第二話 新しい処方箋

 ファティマは扉の前に立ち、二枚の処方箋を手に、心を落ち着けようと深呼吸した。
 そこはファティマの自宅の、父の書斎のドアの前。ファティマは父に処方箋を見せようと考えた。意を決して二回ドアをノックする。
 「父さん。話があるの。相談に乗ってくれない?」
 すると扉の奥で、キイ、と椅子が軋む音がして、ほどなくドアが開かれた。
 「どうした、ファティマ」
 中から出てきたのは白髪で髪色が薄くなった、50代半ばのやせぎすの男だった。顔色は白く、威圧的な緑色の瞳。ファティマはこの男――父がこの世で最も苦手だった。
 「リビングに来て。話があるの」

 父とファティマがリビングのソファに向かい合わせに座ると、ファティマは二通の処方箋を差し出した。
 「うちのモナウン薬局に出された処方箋なんだけどね。見て。このマグダレーナさんの処方箋は、エコパルプのコピー用紙に印刷されてるの。でも、このサントスという人の処方箋は、市販されている安いコピー用紙だわ。セレンティア総合病院ではエコパルプを使っているんじゃなかった?」
 父は二枚の処方箋を見比べ、紙のエッジに指を滑らせ、蛍光灯にかざして色を確かめた。
 「うちの紙じゃないな」
 父は、セレンティア総合病院の院長だった。病院の方針は隅々まで把握している。
 「でね、一回処方箋の様式を大幅に刷新してみない?それで、あの男が古い様式で処方箋出して来たら、偽造された処方箋だってわかるじゃない。不正に入手している奴らを一掃できるかもしれないわ」
 「不正に入手している者がいるのか?」
 「ソフィアが、最近処方薬を密売しているサイトがあるっていうことを、ニュースで特集していたって言ってたの。密売組織がいるかもしれない」
 父は顎に手を当てて考えると、
 「……わかった。事務の者に新しい雛型を作ってもらって、システムを刷新してみよう。念のため、警察にも話を通しておこう。偽造処方箋が見つかったら、警察が動くようにしておくから、通報するといい」
 ファティマは鼻からフーっとため息を吐くと、「ありがとう、パパ」と顔をほころばせた。
 「仕事はうまくいっているのか?」
 「ええ、まあまあね」
 「カスパールとは?」
 父は婚約者のカスパールの名を出した。ファティマの顔が一瞬引きつる。
 「仲良くやってるわよ。安心して」
 父はにんまり笑うと、「そうか」といって、書斎に戻った。
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