第一章 奇跡使いと言霊使い

 すると、突然強烈な閃光が爆ぜ、けたたましい音が耳をつんざいた。と、そこにモンスターたちの夥しい黒焦げの死体が散乱していることに気づくと、エラとニナは、「ああ、雷の古霊フールグラの雷が落ちたのか」と理解した。
「ケフィがやったの……?」
 突然目の前に雷が落ちたことで放心状態になっているエラは、そう呟くことで精いっぱいだった。
「やった……。なんか適当に唱えてみたけど、雷の言霊が使えました!」
「すごいじゃないケフィ!まだ習ってなかったんじゃない?よく使えたわね!えっと、正しくは、『げに恐ろしき稲妻の古霊フールグラよ、憎き敵に天罰の稲妻を落としたまえ』ね!」
 ニナは素直にケフィのお手柄を称えた。だが、滅茶苦茶に唱えたことを聞き逃さなかったニナは、律儀に訂正する。
「あ、はい。わかりました!なんか思い付きで言霊唱えちゃいました。反省……」
 と、そこへガイが慌てて駆け付けた。
「なんか雷落ちたんじゃない?大丈夫か?」
「いえ、今の言霊です。ケフィがやってくれたんですよ!」
 それを聞いてガイは心底ほっとした。こんな山の中の雨降りの中だ。万が一のことを考えたら、言霊だと分かっていても安心できない。
「ちょっと雨激しくなってきたから車の中で待機な」
 ガイに促され、死骸の山を自力で片づけた後、四人は車の中に乗り込んだ。
「モンスター、来ないですね」
「さすがにこんな雨の中だからな」
 と、そこへ現場の担当者がやってきて、窓ガラスを叩いた。
「どうしました?」
「この雨ですし、我々も一旦退却するので、皆さんも今日はこの場でお帰りください。明日また張り込んでいただいて、モンスターの勢いが無くなったら依頼完了ということで」
 とりあえず夕暮れ時のお祈りの時間が迫っていたので、今日酷使した古霊のぬいぐるみを囲んで祝詞をあげ感謝すると、ガイは車を走らせ帰途に就いた。

 一同が帰宅すると、ミルドレッドがダイニングルームの自分の席でタバコを吸って待っていた。ベルも料理の皿を並べて、四人を出迎えた。
「お帰りー。首尾はどうだった?」
「お帰りなさい。皆さんお怪我はありませんか?」
 エラがミルドレッドに報告する。
「雨足が強くなってきたので早めに切り上げて帰ってきました。明日また張り込みます」
 するとニナがケフィの手柄を褒め称えた。
「すごいんですよミルドレッド様!ケフィがだれにも教わってないはずの稲妻の言霊を使って、敵を殲滅したんです!この子超すごいですよ!ねー、ケフィ?」
「や、そんな大したものでは……」
 ミルドレッドは驚いた。確かに稲妻の古霊のことは教えた記憶がない。
「へー、どうやって稲妻の言霊のこと覚えたの?」
「毎日のお祈りの時に、たまたまお堂にご霊体があったのを覚えてました。それで適当に……」
 それにベルが食いついてケフィを褒めた。
「すごいじゃないですかケフィさん!適当にできるものじゃないですよ!すごいです、尊敬します!」
 いつになく元気よく食いついて黄色い声を出すベルに、ケフィ以外の皆が驚いた。ケフィは素直に喜ぶ。
「ありがとうベルさん。僕、頑張りました」
「疲れたでしょう?私、いつもより沢山ご飯作ったので、いっぱい食べてくださいね!」
 ガイも驚きの呟きを漏らす。
「ベルちゃんあんな声出たんだね」
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