遠距離両片想い

 ある日、KENの映画レビューが熱心な信者に叩かれ、炎上した。発言を削除したが、火の手は他の映画レビュー記事にも飛び、炎上は収まるところを知らなかった。
 MayuはDMでKENに声をかけた。
 ≪KENさん大丈夫?大変なことになったね。≫
 ≪しくったわ。なんでアレがこんな燃えたんかわからん。俺もうPixyおれんわ。やめる。退会する。≫
 「え?!退会?!」
 するとほどなくしてKENは記事を更新した。
 ≪この度は皆さんに不快な書き込みをしてお騒がせしました。大変申し訳ありません。私は本日を持ちましてPixyを退会します。もう二度と戻ることはありません。今までお世話になりました。≫
 そして、深夜、日付が変わるころ、KENはMayuの友達一覧から消えた。
 「そんな……KENさん……!KENさんホントに消えちゃった……!」
 Mayuは泣いた。もうKENの投稿が見れなくなる。それはMayuにとって失恋に等しいものだった。
 楽しみが無くなったMayuは、次第にPixyにログインする頻度も落ちていき、ほどなくして退会してしまった。

 それから8年が経過した。Mayuは結婚し、2歳のイヤイヤ期を迎えた子供の育児に手を焼いていた。
 育児の悩みや音楽、映画の感想などを、新型SNS・monotalkに書き連ねていた。
 ≪やっぱり私にとってPEAKERは最高のバンド。育児でイライラしてても、Junichi様のボーカルが疲れを吹き飛ばしてくれる。≫
 Mayuは高校時代から大ファンのロックバンド・PEAKERの新譜を楽しんでいることをmonotalkに書き込んだ。
 そこに、イイネが一つついた。”けんけん”という名前だった。Mayuは特に気にしていなかったが、数分後、リプライが付いた。
 ≪僕もPEAKERは人生で最高のバンドです。またPEAKERつながりで繋がってしまいましたね。KENです。覚えてますか?≫
 「え?!KENさん?!うそ……。なんで私だってわかったの?!」
 ≪KENさんですって?!あのKENさんですか?!なんで私がMayuだってわかったんですか?名前だって、今はまーちゃんなのに…≫
 ≪判りますよ。画像欄見たらふにゅんのぬいぐるみで部屋いっぱいじゃないですか。すぐわかりました。≫
 Mayuは部屋を眺めまわしてみた。あのころとは配置も違うし、引っ越しもしたので、わかるわけがない。でも、ふにゅんというゆるキャラグッズで部屋がいっぱいなのは変わっていない。料理写真や子供の服の写真にふにゅんが沢山映り込んでいることで、KENはMayuだとすぐにわかったらしい。
 「け、KENさん……。また会えた。見つけてもらった。嬉しい……」
 ≪KENさんまた会えてうれしいです。よかったらフォローさせてもらっていいですか?また映画や音楽の話しましょう。今は映画館行けないので、DVD待ちになってしまいましたが…≫
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