第一章 奇跡使いと言霊使い
その日、ケフィはミルドレッドの書庫から借りた本を書庫に戻そうと、屋敷内を歩いていた。
書庫の扉の前に立ち、ドアを開けようとすると、ドアの向こうから誰かのすすり泣く声がかすかに聞こえる。
ケフィは驚かせないように、そっと音をたてないように扉を開いた。
「ベルさん……」
ケフィが思わずそう呼ぶと、ベルはビクッと肩を竦め、逃げ出そうとした。本棚の陰に一瞬逃げ込んで、遠回りしてきたが、しかし、一つしかない出入口にケフィが立ちふさがっているため、逃げられない。
「通してください」
「どうしたんですかベルさん」
「通してください!」
ケフィは腕を掴んで引き留めようとした。すると、「痛い!」と、ベルが悲鳴を上げた。
ケフィは「触っただけなのに……」と思い、掴んだ手首を見ると、腕が腫れ上がっている。よく見れば、顔にも殴られた痕のような痣がある。
「誰にやられたんですか?エラさんですか?ニナさんですか?」
「放っておいてください!」
ベルは何故かケフィを拒絶する。この人数の少ない屋敷内で、犯人はわかりきっているというのに、ベルは隠そうとした。
ケフィはベルを壁に押し付け、逃げられないように両腕で囲むと、「じっとしてください」と、祝詞を唱え始めた。
「愛の古霊アマーレよ、傷つき病んだコルプスを休め、癒し給え」
ケフィとベルを柔らかな光が包み、ベルの傷が回復した。
「あ……」
「僕、調べたんです。傷や怪我を治す言霊を。いくつかありましたが、簡単な怪我はこれで治るみたいです」
ベルはかあっと顔を赤らめ、俯いた。
「ち、近いです」
そう言われれば、やむを得なかったとはいえ、確かに距離が近い。ケフィもまた顔が紅潮し、「あっ、す、すみません!」と、慌てて離れた。
「ありがとうございます……」
ベルがようやく礼を言うと、ケフィは謙遜した。
「いえ、覚えたてだったので、成功してよかったです」
「それじゃ、私はこれで」
ベルがそそくさと部屋から出ていこうとするので、ケフィは再びベルの腕を掴んで引き留めた。
「ちょ、ちょっとまってください!その怪我、あの人たちにやられたんでしょう?」
しかしベルは拒絶の姿勢を崩さない。
「あの、放っておいてください」
「放っとけませんよ!!」
ベルは射抜くような目でケフィを睨んだ。
「じゃあ、あなたに何かできるんですか?今すぐ?」
「そ、それは……」
考えてみたら、ノープランだ。ただ何となく声をかけただけで、ただ何となく助けたいと思っただけだった。それを見透かされたようで、ケフィは言葉に詰まった。ベルはケフィの拘束の手が緩むのを見ると、手を振り払い、黙って部屋から出ていった。
「ベルさん……どうして……」
書庫の扉の前に立ち、ドアを開けようとすると、ドアの向こうから誰かのすすり泣く声がかすかに聞こえる。
ケフィは驚かせないように、そっと音をたてないように扉を開いた。
「ベルさん……」
ケフィが思わずそう呼ぶと、ベルはビクッと肩を竦め、逃げ出そうとした。本棚の陰に一瞬逃げ込んで、遠回りしてきたが、しかし、一つしかない出入口にケフィが立ちふさがっているため、逃げられない。
「通してください」
「どうしたんですかベルさん」
「通してください!」
ケフィは腕を掴んで引き留めようとした。すると、「痛い!」と、ベルが悲鳴を上げた。
ケフィは「触っただけなのに……」と思い、掴んだ手首を見ると、腕が腫れ上がっている。よく見れば、顔にも殴られた痕のような痣がある。
「誰にやられたんですか?エラさんですか?ニナさんですか?」
「放っておいてください!」
ベルは何故かケフィを拒絶する。この人数の少ない屋敷内で、犯人はわかりきっているというのに、ベルは隠そうとした。
ケフィはベルを壁に押し付け、逃げられないように両腕で囲むと、「じっとしてください」と、祝詞を唱え始めた。
「愛の古霊アマーレよ、傷つき病んだコルプスを休め、癒し給え」
ケフィとベルを柔らかな光が包み、ベルの傷が回復した。
「あ……」
「僕、調べたんです。傷や怪我を治す言霊を。いくつかありましたが、簡単な怪我はこれで治るみたいです」
ベルはかあっと顔を赤らめ、俯いた。
「ち、近いです」
そう言われれば、やむを得なかったとはいえ、確かに距離が近い。ケフィもまた顔が紅潮し、「あっ、す、すみません!」と、慌てて離れた。
「ありがとうございます……」
ベルがようやく礼を言うと、ケフィは謙遜した。
「いえ、覚えたてだったので、成功してよかったです」
「それじゃ、私はこれで」
ベルがそそくさと部屋から出ていこうとするので、ケフィは再びベルの腕を掴んで引き留めた。
「ちょ、ちょっとまってください!その怪我、あの人たちにやられたんでしょう?」
しかしベルは拒絶の姿勢を崩さない。
「あの、放っておいてください」
「放っとけませんよ!!」
ベルは射抜くような目でケフィを睨んだ。
「じゃあ、あなたに何かできるんですか?今すぐ?」
「そ、それは……」
考えてみたら、ノープランだ。ただ何となく声をかけただけで、ただ何となく助けたいと思っただけだった。それを見透かされたようで、ケフィは言葉に詰まった。ベルはケフィの拘束の手が緩むのを見ると、手を振り払い、黙って部屋から出ていった。
「ベルさん……どうして……」