第二話 新しい処方箋

 さて、一ヵ月が経過した。処方箋の様式は10日前にようやく使用され始めた。未だ偽造処方箋は見つかっていない。ファティマはサントスが現れるのを今か今かと待ち構えていた。おそらく、来るとしたら今日だ。「今に見ていろサントス。気色の悪い目つきでニヤニヤ話しかけるお前など、お縄にしてやる」ファティマはそう考えていたが、サントスことヴィクトールは、ただお気に入りの薬剤師との会話を好意的に楽しんでいるに過ぎなかったのだが。
 自動ドアが開き、灰色のパーカー姿の金髪碧眼の男が姿を現した。襟足で長髪をくくっている。間違いない、サントスだ。
 サントスは受付に保険証と処方箋を出した。処方箋は――旧式の様式だった。紙の種類もエコパルプではない。白くてエッジの効いた硬い紙だ。間違いない。この男は薬の密売人だ。
 受け付けたソフィアはファティマに目配せを送った。ファティマは小さくうなずく。
 「保健証はお返しします。それではお席でお待ちください」
 ソフィアが何食わぬ顔で処方箋を奥に持っていく。
 「ビンゴよファティマ」
 ソフィアが不敵な笑みを浮かべてファティマに偽造処方箋を見せた。
 「OK。警察呼ぶわね」
 ファティマは受話器を手に取り、緊急通報ダイヤルを押した。

 ほどなくして、警察が局内にやってきた。うろうろと歩き回り、患者の様子を見回りながら、受付に歩いていく。驚いたのはヴィクトールだ。体中から汗が噴き出し、心臓が早鐘を打つ。
 (バレた?なんで?なんで今日に限ってサツが来るんだよ?早く帰れよ。俺は知らねえよ)
 祈るような気持ちで平静を装う。待合室のテレビを凝視し、心を無にして、一般人を装う。心臓が大きく波打つのを感じる。汗が止まらない。
 しかし、警察は彼めがけて一直線に歩いてくる。
 「君、ちょっと話を聞かせてもらえるかな?」
 たまらずヴィクトールは警察を突き飛ばして逃げ出そうとした。そこをうまく腕を確保され、逃走は失敗に終わる。受付を見ると、ファティマが腕を組んで仁王立ちして彼を見ていた。――嵌められた。あの女……!
 「てめえ!!嵌めやがったな!!」
 ファティマが涼しい顔で言う。
 「今まで嵌めていたのはあんたのほうでしょ。バレないと思ったの?悪党!」
 警察官がヴィクトールの手首に手錠をかけた。
 「10時37分、確保しました」
 警察官は無線に報告する。
 「畜生―――――――!!覚えてろよてめえーーーー!!!ぜってえ手前のツラ忘れねえからな!!!」
 警察官は暴れるヴィクトールをがっちりホールドし、パトカーに引きずっていった。
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