another 第十三話 病死

 「めでたし、めでたし、か」
 水盤に映し出された自分の死に様を見て、エルディはフウッとため息をついた。
 「本来はこういう死に様が予定されていたのだ。私はこの映像を見て貴様を担当することになった」
 一緒に水盤を見つめていたカフィンが、エルディにそう説明する。
 エルディは晴れて死神になった。首の周りの肉が壊死し、黒ずんでいるほかは、特別変わった姿をしていない、黒いスーツを着た老人の姿だ。死神になったエルディに、カフィンは予定されていた運命を見せた。そして、天寿を全うする素晴らしさを説くつもりだった。
 「それを、貴様は……!本当にお騒がせな奴だよ」
 エルディは頭をポリポリ掻いて、はにかんだ。
 「いやあ、死にたくてたまらなかったんだよ。待ちきれなくてね。3カ月も身辺整理するなんて、僕らしくないなあ」
 「しかし、天寿を全うしたお前はお気に入りのカフェの最後の晩餐を味わうことができたのだぞ」
 しかしエルディはチチチと舌を鳴らして人差し指を振った。
 「大丈夫。僕も指輪と花束とタキシードを買いそろえる間にカフェに立ち寄って最後の晩餐してきたから。そこは譲れないこだわりだからね。もちろん済ませたよ」
 カフィンは胸を張るエルディを見てあんぐりと口を開けて呆れた。死に様のこだわりに関してはエルディのほうが一枚上手であったようだ。
 「……と、ともかくだ、貴様のように死に急ぐ奴は我々にとって仕事を増やす厄介な人間だということは覚えておけ。天寿を全うすれば難しいことは何もしないで、ただ手を引いて連れてくるだけでよかったのだ」
 「そうだねえ。僕の担当する人は、面倒な人じゃないといいねえ」
 まったく他人事のように言うエルディに、カフィンはほとほと呆れてしまう。死神の大変さが解っていないようだ。それならば、上層部もそれなりの対応を願う。
 すると、水盤に骸骨人間の顔が映し出された。
 「エルディ。早速仕事だ。この水盤に飛び込め。道中ターゲットについて説明する」
 エルディは飛び上がって喜んだ。死神としての初仕事である。
 「わ!早速僕に初仕事だ!じゃあカフィン、行ってくるよ!」
 「ああ。へまはするなよ」
 エルディは水盤に足をかけて飛び降りた。
 真っ暗い世界だった。上下の区別もつかない真っ暗い世界で、落下する重力を感じながらエルディは落ちていった。
 『ターゲットはエミリー。16歳。飛び降り自殺しようとしている。未遂で食い止めろ』
 「え、えええええ?!いきなり自殺志願者?!なんてこった!僕が説得するの?」
 すると足元から光が差し込み、ビルの屋上に落下してゆく。着地した地点には、一人の少女がいた。
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