第九話 薬物反応

 「いらっしゃいませ。おや、また来ていただいて嬉しいです」
 荒野のモーテルでの生活が長期化していたため、エンリーケとヴィクトールは一軒の安くて美味しいバーを見つけて通っていた。ここに来たのは5回目であろうか。だが、これまでファティマに近づくことができなかったため、彼女を店に連れて来たのはこれが初めてである。
 「今日はこいつのお祝いなんだ。ちょっといい酒をくれよ」
 ヴィクトールが適当に店主にオーダーすると、三人の目の前にはショートグラスに黒い色のカクテルが並べられた。
 「ロバート・ジョーカーにダングルを加えたラスティ・ネイルはいかがですか?」
 店主はロバート・ジョーカーという銘柄の高級ブランドウィスキーにダングルというリキュールをステアして、ラスティ・ネイルを勧めてきた。ハイブランドの銘柄を聞いてヴィクトールとエンリーケはたじろいだ。
 「え、これめちゃめちゃ高いんじゃねえの?」
 エンリーケが財布の心配をすると、店主は「そちらのお嬢さんのお祝いなんでしょう?サービスしますよ」と微笑んだ。
 「じゃあマスターのお言葉に甘えて乾杯しようぜ!」とヴィクトールがグラスを掲げると、ファティマは店主にストローを一本欲しいと言い出した。
 「ストロー?ストローを使わなくても飲めますよ?」
 「口紅がグラスにつくのが嫌なの」
 と、ファティマは言い訳したが、彼女は明らかにノーメイクであった。店主は一瞬眉間にしわを寄せたが、ニコニコとストローを差し出した。
 ファティマはストローを受け取ると、グラスに刺して、吸い口を人差し指でふさぎ、そのままカウンターの下にストローを隠した。ストローは使わないのだろうか…?とヴィクトールが怪しんで、カウンターの下のファティマの手元を見ると、ストローから試験紙の上にカクテルの液体がぶちまけられた。
 そう、彼女は飲み物に刺したストローを指でふさぐことで真空状態にし、簡易的なピペットにしてカウンターの下で毒物を試験していたのである。
 すると、見る見るうちに試験紙のうちの一つが鮮やかな赤に染まった。
 ファティマがヴィクトールに視線を送った。
 「エンリーケ、飲むな!」
 ヴィクトールはそう叫ぶとパーカーのポケットから銃を取り出し店主に向けて構えた。すると同時に店主も銃口をヴィクトールに向けていた。
 「勘のいいお嬢さんだ。カウンターの下で何をしていたのかな?」
 エンリーケはわずかに口に含んでしまったカクテルを吐き出し、腰から銃を取り出して背後のテーブル席に銃口を向けた。すると、客の8割がみな銃口をこちらに向けて立っていた。
 「ヴィクター、こいつら全部グルだ!嵌められた!」
 それを合図に、三人に向けて弾丸の雨が襲い掛かった。一瞬にして店内は銃撃戦の戦場と化した。
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