ダリオ編

私はある日、合唱団を休み、母に連れられて馴染みの理容室を訪れました。私は髪を切られるものだと思っておとなしくついていったのですが、この日の理容室は様子が違いました。
いつも散髪される部屋から奥に通され、寝台に寝かされると、両手足と胴体を寝台に縛り付けられたのです。何事が起きたのかわからず、恐怖を感じて私が母に助けを求めると、母は理容師と何か話し込んでいました。
私が一瞬泣き止み、その様子に気を取られた時、私の耳に、母の言葉が聞こえてきました。
「お金はいくらでも出します。絶対に失敗しないで」
確かにそう発音していたと記憶しています。
そして理容師は、私に何か葉っぱを噛ませました。たちまち私の意識が濁ってきて、居眠りをしかけた時です。股間に激痛を感じました。気の狂いそうな激痛でした。
思うに、私は当時貴重だった麻酔の薬草を噛まされ、手術の痛みを散らして安全に手術される予定だったのだろうと思います。
しかし、麻酔が行き渡るよりも私が眠り始めたのが随分先に来たので、理容師は判断を誤ったのでしょうね。麻酔の効いていない私にメスを入れたものですから、私が暴れ、手元が狂ったのでしょう。私の股間の傷は思いのほか大きなものになってしまいました。
私は泣き叫び暴れましたが、やがてすうっと気を失いました。それが麻酔のせいだったのか、痛みのせいだったのか、今では判りませんが。

どのくらい眠ったのでしょう。気がつくと私は自宅のベッドの上でした。相変わらず股間は激しく痛んでズキズキと脈を持っていました。私は泣き叫びました。一体何をされたのかわかりませんでしたが、ひどい仕打ちをされたことはわかりました。私は母を、理容師を憎みました。股間があまりに痛いので、数日はベッドから起き上がれず、歩くことも出来ず、しまいには高熱に浮かされて寝込み続けました。
私が日に日に死にかけてゆくのを見て、ようやく母も自分の犯した罪の重さを理解したようでした。知らない大人達が私に薬を飲ませ、痛む股間をいじくり回し、母はいつも遠巻きに部屋の入り口でその様を見つめていました。そして口癖のように「ごめんなさい。でもあなたの為なのよ」と繰り返していました。
そんな毎日が耐えきれなかった私は、熱が下がったある夜、部屋を抜け出して家を出ました。
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