第十六話 エンリーケ再び

 「ヴィクター、俺から狙いを外したな。感づかれたか?だが、これでいい。上手く逃げ延びてくれよ」
 ヴィクトールの読み通り、エンリーケはわざと弾を外していた。射撃が下手で見込みがなければ暗殺者たちもエンリーケには関わらなくなるはずだ。上手く時間を稼いで、警察でも来てくれれば、とりあえずはこの局面を回避できる。ヴィクトールがほかの奴らを殺して数を減らしてくれるなら万々歳だ。
 だが、そんな心の内が読めないほど、ファビオも甘くなかった。物陰に隠れて戦闘を監視していたファビオは、やる気のないエンリーケの思惑に気付いていた。
 「あの野郎……殺る気ねえな。時間稼ぎのつもりか?おい、あの二人を連れてこい」
 ファビオは手下に命じて、ある人物を連れてこさせた。

 物陰に隠れながら撃ち合うヴィクトールのそばに、一人の車椅子の年老いた婦人が通りかかった。
 「あっ!なんでこんなところに!見せもんじゃねーぞバアちゃん!下がれ!」
 ヴィクトールの警告もわずかに遅く、夫人は利き腕に被弾した。
 「バアちゃん!」
 ヴィクトールは婦人の車椅子を押して物陰に隠れた。急いで救急車を呼ぶ。
 「なんでこんなあぶねえ所に出てきたんだバアちゃん?待ってろ、今救急車呼ぶからな」
 「ごめんなさい。何事かと思って来てしまったわ。迷惑かけてごめんなさいね。あなた優しいのね」
 救急車とともに警察のパトカーも戦闘区域にやってきたため、エンリーケたちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。警察官たちはもぬけの殻になった戦闘区域で、負傷した数人の暗殺者たちを捕まえることしかできなかった。

 戦闘地域から数百メートル郊外の方向に、廃工場跡があった。そこに合流したエンリーケを、ファビオは背中から思い切り蹴って転がした。
 「エンリーケ、手前殺る気ねえだろ」
 「いって……。何がだよ?」
 「わざと外して撃ってたな?」
 「は?知らねえ……」
 「やる気見せねえとどうなるか、教えたはずだよな?おい、連れてこい」
 ファビオは手下に命じて、二人の女性を連れてきた。それは。
 「母さん……!……エマか?!」
 「エンリーケ!」
 「お兄ちゃん!!」
 年老いてやつれた母と、すっかり大きく美しく育った妹。
 「どうするつもりか、解るよな?」
 ファビオは二人の女性に近づき、銃口をその米神に当てた。
 「やめろおおおおおおお!!!!」
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