第一章 奇跡使いと言霊使い

 ケフィはジタバタもがいて、ガイの腕から逃げ出した。
「正直に言え?エラか?」
 ケフィは全力で首を振った。
「ニナ?ニナ可愛いよな?」
 ケフィはまたも首を振った。
「まさかのベルちゃん?」
 ケフィは一瞬ためらい、首を振った。一瞬脳裏に、今朝壁に追い込んだ時の距離の近さがよぎった。
「何だ今のタメは?さてはベルちゃんか?意外だな~。でも地味そーだもんなーお前。ありえない話じゃないぜ」
「ち、違いますよ!!」
 ケフィはむきになって否定した。
「誰も狙ってなんかいませんよ!修行中ですよ?!」
「固てぇこと言うなよ。奇跡使いと違って言霊使いは恋愛オッケーなんだぜ?」
「え?!」
 ケフィは驚いた。テンパランスの屋敷であんなに厳しく叩き込まれたのだ。言霊使いも恋愛は禁止だと思っていた。
「ペナルティーとかないんですか?」
「無いんじゃねえの?聞いたことねえぜ。奇跡使いはなんかいたずらっ子みたいなツラにされるみたいだけどな」
 それは初耳だ。ミルドレッドも特に説明しなかったのは、最初からその概念がなかったからなのかもしれない。
「ベルちゃんか~~。めんどくさそうだけどお前ならできるよ~~。頑張れよ~~」
「違いますって!違いますからね?!」
 ケフィはベルの拒絶を思い出して、芽生えかけたベルへの想いを全力で否定しようとした。
 ガイはへらへら笑いながら、どこかへと消えていった。
「違い……ますよ……」
 ベルのことを思えばこそ、彼女に迷惑はかけられない。
 ケフィは複雑な気持ちで足元の芝生を見つめることしかできなかった。
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