第一章 奇跡使いと言霊使い

 ケフィが屋敷中を探し回ってやっと彼女を見つけたのは、ご霊体のお堂の中だった。
 彼女はご霊体の像を一体一体布巾で磨いていた。
「こんなところにいたんですね、ベルさん」
「……」
 ベルは少し嫌そうな顔をしたが、無視して像を磨き続けた。
「ミルドレッド様から聞きました。本当は言霊が使えるのに、自分から封印しているんですってね。どうしてなんです?」
 ベルは布巾をバケツの水にくぐらせると、固く絞り、また次の像を磨いた。
「使いたくないからです。怖いんです。前に言いましたよね」
 ケフィは熱く語った。
「使い方さえ誤らなければ、言霊は正しく発動します。ベルさんはそれができるんでしょう?どうしてエラさんたちにやられっぱなしでいるんですか?本当だったら、そんな雑用も、みんなでやるべきことなのに。なんであなた一人が……!」
「放っておいてくれませんか?」
 ベルは再びケフィを拒絶した。
「ミルドレッド様から聞いたのなら知ってますよね。私、自分からこの仕事をしたいって言ったんです。だから、放っておいてください」
「けど、あなたがやり返せば、あの人たちだって虐めるのをやめてくれるでしょう?なんで虐められっぱなしでいるんですか?」
「それも」
 ベルはバケツを手に立ち上がって、ケフィを見据えて言い放った。
「私が望んだんです」
 ケフィはもう、何も言えなかった。

 ガイはミルドレッド達が車を出すとき以外でも、何か仕事があるとき以外でも、神出鬼没にふらりと現れる。
 ケフィはいつもガイのそんな行動が読めず、不思議に思っていた。
「よっ、ケフィ。言霊使いには慣れたか?」
「ガイさん……」
 ケフィが無意識に白い目でガイを見ると、ガイは「なんだよその目は!」と抗議した。
「俺だって暇人じゃないんだよ?忙しい中こうやって遊びに来てやってるのに、何だよ、男には興味ないってか?そんなに女の園が居心地いいか?」
「そんなこと言ってませんよ。いやあ、ガイさんって暇なのかなとは思いましたが」
「ひど!俺だって忙しいのよん?」
 ガイは右腕でケフィの頭を抱え込むと、左手拳で彼の頬をグリグリした。
「よ~お前さんだれか好きな子できたか~?エラか~?ニナか~?まさかミルドレッド狙ってないだろうなあ~~?」
「ね、狙ってませんよ誰も」
33/34ページ
スキ