第一章 奇跡使いと言霊使い

 ケフィはアルシャインの背後からコソコソと訊いた。
「この人たち誰なんです?」
 気配を消していたはずだったが、ケフィの存在がミルドレッドに気づかれてしまった。
「あら?その子誰?見ない顔ね。新入り?」
 ケフィはびくっと肩を竦め、アルシャインの陰に隠れると、子供のように彼の陰から窺った。
 テンパランスが冷静に説明する。
「そうよ、1~2週間前から新しく入門した弟子、ケフィよ。ケフィ、出てきなさい」
 ケフィは仕方なく、怖々アルシャインの陰から出てくると、「ケフィ・スクートです。初めまして……」と名乗った。
「初めましてケフィ。あたしは世界最強の言霊使い・ミルドレッド・ジラ・カリーニョ様よ。ミルドレッド様とお呼び。向こうで車に乗ってるのはガイ。あたしの足」
「ひどっ!もっとマシな紹介してくれよ」
「他に表立って説明できる?」
「まあ……そうだな」
 簡単に説明されてしまったガイだったが、何か裏のありそうな紹介だ。
「その、ケフィは結構使える奇跡使いなの?」
 ミルドレッドがケフィに興味を持ったようなので、テンパランスは内心ほっとした。言いがかりでガミガミ言い続けられるのはもううんざりしていたからだ。それに、ケフィに関しては少し気になることがある。ミルドレッドに聞いてみてもいいだろう。
「それが、力の発現がうまくいかなくて、たまに力を使うみたいなんだけど、どうも奇跡とは違う力を使うみたいなのよ。それが少し気になってる」
「奇跡とは違う力……?」
 ミルドレッドは眉根を寄せ、じーっとケフィを凝視した。ケフィはその鋭い眼光に、堪らず目を泳がせる。
「男の子よね?」
「そうね」
「うーん」とミルドレッドが腕組みしてしばし考えると、ケフィに、「アルシャインから離れて立ちなさい」と言った。
 ケフィが少しアルシャインから距離をとると、「もっと!もっと!」と、大分距離を離させる。
「ケフィ、今からあたしが言うことを復唱しなさい」
「は……はい……?」
「陽の光に大地の奥に、竈の中におわします、炎を司りし古霊・フランマよ!」
「ひのひかりに、だいちのおくに?かまどのなかにおわします……炎を司りしこれい、ふらんまよ」
「今こそ我にその力を与え給え!火柱よ巻き起これ!」
「今こそ我にその力を与え給え、ひばしらよ巻き起これ」
 すると、ケフィとミルドレッドの間に、巨大な火柱が燃え上って消えた。
「やはり言霊使いだったのね、あなた」
 テンパランスはそれを見て、ずっと頭を悩ませていた疑問が解け、はたと手を打った。
 ケフィは驚いて声も出ない。
「あたしは何もやってないわよ。今の火柱はあなたが出した古霊の力。おめでとう。あなた立派な言霊使いだったのね」
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