第一章 奇跡使いと言霊使い

 ガイの運転する赤いスポーツカーに荷物を積み込み、三人はミルドレッドの屋敷へと車を走らせた。
「今日の飯なんだろう?ベルちゃん何作ってくれてるかな~」
「あんたに食わすごはんなんかないわよ。あたしたちを降ろしたらさっさと帰んなさい」
「ひど!ご飯ぐらいいいだろ~?それとも俺がキャバクラ行ってきてもいいの?」
「行きたいなら行けば?」
「またまた~。行ったら行ったで怒るくせに」
 夫婦漫才のように話すミルドレットとガイは、一体どんな関係なのだろう。テンパランスとアルシャインは禁欲生活をしていたから何でもない関係だったのだろうけれど、話の雰囲気からして、恋人同士なのだろうか。言霊使いは禁欲しなくていいのだろうか。訊いてみたい気もするが、さすがにずけずけ訊くのははばかられた。
 黙したまま車に揺られて、ケフィはミルドレッドの屋敷に着いた。
「お帰りなさい、ミルドレッド様!ガイさん!」
 屋敷の玄関で出迎えたのは、なるほど可愛い女性が二人。
「紹介するわ、ケフィ。この子が一番弟子のエラ。一番優秀な言霊使いよ。この子は三番目の弟子のニナ。まだまだ駆け出しってとこね。エラ、ニナ、紹介するわ。この子はケフィ。テンパランスの事務所にいたんだけど、言霊使いだったからヘッドハンティングして連れてきたわ。今日からこの屋敷で修業するから仲良くしてあげて」
 金髪の癖毛を肩で切り揃えた、ちょっときつい印象のある女性がエラ。茶髪を頭の高い位置でポニーテールにした、人懐っこそうな女性がニナと紹介された。
「初めまして……ケフィです。よろしく……」
 エラとニナは驚いた。ヘッドハンティングしてきたというが、少年ではないか。
「えー!?うっそーー!!男の子?男の子なのに言霊使えるの?」
「きゃー!可愛いじゃない!よろしくねー!いくつ?16歳?若ーい!お姉さんたちが優しく教えてあげるから、安心してね!」
 ものすごい食いつきで出迎えられた。ケフィは内心後悔した。イオナのテンションにも苦手意識があったのに、イオナよりもキャッキャした女性が何人もいるところなんて、地獄だ。本当にこんな環境で修業をするのか……。先が思いやられる。
「ねえねえ、俺の分のご飯ある?」
 ガイが呑気に訊くと、エラとニナは、
「ガイさんの分はありますけど、その男の子の分は用意してなかったかな。すぐに用意しますね!大丈夫。全員分ありますよ!」
「椅子どうしよう。余ってる椅子あったかな?」
「あの辞めてった子の分はあったじゃない?」
 と、騒がしく奥へと駆けていった。
「五月蠅くてゴメンねケフィ。まあ、しばらくすれば慣れるわよ。さ、上がって」
 ミルドレッドに促され、荷物のバッグを両手に抱え、ケフィは屋敷に足を踏み入れた。
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