第二十四話 また三人で、ずっと一緒に

 リビングでシャワーを済ませてスマートフォンを弄るファティマ。しばらく遅れてシャワーを済ませたヴィクトールが髪をタオルドライしながらやってきて、その隣に座った。その様子を見て、エンリーケはギリギリと歯を食いしばった。
 「お前らはいいよな。そうやって、好きな時に好きなだけエッチできるもんな」
 ヴィクトールとファティマが赤面して言い繕う。
 「は?何言ってんだよ。そんなしょっちゅうしてないぞ?」
 「やめてよそういうこと言うの。お互いのことは干渉しない約束でしょ?」
 彼の指摘通りシャワーの前に二人が肌を重ねていたのは確かだが、そういうことにはお互い干渉しない約束をしていた。羨ましがられても困ってしまう。
 「お前だって彼女いるじゃん。早くこの家に連れて来ればいいじゃん」
 「振られたんだよ!!浮気されて!」
 「はあ?!振られたの?いつの間に?!あんなに仲良くしてたじゃない!」
 エンリーケはスマートフォンのトークアプリの履歴を二人に見せる。そこには修羅場があった。
 「うーわ、キッツ……」
 「最低。何あの子」
 「ああー!ちっくしょう!処女だ、男は苦手だって言ってたけど全くのでたらめだった!周りに訊いたら相当遊んでるメンヘラビッチだった!!クッソ騙された!!あの女―!!」
 エンリーケは頭を掻きむしり、缶ビールを一気飲みした。
 「俺もファティマみたいな可愛い彼女欲しーよー!!なんでどいつもこいつもビッチばかりなんだー!!」
 ヴィクトールとファティマは顔を見合わせ、苦笑した。
 やがてヴィクトールとファティマは結婚し、元気な子供をもうけた。エンリーケも少し遅れて理想の女性に巡り合い、スピード婚をする。
 彼らの住むこの屋敷はどんどん賑やかになり、笑いの絶えない家になった。
 父に虐げられて一人努力して逞しく生きてきた孤高の天才薬剤師。二度も親に捨てられて見捨てられ恐怖症を抱えた臆病で心優しい犯罪者。虐待する父から逃げて一人懸命に働き家族を養って犯罪に手を染めた男。家庭の愛を知らぬ三人は夢にまで見た理想の幸せな家庭を築いて、いつまでも仲良く暮らしたという。
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