短編
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
Fall in You,Again
「ただいまぁ〜」
「おっ***ちゃんおかえりー。いいところに来たねぇ」
「え、なに…?」
任務から帰ってくたくたで司令室に入ったら、ソファにオレンジと黒の後ろ頭が見えた。一瞬立て続けの任務かと思ったけど、戦力的にこの二人と一緒とは考えづらい。きつく縛られた黒髪が振り返って、相変わらず整い過ぎている顔がこちらを向いた。声は出さないが、何か違和感がある。
「…どうしたの…?」
散らばった書類を避けつつデスクまで歩きながら、全然振り返らないラビにも違和感を持つ。いつもなら満面の笑顔で迎えてくれるのに、いつもと違う様子に少し不安になりながらソファに手をかけて顔を覗き込んでみた。
「…えっ…誰?!」
横からコムイが吹き出すのが聞こえて一瞬そっちを見る。巻き毛は長身を折り曲げて大爆笑していた。さてはなんかやったな。
改めてラビの顔を見てみた。見たことないくらい深く刻まれた眉間の皺、引き結ばれた口元、コンパクトに腕と脚を組んだ座り方。そしてその向こうで少し不安そうな顔をしている神田。こんな弱っちい顔の神田見たことなくて、そっちを見たら思わずあたしも吹き出してしまった。
「あっははは、変な顔!」
「えー!酷いさ***!」
「テメェ喋るんじゃねぇ!!」
「えっ何?!怖っ…」
聞き慣れないラビの怒声に体がびくりとする。二人を見比べて、点と点が繋がって何が起きたか理解した。
何故か知らないが、ラビと神田の中身が入れ替わったのだ。原因はいつも通り科学班の変な薬だろう。神田の顔をしたラビが声を発さなかったのは、喋ると違和感が強すぎて既に一回怒られたのかもしれない。それにしても、緩い顔の神田は笑えるのに険しい顔のラビは怖すぎる。見慣れてないのもあるし、何よりラビにそんな鋭い目を向けられたことがないから見てるだけで心が削られる。取り敢えず、笑い続けるコムイに全力で抗議した。
「何やってんの?!戻してよ早く!…怖い!」
本当はあたしの可愛いラビを返して、と言いたかったけど、さすがにバカップルすぎる気がして思い止まった。
「いやーこれ時間経たないと戻んないんだよ、困ったよねぇ」
「困るのはこっちだわ!」
「兄さん何してるの…?あら***、おかえりなさい」
騒いでいたらリナリーがやってきた。コムイが嬉々として入れ替わりを伝え、無事に蹴られて気絶した。改めて二人を見て顔を引きつらせるリナリーとなんとなく身を寄せ合う。そりゃそうだ、二人ともあまりにも普段と表情筋の使い方が違うのだ。黙っていてもこれだけ違うんだから動いて喋ったらどうなってしまうのか。しばらく続いた沈黙を破ったのは、すっかり眉間の皺が取れた神田、の顔をしたラビだった。ため息をついてだらりとソファにもたれ掛かり天を仰ぐ動きはラビそのもので、ラビがちゃんとここにいることに少し安心する。
「腹減った〜。もういいから取り敢えず飯食おうぜ〜ユウ」
「そ、そうだよ取り敢えずご飯食べよ!あたしもお腹空いて…ひぇっ」
「もう神田、***が怖がってるでしょ!」
「チッ…」
「やだ〜ラビは舌打ちなんかしない…」
「ちょ、ユウ、***に優しくない自分見るのしんどいんだけど…」
ラビにギラリと睨まれてリナリーの後ろに隠れる。イライラを振り撒くラビなんて怖くて見ていられないけど、中身がラビだからって神田に助けを求めるのもちょっと違う。神田の中にいるラビ本人はなんだか諦めムードみたいで、もうご飯のことしか考えてないみたいだった。神田の顔なのに何を考えてるかわかるなんて不思議だ。
「なー、そろそろオレの体めちゃくちゃ腹減ってると思うんだけど、ユウ何も感じねーの?」
「……」
「ユウの食いたいもん食うからさー、ユウもオレの食いたいもん食ってくれよ。これならいつも通りだろ?な?」
「…行くぞ……」
「助かる〜」
見た目には神田がラビを説得していて、こんなところ見たことなくてちょっと面白い。意外と素直に従ったのはたぶん本当にお腹が空いてたんだろう。立ち上がって歩き出したラビ、いや神田をリナリーが追いかけて、歩き方まで全然違うことに気付いた。振り返ると一仕事したみたいな顔で立ち上がる神田がいて、頭の後ろで手を組んで伸びをするその仕草は完全にラビだった。
「…行こっか」
「うん…あ、***、おかえり」
「…ただいま」
にこりと微笑まれて、声も神田なのに出し方が柔らかくて不思議とラビの声みたいに聞こえた。神田の顔に違いないけど、緊張感が取れるだけですごく親しみやすい顔になっている気がする。中身がラビだと思うと安心して、気を抜くと肩が触れそうなほど近付いてしまうので食堂まで気を付けながら隣を歩いた。
───────────────────────
食堂での光景はなかなか面白かった。神田の体ではあるものの使い慣れないからラビはフォークで蕎麦を食べ、わさびが美味しく感じる味覚に感動していた。一言も発さないが神田も僅かながらそういう違いを感じたらしく、焼肉定食を意外とハイペースで平らげた。箸で。アレンがいたら永遠に揶揄われることになっただろうから、任務中で本当によかったと思う。周りも不思議そうに見てるし放っておくとペラペラ喋り出しそうになるラビを止めて逃げるように食堂を出た。
他愛もないことを話しながら、いつの間にかラビとお互い離れている間の話をして盛り上がってしまい神田に睨まれた。ラビの眉間に皺がつくからやめてほしい。それにしても、硬い表情をするとラビの顔もかなり整っていることに改めて気付かされる。でもあたしはいつも笑っていて、警戒心を抱かせない緩んだ顔が好きだ。
「不思議ね、外見は神田なのにだんだんいつも通りのラビと***に見えてきたわ」
「ラビもだんだん神田に見えてきた…」
「つーか眉間に皺寄せるのやめてほしいさ、オレの可愛い顔が…」
「おい…」
3人でコソコソしたら呆れた目で見られた。見た目は違うが完全にいつもの構図だ。
「てかまだ戻んねーな、1時間は経ったろ」
「そうねぇ、明日の朝にはさすがに戻ってると思うけど…」
「しゃーねぇ、もう寝るかぁ…なーユウどうする?一緒に寝る?」
「寝るか馬鹿」
「待てって〜…ちょっとどうするか決めるわ、二人ともおやすみ」
「うん、おやすみなさい」
「おやすみー」
去っていく二人を見送って、どちらともなくリナリーと見つめ合う。リナリーとも久しぶりに会ったから、ちょっと散歩しながら話すことにした。
「面白かったね…」
「そうね、ふふ、***も」
「え?」
「神田とあんなに楽しそうに話す***初めて見たわ」
「神田の顔なのに全然怖くないの!表情であんなに変わるってすごいね…でも早く普通のラビに会いたいな….」
「ふふ…明日、戻ってるといいね」
「うん…」
リナリーとも別れて自室に向かう。ドアに手を掛けたら鍵が開いていて、閉め忘れたかと思って慌てて開けたら中にはラビがいた。
「えっ?」
動揺しているあたしに、ベッドに座ったラビがにっこり微笑んだ。この顔は絶対に見間違えない。
「ラビ!」
飛びついたらしっかり受け止めてくれて、二人でベッドに転がる。さっきまでの怖い顔が綺麗さっぱり消えて、いつもの優しい顔になっていた。
「へへ、ユウと話してたら急に戻ってさー、驚かせようと思って待ってたんさ」
「よかった、よかったー…もう、ほんとに怖かった…」
「ごめんな、怖がらせて」
ラビのせいじゃないのに。思いっきり抱きしめて確かめるようにじっと顔を覗き込んだら、目を細めて愛しそうに大きな手が頭を撫でてくれる。あたしの大好きな、目だけであたしのことを好きだって言ってるような表情。本当に戻ったんだと安心した。
「会いたかったー…」
「やっと***とキスできるさ」
「うん、嬉しい」
とにかく何度も、時間を忘れて数えきれないくらいのキスをした。
───────────────────────
「なー***、オレがユウの顔してても好きになってた…?」
「んーわかんない…神田の顔でも話してたら楽しかったし…でも、一目惚れはしなかったと思う…」
「ふーん…えっ…えっ?一目惚れなの?!」
「た、例えばの話だって…!」
「オレ…実は一目惚れだったんだけど…」
「えっ…えーっ?!」
しばらくして神田がたまに肉蕎麦を食べるようになったと聞き、ラビはやっぱりわさびを食べられなかった。
(うん、やっぱりこの顔しか好きじゃないかも)
(オレこの顔でよかった…え、じゃあ似てる顔なら好きになる?)
(え〜〜〜っと…)
「ただいまぁ〜」
「おっ***ちゃんおかえりー。いいところに来たねぇ」
「え、なに…?」
任務から帰ってくたくたで司令室に入ったら、ソファにオレンジと黒の後ろ頭が見えた。一瞬立て続けの任務かと思ったけど、戦力的にこの二人と一緒とは考えづらい。きつく縛られた黒髪が振り返って、相変わらず整い過ぎている顔がこちらを向いた。声は出さないが、何か違和感がある。
「…どうしたの…?」
散らばった書類を避けつつデスクまで歩きながら、全然振り返らないラビにも違和感を持つ。いつもなら満面の笑顔で迎えてくれるのに、いつもと違う様子に少し不安になりながらソファに手をかけて顔を覗き込んでみた。
「…えっ…誰?!」
横からコムイが吹き出すのが聞こえて一瞬そっちを見る。巻き毛は長身を折り曲げて大爆笑していた。さてはなんかやったな。
改めてラビの顔を見てみた。見たことないくらい深く刻まれた眉間の皺、引き結ばれた口元、コンパクトに腕と脚を組んだ座り方。そしてその向こうで少し不安そうな顔をしている神田。こんな弱っちい顔の神田見たことなくて、そっちを見たら思わずあたしも吹き出してしまった。
「あっははは、変な顔!」
「えー!酷いさ***!」
「テメェ喋るんじゃねぇ!!」
「えっ何?!怖っ…」
聞き慣れないラビの怒声に体がびくりとする。二人を見比べて、点と点が繋がって何が起きたか理解した。
何故か知らないが、ラビと神田の中身が入れ替わったのだ。原因はいつも通り科学班の変な薬だろう。神田の顔をしたラビが声を発さなかったのは、喋ると違和感が強すぎて既に一回怒られたのかもしれない。それにしても、緩い顔の神田は笑えるのに険しい顔のラビは怖すぎる。見慣れてないのもあるし、何よりラビにそんな鋭い目を向けられたことがないから見てるだけで心が削られる。取り敢えず、笑い続けるコムイに全力で抗議した。
「何やってんの?!戻してよ早く!…怖い!」
本当はあたしの可愛いラビを返して、と言いたかったけど、さすがにバカップルすぎる気がして思い止まった。
「いやーこれ時間経たないと戻んないんだよ、困ったよねぇ」
「困るのはこっちだわ!」
「兄さん何してるの…?あら***、おかえりなさい」
騒いでいたらリナリーがやってきた。コムイが嬉々として入れ替わりを伝え、無事に蹴られて気絶した。改めて二人を見て顔を引きつらせるリナリーとなんとなく身を寄せ合う。そりゃそうだ、二人ともあまりにも普段と表情筋の使い方が違うのだ。黙っていてもこれだけ違うんだから動いて喋ったらどうなってしまうのか。しばらく続いた沈黙を破ったのは、すっかり眉間の皺が取れた神田、の顔をしたラビだった。ため息をついてだらりとソファにもたれ掛かり天を仰ぐ動きはラビそのもので、ラビがちゃんとここにいることに少し安心する。
「腹減った〜。もういいから取り敢えず飯食おうぜ〜ユウ」
「そ、そうだよ取り敢えずご飯食べよ!あたしもお腹空いて…ひぇっ」
「もう神田、***が怖がってるでしょ!」
「チッ…」
「やだ〜ラビは舌打ちなんかしない…」
「ちょ、ユウ、***に優しくない自分見るのしんどいんだけど…」
ラビにギラリと睨まれてリナリーの後ろに隠れる。イライラを振り撒くラビなんて怖くて見ていられないけど、中身がラビだからって神田に助けを求めるのもちょっと違う。神田の中にいるラビ本人はなんだか諦めムードみたいで、もうご飯のことしか考えてないみたいだった。神田の顔なのに何を考えてるかわかるなんて不思議だ。
「なー、そろそろオレの体めちゃくちゃ腹減ってると思うんだけど、ユウ何も感じねーの?」
「……」
「ユウの食いたいもん食うからさー、ユウもオレの食いたいもん食ってくれよ。これならいつも通りだろ?な?」
「…行くぞ……」
「助かる〜」
見た目には神田がラビを説得していて、こんなところ見たことなくてちょっと面白い。意外と素直に従ったのはたぶん本当にお腹が空いてたんだろう。立ち上がって歩き出したラビ、いや神田をリナリーが追いかけて、歩き方まで全然違うことに気付いた。振り返ると一仕事したみたいな顔で立ち上がる神田がいて、頭の後ろで手を組んで伸びをするその仕草は完全にラビだった。
「…行こっか」
「うん…あ、***、おかえり」
「…ただいま」
にこりと微笑まれて、声も神田なのに出し方が柔らかくて不思議とラビの声みたいに聞こえた。神田の顔に違いないけど、緊張感が取れるだけですごく親しみやすい顔になっている気がする。中身がラビだと思うと安心して、気を抜くと肩が触れそうなほど近付いてしまうので食堂まで気を付けながら隣を歩いた。
───────────────────────
食堂での光景はなかなか面白かった。神田の体ではあるものの使い慣れないからラビはフォークで蕎麦を食べ、わさびが美味しく感じる味覚に感動していた。一言も発さないが神田も僅かながらそういう違いを感じたらしく、焼肉定食を意外とハイペースで平らげた。箸で。アレンがいたら永遠に揶揄われることになっただろうから、任務中で本当によかったと思う。周りも不思議そうに見てるし放っておくとペラペラ喋り出しそうになるラビを止めて逃げるように食堂を出た。
他愛もないことを話しながら、いつの間にかラビとお互い離れている間の話をして盛り上がってしまい神田に睨まれた。ラビの眉間に皺がつくからやめてほしい。それにしても、硬い表情をするとラビの顔もかなり整っていることに改めて気付かされる。でもあたしはいつも笑っていて、警戒心を抱かせない緩んだ顔が好きだ。
「不思議ね、外見は神田なのにだんだんいつも通りのラビと***に見えてきたわ」
「ラビもだんだん神田に見えてきた…」
「つーか眉間に皺寄せるのやめてほしいさ、オレの可愛い顔が…」
「おい…」
3人でコソコソしたら呆れた目で見られた。見た目は違うが完全にいつもの構図だ。
「てかまだ戻んねーな、1時間は経ったろ」
「そうねぇ、明日の朝にはさすがに戻ってると思うけど…」
「しゃーねぇ、もう寝るかぁ…なーユウどうする?一緒に寝る?」
「寝るか馬鹿」
「待てって〜…ちょっとどうするか決めるわ、二人ともおやすみ」
「うん、おやすみなさい」
「おやすみー」
去っていく二人を見送って、どちらともなくリナリーと見つめ合う。リナリーとも久しぶりに会ったから、ちょっと散歩しながら話すことにした。
「面白かったね…」
「そうね、ふふ、***も」
「え?」
「神田とあんなに楽しそうに話す***初めて見たわ」
「神田の顔なのに全然怖くないの!表情であんなに変わるってすごいね…でも早く普通のラビに会いたいな….」
「ふふ…明日、戻ってるといいね」
「うん…」
リナリーとも別れて自室に向かう。ドアに手を掛けたら鍵が開いていて、閉め忘れたかと思って慌てて開けたら中にはラビがいた。
「えっ?」
動揺しているあたしに、ベッドに座ったラビがにっこり微笑んだ。この顔は絶対に見間違えない。
「ラビ!」
飛びついたらしっかり受け止めてくれて、二人でベッドに転がる。さっきまでの怖い顔が綺麗さっぱり消えて、いつもの優しい顔になっていた。
「へへ、ユウと話してたら急に戻ってさー、驚かせようと思って待ってたんさ」
「よかった、よかったー…もう、ほんとに怖かった…」
「ごめんな、怖がらせて」
ラビのせいじゃないのに。思いっきり抱きしめて確かめるようにじっと顔を覗き込んだら、目を細めて愛しそうに大きな手が頭を撫でてくれる。あたしの大好きな、目だけであたしのことを好きだって言ってるような表情。本当に戻ったんだと安心した。
「会いたかったー…」
「やっと***とキスできるさ」
「うん、嬉しい」
とにかく何度も、時間を忘れて数えきれないくらいのキスをした。
───────────────────────
「なー***、オレがユウの顔してても好きになってた…?」
「んーわかんない…神田の顔でも話してたら楽しかったし…でも、一目惚れはしなかったと思う…」
「ふーん…えっ…えっ?一目惚れなの?!」
「た、例えばの話だって…!」
「オレ…実は一目惚れだったんだけど…」
「えっ…えーっ?!」
しばらくして神田がたまに肉蕎麦を食べるようになったと聞き、ラビはやっぱりわさびを食べられなかった。
(うん、やっぱりこの顔しか好きじゃないかも)
(オレこの顔でよかった…え、じゃあ似てる顔なら好きになる?)
(え〜〜〜っと…)
1/74ページ