SwordsMaiden短編集

 もうすぐ私の婚礼の日がやってくる。幼い頃に言いつけられた貴族の青年と、番になるのだ。
 私の心は早鐘を打ち、婚礼の日を指折り数えて過ごし、神に祈った。
 あの人が、私を連れ去ってくれますようにと。
 バグ、とその下男は呼ばれていた。虫けらという意味だ。娼婦が産み落とし玄関先に箱に入れられて捨てられていたバグ。野良猫以下の扱いだと思った。
 バグを可哀想に思った老家政婦のアマンダが、自分が責任を取るからと、バグを私的に育てていた。
 バグはやがて庭師のシザーズ爺さんの跡を継ぎ、うちの庭師になった。
 バグはよく働いた。虫けらと呼ばれても、そんなことは気にもせず。
 私はいつもバグに愚痴をこぼした。バグはいつも、「そうですね、そうですね」と話を聞いてくれた。
 私はバグのことが好きだった。誰よりも好きだった。バグにその事を話すと、バグは「そうですね」といつものように頷いて、「僕もですよ」と笑った。
 その日から、私は婚礼の日が怖くなった。
 バグ以外の男に弄ばれ、隷属する日がやってくる。私の脈は乱れ、指先が凍える。そんな絶望あるかしら。
 私はバグと逃げる算段を企てた。そして、その日のうちにバグと結ばれた。私たちは密かに愛し合い、婚礼の日が来る前に、どうやって逃げようか話し合った。
 しかし、なかなかその日はやってこなかった。逃げる手立てがなく、隙も無く。やがて私は嘔吐した。
 月のものが来ないことを家政婦に見抜かれ、私たちの悪事が暴かれた。
 バグは有罪になった。
 その日のうちに、彼は串刺しにされ、彼の遺品とともに肥塚に晒され棄てられた。
 生まれたばかりで子猫のように捨てられた彼。死ぬ時は生ゴミのごとく肥塚に晒された。
 鴉が彼の死肉を啄む。彼の死肉は美味しい?
 誰かの手にかかって死ぬぐらいなら、私は私の手で私自身に死を与える。
 明日私は打首になるけれど、どうせ死ぬなら、せめて。
 あなたの亡骸のそばで、首を掻き切って死にましょう。私の誇りとあなたへの純潔のために。

 鴉が私の死肉を啄む。
 親鴉は、私の叶えられなかった夢をその生で叶えるのかしら。
 大きく育て、子鴉よ。私とあの人の死肉を喰らえ。そして血肉として、私とあの人をひとつにして。
 私とあの人が土に帰った肥塚には、一輪の赤い薔薇が咲きましたとさ。

The End.
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