第一章 奇跡使いと言霊使い

「水の神!生命の神!」
 キュポン!という奇妙な音を立てて、小さな奇跡の光の玉は、親指大の小瓶の中で液体に変わった。すかさずケフィがそれを受け取り、コルクの栓をして、テープで封印する。
 テンパランスの事務所では、大きな仕事の出動が無い限り、日がな一日、毎日これを繰り返す。
 水の神と生命の神だけではない、時には光の神や影の神などという、何のために呼び出しているのか疑問な神の名を呼ぶこともあった。
 水色、薄い紫色、ピンクに緑色に黄色……いろんな色があり、透き通っていて、暗がりでぼんやりと光る。
 毎日沢山の小瓶を作っているが、これは一体何に使うアイテムなのだろう。
「アルシャインさん、一つ聞いていいですか?」
「ん?何だい?」
 ケフィの呼びかけに集中力が途切れて、ふうと溜息をつきながら、アルシャインは額の汗をぬぐった。
「毎日毎日これを作り続けてますが、これは一体何に使うんですか?」
「おや、ケフィはこれの世話になったことがなかったのかな?これは奇跡の小瓶だよ。病院やリハビリ施設に配っている、薬のようなものだね」
 この奇跡の小瓶は奇跡使いの事務所が各々作っている、古くからある魔法薬だ。
 科学的に調合された薬が出回った今ではあまり出回らなくなったが、化学薬品にアレルギーを起こす者、薬を飲みたがらない者、まだ薬が開発されていない病気などには未だ根強く奇跡の小瓶が処方され続けている。
 特に老人は薬を飲みたがらないので、老人や障害者のグループホームなどでは薬よりこの小瓶を使う割合が高い。
 頻繁に事件に駆り出されることのない奇跡使いは、病院や施設の依頼で定期的にこの小瓶を生産し、届けることになっている。
「そうだったんですか……。僕、大きな病気をしたことがないし、風邪を引いた時も薬を飲んでいたから、使ったことがないです」
「そうだったか。まあ、使ってみればわかるよ。薬ほどテキメンに効くわけではないけど、薬より安全だよ」
 夕方までこの作業を続けると、平べったい箱が何段にも詰みあがるぐらいの数ができた。
「さあ、今日は老人ホームにこれを運ぶよ。手伝ってくれ」
「はい!」
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