第十五話 あなたの人生に祝福を

 俺は、8歳の時に両親に捨てられた。もともと貧乏でろくな飯食わされてなかったけど、ある夜、繁華街に連れてこられて、人生で初めてってぐらい豪勢な料理食わせてもらったんだ。で、街中で、両親に、「ここで待ってなさい」って言われて、両親がどっか行ったんだ。何日待っても、親はとうとう帰ってこなかった。俺はそのまま浮浪児になるしかなかった。野良猫に餌やる料理屋の出す野良猫用の残飯や野菜くずなんかを食って生きてた。
 半年ぐらいそうしてふらふらしていたら、夜、酒に酔った女に拾われた。「あなた可愛い顔してるから、親がいないならうちの子にならない?」ってな。その女はマノンと言った。三十路ぐらいかな。綺麗な人だったけど、独身で仕事しかしていない人だった。なんで嫁の貰い手がないのかって、訊いたことがある。そしたら、子宮の病気になって、子供が産めないから結婚できないんだと言っていた。マノンは自分のことをお母さんと呼べ、と強制してきた。そして、「衣食住の面倒は見るけれど、自分のことは自分でしろ。私に頼るな」というのが口癖だった。俺はなるべく迷惑にならないようにしていたつもりだが、マノンは子宮がないせいかな、精神的に不安定で、理不尽な理由で暴力を振るってきた。俺は、「この人に捨てられたら行くところがない。また捨てられる」と思って、必死にマノンを好きになろうとした。愛されようと思って、そのためには何でもした。
 ある日、俺の体が大人になったことを知ったマノンは、俺を誘惑してきた。夜の相手をしろと言ってきたんだ。こうしろ、ああしろ、手取り足取りやり方を教わって、言われるまま、求められるまま、性奴隷として飼われてた。俺は、てっきりマノンは俺のこと好きだからこんなことをさせるんだろうなと思った。だから、これは両想いなんだと思ったんだ。
 だから、14歳の時に、マノンに告ったんだ。「俺が大人になったら結婚してください」ってな。割とガチ目に好きだったから、絶対喜んでくれるって確信があった。でも、俺が学校に行っている間、マノンは消えた。家の中には家具しかなくなっていて、アパートの契約者が俺の名前になっていた。マノンはいつの間にか自分の荷物を全部まとめていなくなっていたんだ。
 また親に捨てられた。俺は、二度目は親以上に愛している人に捨てられたんだって思って、そっから、人に見捨てられるのが怖くなった。だから、俺は見捨てられても平気な関係しか築かないと決めたんだ。
 そんで、俺は、商売にできそうなスキルが夜の相手しかなかったから、金持ちの女相手に売春して稼いでいた。何人抱いたか覚えてねえ。毎日体を汚していたが、一夜限りの関係だから全然平気だった。
 2年ぐらいそういう乱れた生活していたかな。ある夜、客引きしている俺の前に、黒服の男が声を掛けてきた。それが、あの組織の人間だったんだ。
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