第一章 奇跡使いと言霊使い
離れの道場にやってくると、両親は道場の入り口で立ち止まり、そこから動こうとしなかった。
テンパランスとアルシャインは少々不思議に思いながらも、気にせず道場の真ん中にニコを連れだす。
「じゃあニコ、テストだよ。火の神を呼んで、火を出してみてくれるかな?」
「燃えるよ?」
アルシャインは意味がつかめなかった。
「?そうだね、燃えるね。でも、ちょっとだけ出してみてくれるかな?」
「そこにいたら燃えるよ?」
テンパランスは察した。「アルシャイン、離れましょう」と言って、ニコと距離をとる。
「いい?」
「いいよ、やってごらん」
ニコは大きく息を吸い込むと、「火の神!」と叫んだ。
途端、灼熱の炎が燃え上がり、道場の真ん中の床から天井までを焦がした。こんな巨大な火球は見たことがない。キャンプファイヤーもマッチの火に見えるような巨大な炎だ。
テンパランスとアルシャインは慌てて水の神を呼んだ。道場が火事になってしまう。焦げた天井と床に水を撒くと、先ほどの不思議に思った数々の点に合点がいった。
両親はその威力の大きさを知っていたから近寄らなかったのだ。
いつも冷静なテンパランスも冷や汗をかいた。
「なるほど。わかりました。お父さん、お母さん、この子はウチで預かりましょう。能力のコントロールと、奇跡使いの戒律について、責任を持って指導いたします」
それを聞いて、両親はほっと胸をなでおろした。自閉症で問題行動が多くて、いつも精神を削られる厄介な子。可愛いわが子には違いないが、だからこそ、しかるべきところで面倒を見てもらえるのはありがたい。しばらくこの子から解放されると思うと、それだけで安心した。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
ニコに部屋を与え、両親が持ってきた荷物を片付けて部屋を整えると、両親は帰っていった。
「ばいばーい」
ニコは両親と離ればなれで暮らすことを理解しているのだろうか。ちょっと心配になるが、今は落ち着いているようだ。
「そうですか。すごいんですね、この子。よろしくね、ニコ。あたしイオナ。同い年だよ」
イオナがテンパランスからニコを紹介されると、彼に自己紹介した。
「僕、ニコ。16です」
「うん、同い年だね。あたしも16だよ」
ニコは、それを理解すると、ニコッと微笑んだ。
「しばらくはイオナの手伝いをしてね。奇跡使いの勉強をしながら、力の使い方のコントロールをしましょう」
「はぁい!」
ニコの自信たっぷりな返事は、いつも不安になる。
斯くして、テンパランスの下に新しい奇跡使い見習いが入門することになったのである。
彼が今後巻き起こす様々なトラブルは、テンパランスたちの予想をはるかに上回る苦難の連続だということは、今はだれも知らない。
テンパランスとアルシャインは少々不思議に思いながらも、気にせず道場の真ん中にニコを連れだす。
「じゃあニコ、テストだよ。火の神を呼んで、火を出してみてくれるかな?」
「燃えるよ?」
アルシャインは意味がつかめなかった。
「?そうだね、燃えるね。でも、ちょっとだけ出してみてくれるかな?」
「そこにいたら燃えるよ?」
テンパランスは察した。「アルシャイン、離れましょう」と言って、ニコと距離をとる。
「いい?」
「いいよ、やってごらん」
ニコは大きく息を吸い込むと、「火の神!」と叫んだ。
途端、灼熱の炎が燃え上がり、道場の真ん中の床から天井までを焦がした。こんな巨大な火球は見たことがない。キャンプファイヤーもマッチの火に見えるような巨大な炎だ。
テンパランスとアルシャインは慌てて水の神を呼んだ。道場が火事になってしまう。焦げた天井と床に水を撒くと、先ほどの不思議に思った数々の点に合点がいった。
両親はその威力の大きさを知っていたから近寄らなかったのだ。
いつも冷静なテンパランスも冷や汗をかいた。
「なるほど。わかりました。お父さん、お母さん、この子はウチで預かりましょう。能力のコントロールと、奇跡使いの戒律について、責任を持って指導いたします」
それを聞いて、両親はほっと胸をなでおろした。自閉症で問題行動が多くて、いつも精神を削られる厄介な子。可愛いわが子には違いないが、だからこそ、しかるべきところで面倒を見てもらえるのはありがたい。しばらくこの子から解放されると思うと、それだけで安心した。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
ニコに部屋を与え、両親が持ってきた荷物を片付けて部屋を整えると、両親は帰っていった。
「ばいばーい」
ニコは両親と離ればなれで暮らすことを理解しているのだろうか。ちょっと心配になるが、今は落ち着いているようだ。
「そうですか。すごいんですね、この子。よろしくね、ニコ。あたしイオナ。同い年だよ」
イオナがテンパランスからニコを紹介されると、彼に自己紹介した。
「僕、ニコ。16です」
「うん、同い年だね。あたしも16だよ」
ニコは、それを理解すると、ニコッと微笑んだ。
「しばらくはイオナの手伝いをしてね。奇跡使いの勉強をしながら、力の使い方のコントロールをしましょう」
「はぁい!」
ニコの自信たっぷりな返事は、いつも不安になる。
斯くして、テンパランスの下に新しい奇跡使い見習いが入門することになったのである。
彼が今後巻き起こす様々なトラブルは、テンパランスたちの予想をはるかに上回る苦難の連続だということは、今はだれも知らない。