Phi-Brain

ゆらゆら揺れる、今日は君の日

「あなたはだんだん眠くなる~」

…俺はどこに目を向ければいいのだろう。正面で行ったり来たりする紐に吊された五円玉か、それとも真剣な眼差しでそれを振ってみせるノノハか。

「おいノノハ、何ギャモンの前で五円玉見せびらかしてんだよ。そいつ金にがめついから取られるぞ」
「んだとぉ!?俺様が狙ってるのは大金だけだ」

口を挟んできたカイトにきっちり訂正して反論する。そりゃあ俺は財のために賢者のパズルを解くソルヴァーとなったが、いくらなんでもこんな小銭に飛びつくほどケチではない。その持ち主がノノハなら尚更だ。
だが、肝心の彼女にはその意味は伝わらなかったらしく。

「そっか、やっぱり五円じゃダメよね…。それじゃあ十倍でどう!?」

そう言って五円玉をしまうと、今度は五十円玉を紐に吊して同じことをし始めた。

「眠くなる~、眠くなる~、眠くなる~」

あぁ、見ているうちにだんだん眠く…



「…って、なるわけねぇだろ!つーか突然何なんだ!?」

とうとう我慢できなくて吠えた。何が我慢できないって、いつまで耐えられるかニヤニヤして見ているバカへの苛立ちとか、相変わらず真剣な様子がかわいいノノハに対する俺の理性とか、色々と。そもそも好きな奴に見つめられたまま眠れるわけがないだろう。
しかしノノハは特に驚いた様子もなく、むしろきょとんとした表情で答える。

「え?ギャモン君、催眠術知らないの?」
「いや、それは知ってるけど、そうじゃなくてだな…」
「なんでノノハが突然催眠術もどきをやり始めたのか、だろ」

そうそう、たまにはカイトも良いアシストするじゃねぇか!本当に『たまに』、言いかえると『ごく稀に』だけどな。
するとようやくノノハにも質問の意図が通じたようで。

「…あぁ!だって今日はギャモン君の日だから!」
「…は?」

カイトと一緒に首をかしげる。
俺の日?なんだそりゃ。

「アナが言ってたんだ、二月十五日はガリレオの誕生日だって。だから、ガリレオの称号を持つギャモン君の日!」

なるほど、アナが原因か。
確かにアナは偉人の出身地に妙に詳しいところがあるから、同様に偉人の誕生日を知っていても不思議ではない。そしてそれを知ったノノハが盛り上がるのも、もはや当然の流れ…だが。

「じゃあどうしてお祝いが催眠術になるんだよ」
「まぁこのアホ面には普通のプレゼントよか、数段お似合いだったけどな」
「アホはそっちだろうがバカイト!」
「はいはい、喧嘩しないの。ほら、ガリレオって地動説も有名だけど『ふりこの原理』も偉大な発見でしょ?だから、ふりこを使って何かできないかなーって」

…え?
ノノハのシンプルな返答に、思わず喧嘩は一時休戦。カイトの野郎も予想外の答えだったようで、呆れたように言葉を返す。

「ふりこから催眠術に飛躍するって…どう考えればそうなるんだよ」
「失礼ね、ちゃんとプレゼントも用意してるわよ!…と言っても、急だったからいつも通りのノノハスイーツだけどね。はいギャモン君、おめでとう!」

おめでとうって、俺は別に何もしていないけどな。だが、ノノハの好意は決して嫌なものではない。むしろ嬉しい。だから素直に貰っておいた。
…これも、称号持ちの隠れた特権なのかもしれない。



fin.

(2月15日がガリレオ(ギャモンではなく実在した偉人の方)の誕生日だと知って書いたもの。)

2012/02/15 公開
81/90ページ