【番外】ちいさなこいのうた
楽しい時間は一瞬で過ぎ去ってしまうもので。車が自宅に着くと、葵とギンモクセイは姫と執事に戻ってしまう。名残惜しい葵は、最後のクリスマスの我侭を言った。
「ギンモクセイ。今夜、私、ギンモクセイの部屋で寝てもいいかしら?」
驚いたのはギンモクセイだ。一体葵はどうしてしまったのだろう。今日は妙にべったり甘えてくる。主人である葵の言うことだ。逆らうつもりはないが、少々疑問に思う。
「どうかなさったのですか、姫?何か悩みがあって、このギンモクセイをお頼りなのですか?」
「そ、そいうのでは……」
「姫が寂しくて眠れないというのでありましたら、添い寝申し上げますが」
「うん……」
風呂から上がり、ギンモクセイの部屋に行くと、ギンモクセイはベッドで本を読んで待っていた。
葵が布団に潜り込むと、ギンモクセイは葵に腕枕をし、枕もとの明かりを落とす。
「おやすみなさいませ、姫」
「おやすみなさい、ギンモクセイ」
ギンモクセイの大きな胸に抱かれ、逞しい腕に包まれ、暖かくて、大人の男の匂いがして、葵は一層熱っぽくなった。とても眠れそうにない。
それに、こんな年ごろの娘に添い寝をお願いされたら、如何なギンモクセイといえど、理性も木っ端みじんに吹き飛ぶはず。
襲われてしまったらどうしよう。初恋で処女を失うのか。
今か今かと期待に胸を膨らませる葵だったが。
ギンモクセイが寝息を立て始めた。
「ギンモクセイ!」
「は?!姫?いかがなさいました?!」
「貴方、私が傍にいるというのに、何も、無いの?」
「何も、と、申しますと?」
葵はもう、期待しても無駄だと思ったので、思い切って告白することにした。
「ギンモクセイ、私、貴方のことが好き!だから、私を襲いたければ、食べてくださっていいのよ?」
ギンモクセイは半身を起こし、葵に向き直った。
「姫、私は執事です。主人である姫をどうこうすることは、許されないのです」
しかし葵とて、そんなことは解りきっている。
「じゃあ、姫としてではなく、執事としてではなく、男と女として、私のことはどう思っているの?」
ギンモクセイは正直に言う。
「男と女としては、別段何も思うところはありません。私はあくまでも、姫の執事です」
それを聞いて、葵はくしゃくしゃに顔を歪ませた。視界が涙でぼやけてくる。
「そんな……。レストランで、私のことを好きだと言ってくれたのは、あれは嘘だったの?」
「嘘ではありません。私は姫のことが大好きですよ。ですが、劣情を抱いているわけではありません。人として、好きです」
「そんな、そんな情けは要らないわ!私は、ただあなたと両思いになりたいだけなのに!」
うわあんと声を上げて泣く葵に、ギンモクセイは一つ溜息をつき、瞳をくるりと回した。そして、ベッドから降りて机の上にあった小さな包みを持ってくると、葵に手渡した。
「ギンモクセイ。今夜、私、ギンモクセイの部屋で寝てもいいかしら?」
驚いたのはギンモクセイだ。一体葵はどうしてしまったのだろう。今日は妙にべったり甘えてくる。主人である葵の言うことだ。逆らうつもりはないが、少々疑問に思う。
「どうかなさったのですか、姫?何か悩みがあって、このギンモクセイをお頼りなのですか?」
「そ、そいうのでは……」
「姫が寂しくて眠れないというのでありましたら、添い寝申し上げますが」
「うん……」
風呂から上がり、ギンモクセイの部屋に行くと、ギンモクセイはベッドで本を読んで待っていた。
葵が布団に潜り込むと、ギンモクセイは葵に腕枕をし、枕もとの明かりを落とす。
「おやすみなさいませ、姫」
「おやすみなさい、ギンモクセイ」
ギンモクセイの大きな胸に抱かれ、逞しい腕に包まれ、暖かくて、大人の男の匂いがして、葵は一層熱っぽくなった。とても眠れそうにない。
それに、こんな年ごろの娘に添い寝をお願いされたら、如何なギンモクセイといえど、理性も木っ端みじんに吹き飛ぶはず。
襲われてしまったらどうしよう。初恋で処女を失うのか。
今か今かと期待に胸を膨らませる葵だったが。
ギンモクセイが寝息を立て始めた。
「ギンモクセイ!」
「は?!姫?いかがなさいました?!」
「貴方、私が傍にいるというのに、何も、無いの?」
「何も、と、申しますと?」
葵はもう、期待しても無駄だと思ったので、思い切って告白することにした。
「ギンモクセイ、私、貴方のことが好き!だから、私を襲いたければ、食べてくださっていいのよ?」
ギンモクセイは半身を起こし、葵に向き直った。
「姫、私は執事です。主人である姫をどうこうすることは、許されないのです」
しかし葵とて、そんなことは解りきっている。
「じゃあ、姫としてではなく、執事としてではなく、男と女として、私のことはどう思っているの?」
ギンモクセイは正直に言う。
「男と女としては、別段何も思うところはありません。私はあくまでも、姫の執事です」
それを聞いて、葵はくしゃくしゃに顔を歪ませた。視界が涙でぼやけてくる。
「そんな……。レストランで、私のことを好きだと言ってくれたのは、あれは嘘だったの?」
「嘘ではありません。私は姫のことが大好きですよ。ですが、劣情を抱いているわけではありません。人として、好きです」
「そんな、そんな情けは要らないわ!私は、ただあなたと両思いになりたいだけなのに!」
うわあんと声を上げて泣く葵に、ギンモクセイは一つ溜息をつき、瞳をくるりと回した。そして、ベッドから降りて机の上にあった小さな包みを持ってくると、葵に手渡した。