SwordsMaiden短編集

月下、凛と咲く。
女は颯爽と木々の生い茂る藪の中を駆け抜けた。
仕留めなくてはならない敵がいる。
逃げる彼奴を追い、迷い込んだこの森。
敵の姿は、藪の中に消えた。
「どこだ!逃げおおせると思うな!」
声高に呼ばえども、返事など返ってくるはずもなく。
注意深く神経を研ぎ澄まし、辺りの気配を窺うと、カサリと草が音を立てた。
「そこか!」
女が走り出すと、気配も走り出した。
一気に距離を詰め、仕留める!
と、急に視界が開けた。
崖だった。
敵の気配は、そこで忽然と消えてしまった。
「落ちたか。いや、わざと跳んで逃げたか」
どのみちこの落差では敵も無事では済むまい。
深追いしてもミイラ取りがミイラになるだけだ。
「崖下に回るか……」
思案する女の視界の端に、街の灯が見えた。顔を上げれば、さらに天上からは真ん丸な月が煌々と彼女を照らしていた。
「美しい……」
無意識に呟いた自分の声で、彼女は我に返った。
街の灯が見えると言うことは、敵は街に逃げ込んだ可能性がある。月明かりの下なら、見つけられるかもしれない。
「急がなければ。崖の下に続く道を」
その時、一陣の風が吹き抜けた。どこからともなく、金木犀の香りを運んで。
敵を仕留めて、いつか剣を置いて、一人の娘に戻れたら、月明かりの下でも芳醇に香る金木犀のような香水を買おう。
きっと鼻の奥に染み付いた、血の臭いを忘れさせてくれるだろうから。
女戦士は月明かりの下、街へと続く道を駆け降りた。
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