第一章 奇跡使いと言霊使い

 数日後、アルシャインの禁が解けたころ、応接室に市役所の職員が現れた。森の側の民家にモンスターが現れ、人が襲われるという事件が起きているという。
 今回の案件は、そのモンスターの討伐と、森の奥へ追い返し、市役所職員が鉄条網を設置する作業の警備だ。
 早速明日の早朝からミッションは始まるという。
 テンパランスたちは装備を整え、翌日に備えた。

「いたぞ!そっちだ!」
「そっちに行った!気をつけろ!」
 モンスターは住宅地に朝早くから現れた。夜が明けて間もないような早朝である。モンスターは人間たちが朝起きて家から出てくるのを待ち構えていたのである。
「火の神!風の神!」
 テンパランスが巨大な火球を作り出し、モンスター達を怯ませたところに、アルシャインが、
「水の神!風の神!」
 鋭い氷の礫を作り出し、モンスターめがけて放った。氷の礫は朝露を湛えたモンスターの毛皮を凍らせたが、威力はいまいちだった。
「ならば、風の神!風の神!風の神!」
 風の神のかまいたちの威力だけで切り刻む作戦に出た。
 モンスターは風の神に切り刻まれ、血しぶきを上げながら逃げていった。
「こっちにも出たぞ!!」
「今行きます!」
 生の現場の緊迫感と迫力に、ケフィは圧倒されていた。それでも、先輩や師匠の働きぶりを見て、目で覚えなければならない。ケフィはテンパランスたちを追って走った。
 住宅街に入り込んだモンスター達を森へ追い返し、市の職員たちが鉄条網を張る作業に入ると、テンパランスとアルシャインは、二手に分かれて職員たちの警備にあたった。
 いつモンスターが襲い掛かっても反撃できるようにするためである。
 ケフィはテンパランスの側に付き、無力なりに周囲への警戒を怠らなかった。
 しかし、如何に警戒しても、自分の背後にまで常に目を光らせることは不可能で。
「ケフィ!危ない!後ろ!!」
「うわあ!!」
 背後の木の陰から、巨大なモンスターが顔をのぞかせていた。
「伏せて!光のか……!」
 テンパランスが光の神を呼び出し、モンスターの目暗ましをしようとしたのとほぼ同時に。
「来ないで!!」
 ケフィが叫ぶと、今にも襲い掛かろうとしたモンスターの動きが止まった。
「火の神!!あいつをやっつけてーー!!!」
 ケフィが叫ぶと、モンスターは火を噴き上げながら爆発四散した。
 辺りには火の粉が飛び、モンスターの肉片が飛び、焦げ臭い臭いが漂った。
 一番驚いたのはテンパランスである。まさかケフィがこんな形で奇跡を使うとは。いや、これは、奇跡なのだろうか?奇跡というには、いささか悪趣味な力だ。
「や……やった……!テンパランス様!僕、奇跡が使えました!!」
「え……ああ……そうね……?」
 いつも表情を崩さないテンパランスが、目を見開いて驚いて固まっている。ケフィは誇らしくなった。
「よかった、僕にも力がちゃんとあった。やればできるんだ、僕だって!」
 その後は特に異常もなく、夕方には無事に鉄条網を張り終え、解散となった。
「報酬は後日お振込みいたします」
「よろしくお願いします」
 森からの帰り道、ケフィはその場にいなかったアルシャインに、自分の手柄を誇らしく語った。
「ちゃんと僕にも火の神の力が使えたんですよー!!そのあとは、テンパランス様が燃えた草を消火してくださったんですけどね」
 しかしその話を聞いたアルシャインは首をひねった。
「火の神だけの力なのかな……もっと他に、別の神の力が働いてるような……」
「私もあの力の発現の仕方には疑問が残るわ。火の神に訴えていたのは分かるのだけど、火の神だけで爆発はしない」
 ケフィは得意になっているので、二人の疑問も全く意に介さなかった。
「いやあ、僕はまだ未熟だからあんな暴発しただけですよー。この力をコントロールできたら、きっとお二人みたいな奇跡使いに、なって見せますって!」
 ケフィがあまりに調子に乗っているようなので、テンパランスは釘を刺した。
「慢心していては成長はできないわ。これからも厳しく自分を律し、修行に励むこと。いつも力を使えるようにならなければ話にならないわ」
「う……は、はい……」
 ケフィは調子に乗ってしまった自分を恥じた。でも、この一件は大きな自信につながったことは確かだ。明日から、また修行に励もう。ケフィは紫色に染まった空に輝く、一番星に誓った。
6/34ページ
スキ