でも、たとえ相手が恩人だろうとランバダ様が戦うなら私も…!」
「だから、それが彼には辛いんだよ。君に辛い思いをさせてまで自分の戦いに巻き込みたくない、だからといって戦わないのは強い奴から逃げるようでプライドが許さない。君を突き放したのも、苦渋の決断だっただろうね。第一、足手まといと言っておきながら身を呈して守るなんて、矛盾しているじゃないか」

困ったような笑顔で、青年は続ける。

「それと、もう一つ。睡眠って何のためにあるか知ってる?いちばんの役割は、疲れた体を休めるためさ。…だから君は、彼のそばにいてあげなよ」

青年はもう一度微笑むと、くるりと背を向けてどこかへと歩き出した。私はその後ろ姿に慌てて伝える。

「ありがとう、ございましたっ」
「どういたしまして」
「あの…名前、は」
「教えなーい」

次に敵として会った時、僕のせいで君たちがまた面倒なことになったら嫌だからね。

風に乗って、そんな声が聞こえた。



(詩人くん、出番少ないけど私は結構好きです。)

2013/08/23 公開
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