第一章 奇跡使いと言霊使い
屋敷の客間で、イオナは熱い紅茶を振る舞った。冷めて固くなっていたが、スコーンも用意された。
同い年とはいえ、年頃の女の子と二人っきりでお喋りはなんだか気まずい。
「あなたどこから来たの?」
「ガリントンです」
「えー?あんなとこから来たの?大変だったじゃない。近場の奇跡使いじゃだめだったの?」
「既にお弟子さんがいっぱいで、入れませんでした。テンパランス様なら、お弟子さんが少ないと聞いたし、素晴らしい力をお持ちだというので、それで……」
お喋り好きな女の子は、マシンガンのように矢継ぎ早に質問を浴びせてくる。ケフィはこの段階でプライバシーも秘密も何も丸裸にされそうだった。
「ふーん、そっかあ……」
質問の雨が止むと、暫し気まずい沈黙が流れる。ケフィは、初対面の女子のこの会話のノリが苦手だった。テンパランスもこんなノリの女性だったら、ここで修行するのは耐えられそうにないかもしれない。
「そうだ、テンパランス様ってどんな方ですか?」
今度はケフィが訊く番だ。
「テンパランス様?うーん、そうねえ。素晴らしい方よ。聡明で、物静かで、落ち着いていらして。奇跡使いってね、ガチガチに厳しい禁欲生活をしなくちゃならないんですって。お酒飲まないとか、お肉食べないとか、恋をしちゃいけないとか。そういうの、全部守っていらっしゃるの。凄いと思うわ」
少年は、それを聞いて、なぜテンパランスが、「テンパランス(節制)」という名を冠しているのか納得した。女性だったら恋をしたいこともあるだろう。女性なりの色んな誘惑も多いはずだ。そういうものに目もくれず、ひたすら神のためだけに生きているという。なんだか、尊敬できそうな気がした。
「そういえば、さっき、男性もテンパランス様についていきましたよね。あの方は誰なんです?」
金髪を短く刈り上げた、青い目の美青年。多分弟子なのだろうとは思うが。
「アルシャイン様ね。テンパランス様の一番弟子で、唯一テンパランス様の元から去らなかった方よ」
「?」
「テンパランス様ね、女性でしょう?他の今までのお弟子さんは、みんなテンパランス様のことが好きになっちゃって、奇跡が使えなくなって破門されちゃったの。他のお弟子さんたちは他の奇跡使いのところに行ったとか、残念な人生を送ってるとか、そんな話を風の噂で聞いたわ」
「なるほど、だから、テンパランス様ほどの有名な奇跡使いの方なのに、お弟子さんが少ないんですね」
ケフィは先ほどのテンパランスの顔を思い出して、自分も惚れてしまいそうだろうか、と考えてみた。
……あの冷たい目に射抜かれたら、惚れそうな予感はしなかった。惚れるなんて畏 れ多い。平伏して顔を上げることもできなそうだ。
そんな話をしていると、車のエンジン音が聞こえて、玄関のドアが開いた。
「帰っていらしたわ。いらっしゃい、ケフィ」
イオナがケフィを手招き、玄関へとパタパタと駆けていった。ケフィも後に続き、テンパランスたちを出迎えた。
「お帰りなさい、テンパランス様。事故はどうでした?」
テンパランスと呼ばれた女性は表情一つ変えず答えた。
「なんとか無事に処理したわ。間に合ったみたい」
ふと、テンパランスが見慣れない少年の存在に気づき、ケフィに目を合わせた。イオナは「いっけない!」と、慌ててケフィをテンパランスに紹介した。
「テンパランス様、お客様ですよ。こちらケフィ君。テンパランス様の弟子になりたいっていらっしゃったんですよ。ケフィ君、この方がテンパランス様よ、後ろの方がアルシャイン様」
ケフィは緊張して気を付けの姿勢を取り、できる限り元気に名乗った。
「は、初めまして!先日ご連絡いたしました、ケフィ・スクートです!本日はよろしくお願いします!!」
「そう、貴方が。ようこそ、ケフィ。私が奇跡使いのテンパランスです」
彼女の背後から、アルシャインも名乗った。
「初めまして、ケフィ。僕はテンパランス様の弟子、アルシャインです。よろしく」
お互い名乗り終わると、改めてテンパランスがケフィに向き直った。
「お待たせして御免なさいね。それでは、早速面接といたしましょう」
同い年とはいえ、年頃の女の子と二人っきりでお喋りはなんだか気まずい。
「あなたどこから来たの?」
「ガリントンです」
「えー?あんなとこから来たの?大変だったじゃない。近場の奇跡使いじゃだめだったの?」
「既にお弟子さんがいっぱいで、入れませんでした。テンパランス様なら、お弟子さんが少ないと聞いたし、素晴らしい力をお持ちだというので、それで……」
お喋り好きな女の子は、マシンガンのように矢継ぎ早に質問を浴びせてくる。ケフィはこの段階でプライバシーも秘密も何も丸裸にされそうだった。
「ふーん、そっかあ……」
質問の雨が止むと、暫し気まずい沈黙が流れる。ケフィは、初対面の女子のこの会話のノリが苦手だった。テンパランスもこんなノリの女性だったら、ここで修行するのは耐えられそうにないかもしれない。
「そうだ、テンパランス様ってどんな方ですか?」
今度はケフィが訊く番だ。
「テンパランス様?うーん、そうねえ。素晴らしい方よ。聡明で、物静かで、落ち着いていらして。奇跡使いってね、ガチガチに厳しい禁欲生活をしなくちゃならないんですって。お酒飲まないとか、お肉食べないとか、恋をしちゃいけないとか。そういうの、全部守っていらっしゃるの。凄いと思うわ」
少年は、それを聞いて、なぜテンパランスが、「テンパランス(節制)」という名を冠しているのか納得した。女性だったら恋をしたいこともあるだろう。女性なりの色んな誘惑も多いはずだ。そういうものに目もくれず、ひたすら神のためだけに生きているという。なんだか、尊敬できそうな気がした。
「そういえば、さっき、男性もテンパランス様についていきましたよね。あの方は誰なんです?」
金髪を短く刈り上げた、青い目の美青年。多分弟子なのだろうとは思うが。
「アルシャイン様ね。テンパランス様の一番弟子で、唯一テンパランス様の元から去らなかった方よ」
「?」
「テンパランス様ね、女性でしょう?他の今までのお弟子さんは、みんなテンパランス様のことが好きになっちゃって、奇跡が使えなくなって破門されちゃったの。他のお弟子さんたちは他の奇跡使いのところに行ったとか、残念な人生を送ってるとか、そんな話を風の噂で聞いたわ」
「なるほど、だから、テンパランス様ほどの有名な奇跡使いの方なのに、お弟子さんが少ないんですね」
ケフィは先ほどのテンパランスの顔を思い出して、自分も惚れてしまいそうだろうか、と考えてみた。
……あの冷たい目に射抜かれたら、惚れそうな予感はしなかった。惚れるなんて
そんな話をしていると、車のエンジン音が聞こえて、玄関のドアが開いた。
「帰っていらしたわ。いらっしゃい、ケフィ」
イオナがケフィを手招き、玄関へとパタパタと駆けていった。ケフィも後に続き、テンパランスたちを出迎えた。
「お帰りなさい、テンパランス様。事故はどうでした?」
テンパランスと呼ばれた女性は表情一つ変えず答えた。
「なんとか無事に処理したわ。間に合ったみたい」
ふと、テンパランスが見慣れない少年の存在に気づき、ケフィに目を合わせた。イオナは「いっけない!」と、慌ててケフィをテンパランスに紹介した。
「テンパランス様、お客様ですよ。こちらケフィ君。テンパランス様の弟子になりたいっていらっしゃったんですよ。ケフィ君、この方がテンパランス様よ、後ろの方がアルシャイン様」
ケフィは緊張して気を付けの姿勢を取り、できる限り元気に名乗った。
「は、初めまして!先日ご連絡いたしました、ケフィ・スクートです!本日はよろしくお願いします!!」
「そう、貴方が。ようこそ、ケフィ。私が奇跡使いのテンパランスです」
彼女の背後から、アルシャインも名乗った。
「初めまして、ケフィ。僕はテンパランス様の弟子、アルシャインです。よろしく」
お互い名乗り終わると、改めてテンパランスがケフィに向き直った。
「お待たせして御免なさいね。それでは、早速面接といたしましょう」