SwordsMaiden短編集

 私には3つ年下の妹がいる。
 アルビノで、病弱で、日光に当たれないから、夜しか外に出られない。
 昼間は大抵カーテンを閉め切った真っ暗な部屋で眠り、夜になると起きだしてくる。
 私は学校があるし、普通に昼型の生活をしているから、妹とは日没後少しの間しか顔を合わせない。
 そんな妹は両親から疎まれ、まるで存在しないかのように扱われている。
 妹の分の食事には意地悪され、いつも妹が食べられない食材を入れられるため、妹の食事は私が一日に一回与えるしかない。
 学校から帰ってきて、ルームウェアに着替えると、妹の食事の時間だ。
 「お姉ちゃん……お腹すいた……」
 外界との関わりがほとんどなかった妹は、もう13歳になるというのに、5歳児のように知能が幼い。
 「待ってね、今あげるからね」
 私は代々家に伝わる短剣で、右手首を切った。じわじわと流れ出る、赤い血。妹のご飯は、私の生き血だ。
 「おいで、さあ、お飲み」
 妹は餌を前にした猛獣のように私に飛び掛かり、ルームウェアにしがみついて私の腕を伝う血を舐める。むしゃぶりつくように。一滴の血も無駄にしないように。夢中で舐めあげる妹の顔は、私の血で真っ赤に染まっている。
 「はっ、はつ、んぶ、あむ、あう、はあ」
 まるで血の海でおぼれるかのように、喘ぎながら血を舐める妹。
 必死に餌に食らいつこうとするその姿を見ていると、私はまるで餌付けする親鳥になったような錯覚を覚える。
 やがて私の傷が妹の唾液でふさがり、血が止まると食事タイムは終了だ。
 「ごちそうさま」
 妹に餌付けするために、私は栄養豊富な食事を食べなくてはならない。妹の分まで、体力をつけなくてはならない。私なしでは妹は生きられない。――そして、私がいなくなったら妹は始末されるだろう。銀の銃弾で攻撃されて、白木の杭を胸に打ち込まれて。それだけは、避けなければならない。
 「おやすみ、お姉ちゃん」
 「おやすみ、私の可愛い妹。今夜は何するつもりなの?」
 「お散歩してくる」
 「外食したらダメだよ。ちゃんとフードで顔を隠してね」
 「うん。私お姉ちゃんしか食べないよ」
 「いってらっしゃい」
 「いってきます」
 うちの両親は妹の存在を無視している。いや、そうしなければ妹の存在を隠しておけないのだ。
 妹は、生まれながらの吸血鬼だったから。
 私たち家族は、吸血鬼の子供を匿っている。
 誰にも言えない、私たち家族の秘密。

END.
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