第一章 奇跡使いと言霊使い
翌朝。日の出の時間からドアを叩かれ叩き起こされて、ケフィは眠たい目をこすり、ダイニングルームに出てきた。すると、昨夜あんな遅い時間に解散となったというのに、エラもニナもベルもミルドレッドも、ビシッと身なりを整えて待っていた。
「遅いわよケフィ。さあ、祈りの時間よ。ついてきなさい。説明するわ」
連れ出されてやってきたのは屋敷の離れのお堂だ。
「私の屋敷は、ほかの言霊使いと違って、敷地内に古霊のお堂を備えてるの。他の言霊使いも祠を持っていたりするけど、ご霊体はせいぜい10体もいないわ。私の事務所のお堂には30体のご霊体が祀られてる。古霊道の聖地は別として、言霊使いが個人で所有してるお堂としては世界最大よ」
ミルドレッドがそう説明すると、ケフィは素朴な疑問を投げかけた。
「古霊って全部で何人ぐらいいるんですか?」
「そうね、封じられた凶悪な古霊も何体かいると聞くから、正確な数はわからないけど、現在信仰されている古霊は50体ぐらいいらっしゃると聞くわ。封じられた古霊をまとめた禁呪の本がどこかにあるといわれてるから、その中に封じられてたり、個人的にお祀りされてる古霊も含めると100はいるんではないかという研究報告もあるわね。」
古霊はそれぞれが人格と名前を持った存在である。精霊神のように世界中のあちこちに潜んで活動しているようなものではなく、一体一体が信仰の対象として独立しているもので、その高次の霊体との交信の手段として、「ご霊体」と呼ばれる偶像を崇拝するのだという。
「さ、中に入ってお参りするわよ。失礼のないようにね。先輩弟子のやることをよく見て、覚えなさい」
言われたとおり、ケフィは一番後ろからついていき、ミルドレッド、エラ、ニナ、ベルのやることをよく観察して、そのしきたりを真似た。
お堂の中には一体一体名前の添えられた偶像が祀られていた。蛇のようにくねくね曲がる細道の両側に祀られた偶像を、右を向いて祝詞をあげ、左を向いて祝詞をあげ、一歩進んでまた右を向いて祝詞、左を向いて祝詞、を繰り返す。
30体に祈りを捧げ終る頃には喉がカラカラになっていた。
「これを今夜も陽が沈む前にやるわよ。朝日が昇ってから一時間以内、陽が沈む一時間以上前に毎日やるの。外出先で祈りが捧げられない時は、人形を肌身離さず持ち歩いて、その人形に祈りを捧げるわ」
女ばかりの宗教という華やかに見える古霊道だが、精霊神教に劣らぬほどなかなかに厳しい戒律である。ケフィはすっかり打ちのめされていた。
しかし自分は古霊に祝福された存在である。この戒律に従って、早く一人前の言霊使いにならなければ。厳しい顔つきでこちらを睨むご霊体の偶像を見て、気持ちを引き締めるケフィだった。
「遅いわよケフィ。さあ、祈りの時間よ。ついてきなさい。説明するわ」
連れ出されてやってきたのは屋敷の離れのお堂だ。
「私の屋敷は、ほかの言霊使いと違って、敷地内に古霊のお堂を備えてるの。他の言霊使いも祠を持っていたりするけど、ご霊体はせいぜい10体もいないわ。私の事務所のお堂には30体のご霊体が祀られてる。古霊道の聖地は別として、言霊使いが個人で所有してるお堂としては世界最大よ」
ミルドレッドがそう説明すると、ケフィは素朴な疑問を投げかけた。
「古霊って全部で何人ぐらいいるんですか?」
「そうね、封じられた凶悪な古霊も何体かいると聞くから、正確な数はわからないけど、現在信仰されている古霊は50体ぐらいいらっしゃると聞くわ。封じられた古霊をまとめた禁呪の本がどこかにあるといわれてるから、その中に封じられてたり、個人的にお祀りされてる古霊も含めると100はいるんではないかという研究報告もあるわね。」
古霊はそれぞれが人格と名前を持った存在である。精霊神のように世界中のあちこちに潜んで活動しているようなものではなく、一体一体が信仰の対象として独立しているもので、その高次の霊体との交信の手段として、「ご霊体」と呼ばれる偶像を崇拝するのだという。
「さ、中に入ってお参りするわよ。失礼のないようにね。先輩弟子のやることをよく見て、覚えなさい」
言われたとおり、ケフィは一番後ろからついていき、ミルドレッド、エラ、ニナ、ベルのやることをよく観察して、そのしきたりを真似た。
お堂の中には一体一体名前の添えられた偶像が祀られていた。蛇のようにくねくね曲がる細道の両側に祀られた偶像を、右を向いて祝詞をあげ、左を向いて祝詞をあげ、一歩進んでまた右を向いて祝詞、左を向いて祝詞、を繰り返す。
30体に祈りを捧げ終る頃には喉がカラカラになっていた。
「これを今夜も陽が沈む前にやるわよ。朝日が昇ってから一時間以内、陽が沈む一時間以上前に毎日やるの。外出先で祈りが捧げられない時は、人形を肌身離さず持ち歩いて、その人形に祈りを捧げるわ」
女ばかりの宗教という華やかに見える古霊道だが、精霊神教に劣らぬほどなかなかに厳しい戒律である。ケフィはすっかり打ちのめされていた。
しかし自分は古霊に祝福された存在である。この戒律に従って、早く一人前の言霊使いにならなければ。厳しい顔つきでこちらを睨むご霊体の偶像を見て、気持ちを引き締めるケフィだった。