第十三話 首吊り
エルディは街で美しいダイヤの指輪を購入し、薔薇の花を100本束にして購入し、結婚式用の白いタキシードを試着して買い上げた。
自宅に帰ってくると早速タキシードに身を包み、バラの花束を足元に置いて天井から首つりロープをぶら下げた。
口を開けてその様子を見るカフィンは、ほとほと呆れ果てたようだ。自殺への気合の入れようが明らかにおかしい。
エルディは椅子の上に立ち、首つりロープに頭を通してから、カフィンに指輪を差し出した。
「カフィン。僕はもう用意ができた。今こそ改めて言うよ。僕と結婚してください。今すぐこの首つりロープを引いて、僕と一緒になってくれ」
カフィンは頭を抱えた。
「馬鹿か……!お前の命はあと3カ月あるんだぞ!放っておいても3カ月後に自然に死ねるのだ!なぜそこであえて自殺しようとする?!」
「君が待ちきれないんだよ」
カフィンは「はあ……!」と盛大にため息をついた。カフィンがなかなか殺そうとしないので、エルディは内ポケットに仕込んでいた拳銃を取り出し、米神に当てがった。
「首吊りで死ねないなら、拳銃で死ぬよ?」
「わかった。もういい。さっさと首をつって死ね」
カフィンは根負けした。首吊り縄を掴み、大きな鎌を構える。
「やった!ありがとうカフィン!愛してるよ!」
そしてエルディは足元の椅子を蹴った。
第一発見者は娘だった。娘は絶叫し、デライラを呼びに行った。
首をつっているというのに、安らかで幸せそうな死に顔をしているのを見て、デライラはすべてを悟った。
「そうか……。カフィンのところに行けたのね」
「カフィン?」
「死神だよ。エルディは、昔からずっと死神の女神様のことが好きだったのよ。いつも女神様に会いたくて、自殺未遂ばかりしていた。いつも女神様に会いたがって、死のうとしていた」
デライラは娘に手を貸してもらいながら、エルディの亡骸をロープから降ろし、床に横たえて膝枕をした。愛おしそうにその死に顔を撫で、独白のように娘に語った。
「エルディとはね、死女神のカフィンを通じて知り合ったの。カフィンは私の担当の死神でもあった。死のうとする私を説得するカフィンの姿を見つけたエルディが、『カフィンは僕の物だ!』って、私が死ぬのを引き留めたの。エルディはそこからの付き合い。エルディと何度も心中しようとした。でも、カフィンは絶対に私たちを殺そうとしなかった。いつも、『今は死ぬときじゃない。生きろ』ってカフィンに叱られたっけ」
デライラはエルディの亡骸に語り掛けた。
「あたしを愛しているといっても、貴方はやっぱりカフィンが一番だったのね。カフィンと一緒になれると知ったら、こんな用意までして、派手に死んじゃうんだから。あたしは嫉妬するわよ。あたしのエルディ。でも、よかったわね。最愛の本命と、やっと一緒になれて……。あたしももうすぐそっちに行くからね。あなたとカフィンの幸せなんかぶち壊してやる。エルディはあたしの物なのよ」
娘は、父が絶望から死んだのではないことを知り、父に労いの言葉をかけた。
「そうだったんだね。おめでとう、父さん。安らかに眠って。あの世で幸せになってね」
エルディの告別式は盛大に執り行われた。遺影のエルディは、実に幸せそうに微笑んでいたという。
ある一人の死にたがりの男は、精一杯魂を育て、懸命に生き、自分の生の幕を自らの手で閉じた。人一倍死の恐怖を体感し、人一倍命の尊さを実感し、人一倍死神を愛した。この物語は、そんな男の伝説である。
END.
自宅に帰ってくると早速タキシードに身を包み、バラの花束を足元に置いて天井から首つりロープをぶら下げた。
口を開けてその様子を見るカフィンは、ほとほと呆れ果てたようだ。自殺への気合の入れようが明らかにおかしい。
エルディは椅子の上に立ち、首つりロープに頭を通してから、カフィンに指輪を差し出した。
「カフィン。僕はもう用意ができた。今こそ改めて言うよ。僕と結婚してください。今すぐこの首つりロープを引いて、僕と一緒になってくれ」
カフィンは頭を抱えた。
「馬鹿か……!お前の命はあと3カ月あるんだぞ!放っておいても3カ月後に自然に死ねるのだ!なぜそこであえて自殺しようとする?!」
「君が待ちきれないんだよ」
カフィンは「はあ……!」と盛大にため息をついた。カフィンがなかなか殺そうとしないので、エルディは内ポケットに仕込んでいた拳銃を取り出し、米神に当てがった。
「首吊りで死ねないなら、拳銃で死ぬよ?」
「わかった。もういい。さっさと首をつって死ね」
カフィンは根負けした。首吊り縄を掴み、大きな鎌を構える。
「やった!ありがとうカフィン!愛してるよ!」
そしてエルディは足元の椅子を蹴った。
第一発見者は娘だった。娘は絶叫し、デライラを呼びに行った。
首をつっているというのに、安らかで幸せそうな死に顔をしているのを見て、デライラはすべてを悟った。
「そうか……。カフィンのところに行けたのね」
「カフィン?」
「死神だよ。エルディは、昔からずっと死神の女神様のことが好きだったのよ。いつも女神様に会いたくて、自殺未遂ばかりしていた。いつも女神様に会いたがって、死のうとしていた」
デライラは娘に手を貸してもらいながら、エルディの亡骸をロープから降ろし、床に横たえて膝枕をした。愛おしそうにその死に顔を撫で、独白のように娘に語った。
「エルディとはね、死女神のカフィンを通じて知り合ったの。カフィンは私の担当の死神でもあった。死のうとする私を説得するカフィンの姿を見つけたエルディが、『カフィンは僕の物だ!』って、私が死ぬのを引き留めたの。エルディはそこからの付き合い。エルディと何度も心中しようとした。でも、カフィンは絶対に私たちを殺そうとしなかった。いつも、『今は死ぬときじゃない。生きろ』ってカフィンに叱られたっけ」
デライラはエルディの亡骸に語り掛けた。
「あたしを愛しているといっても、貴方はやっぱりカフィンが一番だったのね。カフィンと一緒になれると知ったら、こんな用意までして、派手に死んじゃうんだから。あたしは嫉妬するわよ。あたしのエルディ。でも、よかったわね。最愛の本命と、やっと一緒になれて……。あたしももうすぐそっちに行くからね。あなたとカフィンの幸せなんかぶち壊してやる。エルディはあたしの物なのよ」
娘は、父が絶望から死んだのではないことを知り、父に労いの言葉をかけた。
「そうだったんだね。おめでとう、父さん。安らかに眠って。あの世で幸せになってね」
エルディの告別式は盛大に執り行われた。遺影のエルディは、実に幸せそうに微笑んでいたという。
ある一人の死にたがりの男は、精一杯魂を育て、懸命に生き、自分の生の幕を自らの手で閉じた。人一倍死の恐怖を体感し、人一倍命の尊さを実感し、人一倍死神を愛した。この物語は、そんな男の伝説である。
END.