第一章 奇跡使いと言霊使い
と、不意にベルが口を開いた。
「ケフィさんの守護古霊は、テンペスタスではないと思います。もっと古の、名前も忘れられたような古い古霊」
エラが面白くなさそうにベルに突っかかった。
「なによ、じゃあなんていう名前の古霊か判るの?言ってみなさいよ」
棘のある言い方に、ベルは委縮し、「そこまではわかりません……」と、蚊の鳴くような声で呟いた。
ミルドレッドは少し思案すると、
「ちょっと古い文献で調べてみるわ。もしかしたらケフィはすごい力を持っているかもしれない。あなた、言霊使いになるべくして生まれたのよ。自信持ちなさい」
と、ケフィを励ました。
ダイニングルームで紅茶をすすりながら、ケフィは今朝の夢のこと、昨夜の仕事ことを思い出し、これから先どうすればいいか、一人悩んでいた。
と、そこへベルがやってきた。掃除用具を持っているところから見て、屋敷の掃除の途中なのだろう。
「あ、ここ、掃除しますか?」
ケフィが椅子から立ち上がろうとすると、ベルは、
「あ、掃除は終わったんです。気にしないで。そのまま寛いでてください」
と、ケフィを気遣った。
ケフィはふと疑問に思って、ベルに訊いた。
「ベルさんってここのメイドさんなんですか?」
ベルは一瞬傷ついたような顔をしたが、苦笑いをして答えた。
「そう思われても無理はないですよね。違いますよ、最初は言霊使いになろうとして、弟子入りしたんです」
「え、じゃあどうしてそんな雑用ばっかり……」
「私、言霊がうまく使えないから」
ベルは掃除用具をテーブルの足元に置いて、ケフィの隣に座った。
「最初、入門したばかりのころは言霊は使えたんです。でも、怖くなっちゃって、それから言霊が使えなくなりました。言いたいこと、つまり、言葉を言霊にすること、それ自体が怖くなっちゃって、言いたいことも言えなくなりました」
今のケフィには痛いほどよくわかる。言霊は怖い。奇跡のようにキラキラして綺麗で鋭いものではない。もっとドロドロしていて、醜い力だ。
「僕も今、ちょうどそんな気分です。昨日の夜のミッションで、人が死ぬところを見てしまって、なんて怖い力だろうと思いました。今は言葉を喋ることも、少し怖いです」
ベルはぱあっと明るい顔をした。
「そうなんです、私もそうなんです。言霊が怖い。言霊って、こんな怖いことにしか使えないのかしらって思ったら、怖くて使えなくなりますよね」
「言霊って、もっと綺麗で人道的な使い道ってないんですか?願いを叶える、みたいな、人の怪我を治す、みたいな」
ケフィは母の体を治すために奇跡の力にすがったのだ。それが自分は奇跡使いではなく言霊使いだということが分かったわけだが、同じまじない使いなら、理想を実現する可能性がどこかにあるに違いない。人を殺すだけが言霊ではないだろう。何かいい効果があればこそ、人は古霊に祈りを捧げ感謝し崇拝するのではないだろうか。
「無いわけじゃないですよ。恋を叶える言霊や、失くし物が出てくる言霊なんかもあります。人を殺したり攻撃するばかりが言霊じゃないですよ」
それを聞いて、ケフィの心に希望が芽生えた。
「そうなんですね!わあ!じゃあ、僕、そんな言霊をいっぱい使えるようになりたいです!なんか希望が持てました!」
「ケフィさんの守護古霊は、テンペスタスではないと思います。もっと古の、名前も忘れられたような古い古霊」
エラが面白くなさそうにベルに突っかかった。
「なによ、じゃあなんていう名前の古霊か判るの?言ってみなさいよ」
棘のある言い方に、ベルは委縮し、「そこまではわかりません……」と、蚊の鳴くような声で呟いた。
ミルドレッドは少し思案すると、
「ちょっと古い文献で調べてみるわ。もしかしたらケフィはすごい力を持っているかもしれない。あなた、言霊使いになるべくして生まれたのよ。自信持ちなさい」
と、ケフィを励ました。
ダイニングルームで紅茶をすすりながら、ケフィは今朝の夢のこと、昨夜の仕事ことを思い出し、これから先どうすればいいか、一人悩んでいた。
と、そこへベルがやってきた。掃除用具を持っているところから見て、屋敷の掃除の途中なのだろう。
「あ、ここ、掃除しますか?」
ケフィが椅子から立ち上がろうとすると、ベルは、
「あ、掃除は終わったんです。気にしないで。そのまま寛いでてください」
と、ケフィを気遣った。
ケフィはふと疑問に思って、ベルに訊いた。
「ベルさんってここのメイドさんなんですか?」
ベルは一瞬傷ついたような顔をしたが、苦笑いをして答えた。
「そう思われても無理はないですよね。違いますよ、最初は言霊使いになろうとして、弟子入りしたんです」
「え、じゃあどうしてそんな雑用ばっかり……」
「私、言霊がうまく使えないから」
ベルは掃除用具をテーブルの足元に置いて、ケフィの隣に座った。
「最初、入門したばかりのころは言霊は使えたんです。でも、怖くなっちゃって、それから言霊が使えなくなりました。言いたいこと、つまり、言葉を言霊にすること、それ自体が怖くなっちゃって、言いたいことも言えなくなりました」
今のケフィには痛いほどよくわかる。言霊は怖い。奇跡のようにキラキラして綺麗で鋭いものではない。もっとドロドロしていて、醜い力だ。
「僕も今、ちょうどそんな気分です。昨日の夜のミッションで、人が死ぬところを見てしまって、なんて怖い力だろうと思いました。今は言葉を喋ることも、少し怖いです」
ベルはぱあっと明るい顔をした。
「そうなんです、私もそうなんです。言霊が怖い。言霊って、こんな怖いことにしか使えないのかしらって思ったら、怖くて使えなくなりますよね」
「言霊って、もっと綺麗で人道的な使い道ってないんですか?願いを叶える、みたいな、人の怪我を治す、みたいな」
ケフィは母の体を治すために奇跡の力にすがったのだ。それが自分は奇跡使いではなく言霊使いだということが分かったわけだが、同じまじない使いなら、理想を実現する可能性がどこかにあるに違いない。人を殺すだけが言霊ではないだろう。何かいい効果があればこそ、人は古霊に祈りを捧げ感謝し崇拝するのではないだろうか。
「無いわけじゃないですよ。恋を叶える言霊や、失くし物が出てくる言霊なんかもあります。人を殺したり攻撃するばかりが言霊じゃないですよ」
それを聞いて、ケフィの心に希望が芽生えた。
「そうなんですね!わあ!じゃあ、僕、そんな言霊をいっぱい使えるようになりたいです!なんか希望が持てました!」