第一章 奇跡使いと言霊使い

「ちょうどいいわ。あなたのエプロン隠してくるから、さっきの言霊で探し出してきなさい」
 ミルドレッドはそういうと、庭の隅に置かれていたエプロンを隠しにどこかへ行き、ほどなくして戻ってきた。
「エラに隠してもらったわ。さっきの言霊を使ってごらん」
「は、はい!『 光の古霊ルクスよ、我の大切なエプロンの在り処に導き給え』!」
 すると小さな光の玉が、虫の羽を生やした妖精のような姿になり、ケフィを手招いた。
 妖精についていくと、ダイニングルームに導かれ、冷蔵庫の中を示された。ケフィが冷蔵庫を探すと、なるほど、中に丸められたエプロンが押し込まれ冷やされていた。エプロンを取り出すと、光の古霊ルクスはパッと消えてしまった。
 ダイニングルームでケフィを見ていたエラとニナは、拍手して称えた。
「やるじゃない!まあ、簡単よね」
 ケフィはえへへとはにかんだ。
「ミルドレッド様、見つかりました!」
 ケフィが戻ると、ミルドレッドもそれを称えた。
「よくできました。それじゃ、いくつか基本的な言霊を教えるから、そのノートにメモして、しっかり覚えなさい」
 ケフィはみるみる習得していった。人殺し、呪いなど、あまり気持ちよくない言霊が多かったが、その性格上仕方がないのでメモを取る。一方で、恋愛成就の言霊や、病気治癒の言霊には傍線を引いてしっかりマークしておいた。どちらかといえば、そういった気分がよくなる、役に立つ言霊を使えるようになりたい。
「じゃあ、ぬいぐるみに言霊を込める作業を教えるわよ」

 ミルドレッドは作業場にケフィを連れていくと、今までチクチク作り続けていたぬいぐるみを古霊別に分類して、言霊を唱え始めた。ミルドレッドの唱えた言霊は、例の言霊のリボンを作り、ぬいぐるみに侵入すると、淡い光を放って浸み込んだ。
「このぬいぐるみはお客さんに販売しているわ。いつもこの道場で販売してたらきりがないから、委託販売してるお店に置いてもらってるんだけど。見たことない?古霊ショップ」
 ケフィは首を横に振った。我ながら、奇跡使いも言霊使いのことも、全然知らなかった自分が恥ずかしい。
「まあいいわ。これからあたしの車に積み込んで、委託先に納品してくるから、ちょうどいいからあなた、このぬいぐるみに言霊を込めてごらんなさい」
 全30種類。だが、よく売れるのはその半分だという。十数種類の言霊を読み上げ、ぬいぐるみに込めると、全部終わったころにはヘトヘトに精神が疲弊していた。
「よくできました。うん、ちゃんとよくできてるわ。お疲れ様。じゃあ、ガイと三人で納品しに行くわよ」
 なんだかテンパランスのところでも同じようなことをやったばかりのような気がする。しかしこれが奇跡使いと言霊使いの日常なのだ。
20/34ページ
スキ