第十九話 生きる理由を他人に依存するな

 「ゆっくり考えなさい。死のうとしたら、赦さない」
 「待ってくれ」
 ファティマは立ち去ろうとした。それを、エンリーケは思わず引き留めていた。
 「じゃあ、俺は、何を生きる理由にしたらいいんだ?俺、馬鹿だからさ、自分じゃ全然わかんねーよ。ヒントをくれよ。ちんぷんかんぷんだ」
 ヴィクトールはエンリーケに助け舟を出した。
 「何か自分の趣味とか、好きな物とか、生きる目標を作ったらいいんじゃねえか?」
 「お前たちと一緒に逃げることか?」
 「それじゃ意味ないだろ。ほらまた、生きる意味を他人に依存してるぜ?」
 「解らねえ……解らねえ……」
 重い沈黙が病室内にたちこめた。エンリーケの導き出す答えを、ヴィクトールもファティマも見守っていた。
 エンリーケがふと顔を上げると、ヴィクトールとファティマがピッタリと寄り添っていることに気付いた。はて、この二人は確か近づくこともできなかったはず。そういえば、やけにベタベタくっついているような気がする。
 「そういえばお前ら、やたらくっついているよな?ファティマ、男性恐怖症はどうしたんだよ?」
 「え?ああ、あー、あれ?あれは、その、治った」
 「治ったの?いつの間に?」
 ヴィクトールがばつが悪そうにエンリーケに説明する。
 「実は、俺たち、付き合ってるんだ……。なんか、成り行きで……」
 エンリーケはポカーンと口を開けてしばし呆然としていたが、やがて理由のわからない怒りが込み上げてきた。
 (こいつら……俺がいない間に……くっついたのか?いつの間に……!)
 「お前ら……俺が死ぬほど苦しんでいる間に、何くっついてんだよ……!俺をのけ者にしてお前ら……!クッソ!クッソ!腹立ってきた!」
 「お、落ち着けエンリーケ、ホントに成り行きだったんだ。いろんな事情が絡んでな?」
 あーーーーーっ!!!とエンリーケは叫んだ。
 「生きる理由見つけた!ぜってえ俺も可愛い彼女見つける!!ファティマみたいなメンヘラの女の子見つけて俺好みの女に育てる!!ちっくしょう!!」
 元気な雄叫びを聞いて、ヴィクトールとファティマは思わず笑った。
 「大体な、ヴィクターみたいな陰気なエロゲオタクが俺より先に彼女作るなんてこと自体おかしいんだよ!俺のほうがイケメンだし!」
 「エロゲオタクってなんだ?!適当なこと言うな!」
 「ああ、幸せになりて―――!!!」
 それからというもの、エンリーケは見る見るうちに回復し、入院から二か月後には無事退院したという。
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