ダリオ編

なんということでしょう。こんなところで、こんな形で、旧友と再会するなんて……!
「しばらくは合唱団にいたんですか?みんなはどうなりました?」
「ああ、あいつらの半分はカストラートにされたよ。そして生き残ったのはほんの一握りだ。みんな傷が化膿して病気になって死んじまった。あんた、生き残ったのは奇跡だったんだよ。あんたの親は、きっと、すげえお前を愛して、手を尽くしてくれたんだよ……!」
私は、愚かでした。そのとき初めて私は、母から愛されていたことを知りました。
ダリオはきっと、吟遊詩人になることも出来ないのでしょう。きっと、この道を歩むことしか出来ないのでしょう。
熱狂的な音楽の流行、この風潮に流されて、多くの人々が命を落とし、人生を狂わされてきました。
成功すれば巨万の富。失敗すれば生き地獄。運命は斯くも残酷なものなのでしょうか。
私は沢山の奇跡に感謝しなければならないと、彼に教わりました。
いつかこの哀しい男達の話も、歌にして広めなければならないでしょう。
多分それが、私が吟遊詩人になった意味なのでは無いでしょうか。

昼下がりの中央広場に、今日も沢山の人が足を止めてくださいました。
「今日から新しい話をしてくれるんだったろ?」
「新作かい?昔話かい?あんたの新作が聴きたいよ。昔話はうんざり」
「王子様とお姫様が出てくる話がいいわ。なにかないの?ときめきが欲しーい……」
「そんな話は聞き飽きたよ、異国の話がいいな。金銀財宝を探し求める異国の大冒険だ!」
皆さん口々にリクエストしてくださるのですが、私はもうお話しする物語を決めていました。五年間暖め続けていた、とびっきりの新作です。
「今日からお話しするのは、昔話か、新作か、それは皆さんのご想像にお任せします。それでは始めます。丘の魔王の物語。……むかーしむかし、誰も近寄れないくらい茨の生い茂った丘の上に、もう何十年も人の住んでいない古ーいお城がありました……」


Fine.
7/7ページ
スキ