おきゃ

私はなかなかバイトが決まらず、暇な毎日を過ごしていたので、ふとした思い付きで、オキャを自転車のカゴに乗せて、近所の小高い丘に連れていくことにした。
オキャは自分が何をされるのかと怯えて、自転車のカゴの中で身を縮めて悲鳴のような声で鳴いた。
「安心しな、オキャ、楽しいところだよ」
私はそうなだめながら、自転車を走らせた。
近所に見晴らしのいい丘がある。この辺りは丘だらけである。オキャは喜ぶだろう。
案の定、私が自転車から降りて自転車を押し、急な上り坂を上ると、オキャは色めき立った。
固く丸まった体をよろよろと起こし、しきりに辺りを見回す。
そしてそこが丘だとわかると、「おかっ!」と鳴いた。
「おー。わかるか。そうだよ。大好きな丘だよ」
オキャはカゴの縁に前足を掛け、背伸びをして丘を堪能していた。
そして私は見晴らしのいい丘のてっぺんの公園に着くと、そこに自転車を停めた。
眼前には、この街一帯が見渡せる素晴らしい景色。
オキャは背筋を伸ばして、その眺望に見入っていた。そして小さく、「おきゃっ」と鳴いた。

しばらくボーッとその風景を眺めていると、オキャはカゴの中で丸くなり、せっかくの風景に背中を向けてしまった。そして、にゃーん、と、つまらなそうに鳴いた。
「なんだ、オキャ、もう満足したの?遊ばないの?」
私はカゴから下ろしてあげようとした。するとオキャは悲鳴のような声で鳴き、威嚇し、暴れに暴れてカゴにしがみついた。どうやらカゴから降りたくないようだ。
仕方ないので帰ることにした。私の両腕は傷だらけにされてしまった。オキャは、カゴの中で丸くなって、知らんぷりしていた。

それからというもの、オキャは毎日のように丘の上に連れて行けとせがむようになった。
餌をあげても遊んであげても興味を示さず、トイレの掃除をしても鳴き止まない。何故だろうと思って自転車で丘の上に行くと、それで満足して大人しくなるのだ。
「犬だと散歩に連れて行くのが大変だし」
そんな理由で、
「ペット飼うなら猫がいいね」
と話していて、やっと手に入れた猫だ。
なのに、結局犬より面倒な散歩に連れて行くはめになってしまった。
たまに気まぐれに行きたがらない日があったが、ほとんど毎日のように丘の上に連れて行けとせがまれる。私はバイトが決まってからは、バイトに出る前の早朝に、一度丘の上に散歩に連れて行くのが日課になった。
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