彼岸花の咲く場所

 とある男女共学の高校の、階段の踊り場。今まさに青い春が放課後の朱い光に包まれていた。
 「奈緒ちゃん、俺、奈緒ちゃんのことが好きなんだ。ごめん、黙っていられなかった」
 奈緒と呼ばれたおさげの少女は、目を見開き、暫し呆然と目の前の幼馴染を見つめた。幼なじみの名は薫。クラスは違うが、同じ学校、同じ学年の、ショートヘアのボーイッシュな少女だった。
 奈緒は今まで、薫を仲のいい親友だと思っていた。だが、薫は違ったのだ。奈緒を恋愛対象として付き合ってきたのだ。奈緒は心の整理がつかない。どう反応していいか、忙しなく脳を回転させて、最適解を探す。傷つけないように、断る言葉はないものか。
 「あ、急にこんなこと言われても困るよね。ごめん。でも、俺はこれ以上友達ではいられない。お願い、俺と付き合ってくれないかな…」
 薫は振られるのを承知で強めに本音をうちあけた。親友で幼馴染みの奈緒なら、付き合ってくれるかもしれない。今までもずっと私たちは仲良しでいたのだから。しかし。
 「ごめん薫ちゃん。私、薫ちゃんを彼女としては見られない。友達のままじゃだめかな?これからも友達として仲良くして…?」
 薫はその不器用な優しさに、何故か深く心を抉られた。嫌いだと派手に振られた方が幾分スッキリしただろう。それなのに、なんだその優しさは。友達は無理だと言ったのに。
 「俺、友達はもう無理だって言ったよね?なんでそんな中途半端に優しくすんの?」
 「えっ、だって、薫ちゃんは幼馴染だよ。薫ちゃんの彼女にはなれないけど、幼馴染ではあるじゃない」
 奈緒は薫の決死の覚悟を何も理解していないようだった。友達でなくなるか、恋人になるか、薫には二つに一つしか道はないと思っていた。
 こんな恥ずかしくて無様な告白をして、今まで通り仲良くなんて、そんな恥ずかしい真似が出来るはずがない。
 「何も分かってないんだね。俺は今まですごく苦しかった。死にたいぐらい好きだった。奈緒ちゃんの笑顔が辛くて、奈緒ちゃんの手に触れられるとビリビリ痺れて、奈緒ちゃんを襲いたくて堪らなかった。その葛藤がこれからも我慢し続けなくちゃいけないなんてもう無理だ。気が狂いそうだよ!振るなら振れよ!嫌われた方が清々するっつの!!」
薫は奈緒を突き飛ばすと全力で駆け出した。
「薫ちゃん!待って!やり直そうよ!」
奈緒の叫びも虚しく、薫は学校を飛び出した。
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