第一章 奇跡使いと言霊使い

 そんな話をしていると、エラとニナがダイニングルームにやってきた。
 ケフィと親しげに話すベルの姿を見るなり、エラはベルにきつく当たった。
「何油売ってるのベル!あなたの仕事はほかに沢山あるでしょう?お堂の掃除は終わったの?」
「す!すみません!」
 ベルは話半分で飛び上がり、いそいそと足元の掃除用具を手に取り、部屋から出ていった。
「何の話してたの~?」
 ニナが、先ほどまでベルが座っていた椅子に座って聞いてきた。
「え、あ、こ、言霊ってどんなものがあるんですかって…」
「そんなのこれからいくらでも使えるようになるわよ、あなたのやる気があればね」
 エラが冷たく言い放った。
 ニナがこっそりケフィに耳打ちしてきた。
「あんまりベルと仲良くしないほうがいいよ。あの子、自分は言霊使えない癖に口ばっかりだから」
 ケフィは少しむっとした。笑いながら人を殺せるニナに、ベルやケフィの葛藤が解るわけがないと思った。
「なんでそんなこと言うんですか。ベルさんは守護古霊が視えるじゃないですか。彼女にだって言霊は使えますよ」
「使えない使えない。何か言いたいことあるの?って聞いても、なーんにも言えないの。ブツブツ言ってはっきりしなくて。うざいし暗いんだよね。あんな子に構ってると成長できないよ」
 ニナがベルを馬鹿にすると、エラは苛立ちをあらわにした。
「あたしベル大っ嫌い。イライラするの。あたしたちの修行の邪魔になるから、あの子にはなるべく視界に入ってほしくないわ。私はミルドレッド様に次ぐ言霊使いになりたい。だからああいう子が仲間にいると、邪魔なのよね、はっきり言って」
「あ、ねえねえ、何の紅茶飲んでるの?アップルティー?私も飲みたい!ケフィもお茶のおかわりいる?」
 ニナが気分を変えようと、茶器を用意して湯を沸かした。
 ケフィの心はもやもやしていた。ベルはきっとそんなに悪い人ではない。エラとニナに邪魔されて、言霊使いとして成長できないのだろうとしか思えなかった。
 やはりケフィは、エラとニナに苦手意識がぬぐえなかった。もっとベルと話してみたい。きっとベルは駆け出しのケフィの気持ちを汲んで、いい話し相手になってくれそうだ。
 何とはなしにダイニングルームの出入り口に目をやると、ベルが恨みがましい目をしてこちらを睨んでいた。
 ケフィと目が合ったことに気づくと、ベルはさっと顔を背け、どこかへ走り去っていった。
 と、そこへミルドレッドがやってきた。
「ここにいたのね、ケフィ。庭においで。あなたに言霊の基本を教えてあげるわ」
 先ほどのベルの励ましのおかげで元気づけられたケフィは、胸に希望を抱いて元気よく応えた。
「はい、ミルドレッド様!」
18/34ページ
スキ