第十話 サイエンス武装

 そんな小さな戯れ合いのような喧嘩はしつつも、三人はおおむね仲良く逃亡生活を楽しんで過ごしていた。
 またホテルを転々とし、街から街へ逃れる日々。そんな生活に、ファティマは幸せを感じていた。
 「こいつら、あたしのこと殺そうとしていたけど、結局殺さないし、ベッドに寝ていても手を出したり襲ったりしないし、結構いい奴らじゃない。そのうえ、男性恐怖症を治そうと、一生懸命協力してくれる。ああ、あたし、この人たちに誘拐されてよかったな。今までみたいな生活続けていたら、きっとこんなに心から笑って生きられなかった。今、腹抱えて笑える。あたし、こいつら好きだわ。……仲間としてね」
 新しい街で生活を初めて三日目のことである。ファティマはすっかり触られても嫌がらなくなり、軽いスキンシップも抵抗なくこなせるようになっていた。
 「食材の買い出し行ってくるぜ」
 「おー、いってらー」
 「行ってらっしゃい」
 エンリーケが食材の買い出しに出かけ、ファティマとヴィクトールがホテルのテレビを見て過ごしていた日のことである。
 エンリーケがいつまでたっても帰ってこない。
 「あいつ、遅くね?」
 「どこまで買いに出かけてるのかしら?」
 日が暮れても姿を見せないことに、不思議に思った二人は、スーパーまでエンリーケを探しに行った。すると、今まで運転してきたレンタカーが駐車してあるのを発見した。
 「あいつ、ここにいたんじゃん」
 近寄ってみると、運転席の窓ガラスは弾痕の形にヒビが入っていた。車の中を覗き込むと、ハンドルの横にキーが差されたままになっており、車の鍵は開いていた。ドアを開けて中を確認すると、運転席のシートには血痕がついていた。シートは冷たく、彼が買い物をした痕跡も残っていない。
 ヴィクトールの全身に血が逆流するような焦燥感が駆け巡った。
 「ファティマ。この町から逃げよう」
 「エンリーケを探さないの?」
 「おそらく、エンリーケは殺されたか誘拐された。見ろ、お前はこの状況をどう判断する?」
 ファティマは状況を確かめると、ヴィクトールと同じ結論を導き出した。
 「一旦ホテルに戻って、すぐに逃げましょう」
 二人がホテルに着いて荷物をまとめていた時である。一発の銃弾が窓ガラスを割った。
 「見つかった!」
 電気を消した時には遅かった。ホテルには火が放たれ、火災報知機とスプリンクラーが作動し、壁を貫通して横殴りに銃弾が降り注いで、ホテルは蜂の巣になった上に火の海に包まれた。
 「ファティマ!どこだ?!」
 「ヴィクター!車に乗った!」
 「よし、逃げるぞ!」
 二人は燃え盛るホテルを背に、全速力で車を走らせた。
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